Wednesday, November 13, 2024

ヘイト・クライム禁止法(212)モルドヴァ

ヘイト・クライム禁止法(212)モルドヴァ

 

モルドヴァが人種差別撤廃委員会CERD112会期に提出した報告書(CERD/C/MDA/12-14. 29 September 2020

前回報告書について『原論』三九一頁

前々回報告書について『序説』五七三頁及び六一三頁

内務大臣は、憎悪と偏見を動機とする犯罪を防止するため、刑法第三四六条改正案を作成した。刑法第三四六条(民族、人種、宗教憎悪の煽動を目的とする意図的行為)は、「偏見に基づく暴力煽動行為」を処罰し、すべての刑事法における「民族、人種、宗教憎悪」を「偏見」という用語に修正する。刑法第一三四条一項で、偏見概念を「現実の、又は想像上の、人種、皮膚の色、民族又は社会的出身、市民権、性別、ジェンダー、言語、宗教又は宗教的信念、政治的見解、障害、性的指向、ジェンダー・アイデンティティ、健康、年齢又は家族の地位に基づいて、犯行者が抱いた意見」と定義する。その行為が、保護された属性に合致する人に向けられたか、財産等に向けられたかを問わない。偏見動機による行為の実行は、刑事犯罪の刑罰加重事由である。

刑法改正は、二〇一六年一二月八日、国会の第一読会で採択された。司法大臣は、改正刑法が国際基準に適合するかを確認するため、OSCE民主制度・人権事務局による専門的チェックを要請した。二〇一九年四月二六日、同事務局は、刑法改正は諸勧告に基づいて行われたと確認した。

平等委員会の見解によると、刑法第三四六条第二項により、平穏な抗議行動、学術教育の文脈で行われた行為には法適用がなされないと言う。

二〇一九年九月二四日、司法大臣は改正案を国会の人権委員会及び法務委員会に提出し、同年一〇月二ニ日、両委員会が法案を審議した。審議の結果、刑法第三四六条第二項の削除勧告がなされた。理由は、主要規定の適用範囲を狭めるうえ、解釈に曖昧さをもたらし、偏見動機による行為の規制が不可能となってっしまうからである。もう一つの提案として、政治的権利、労働権、その他の憲法上の権利の侵害に関連して、犯罪に該当しない項目を新設することが勧告された。しかし、国会は刑法改正の採択に至らなかった(*報告書提出後の二〇二ニ年に刑法改正が実現した)。

二〇一九年一〇月一五日から一一月一六日まで、平等委員会は、民衆擁護局とともに、ソーシャルメディアで「ステレオタイプや偏見から自由なモルドヴァ」「ヘイト・スピーチから自由なモルドヴァ」というスローガンコンテストを行った。

民衆擁護局、民族間関係局、平等委員会は、一連のリーフレットを、各言語で出版した。老人の基本権、健康権、社会保障権に関するリーフレットはルーマニア語、ロシア語、ガゴーズ語、民族マイノリティの権利促進保護リーフレットをルーマニア語、ウクライナ語、ガゴーズ語、ロシア語、ブルガリア語。

報告書の対象期間に検察庁はヘイト・クライム事案を捜査していない。捜査当局は捜査を実施した場合、申立人や関係機関に通知しなければならない。犯罪の要素を満たしていれば、ヘイト・クライムでない場合も、刑事手続きを進め、捜査を行わなければならない。捜査に着手した場合、検察はすべての刑事事件を記録しなければならない。

検察庁は二〇一七年一〇月一二日、被害者や当事者に刑事手続きに関する権利や義務を通知するため、通達第一五・一を出した。刑事訴訟法や犯罪被害者リハビリテーション法にも続いて文書で通知する。

二〇一九年九月から一〇月、テレヴィラジオ委員会は選挙運動中のメディア調査を行った。憎悪や差別煽動事案は確認されなかった。

人種差別撤廃委員会はモルドヴァに次のように勧告した(CERD/C/MDA/CO/12-14. 23 May 2024)。

*

二〇二ニ年四月二一日の刑法及び軽犯罪法改正を歓迎する。刑法第三四六条のもとでヘイト・スピーチ、人種差別の煽動、ヘイト・クライムの禁止、軽犯罪法第七〇一条のもとで人種差別の煽動の禁止、及び人種主義動機の刑罰加重事由化が実現した。

しかし、立法の枠組みには、人種的優越性に基づく思想の流布や、差別の煽動のような、

条約第四条に合致した人種主義ヘイト・スピーチとヘイト・クライムの明白な犯罪化規定が含まれていない。また、条約第一条の差別の理由のすべてを含んでいない。人種差別、ヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムが広がっているとの報告がある。人種差別やヘイト・スピーチを適切に認知し、捜査を行っているという報告が十分でない。二〇二ニ年と二〇二さん円の間に裁判で有罪とされたヘイト動機犯罪は一一件にすぎない。地方において政治家が人種主義ヘイト・スピーチを行っている。メディアやインターネット上でヘイト・スピーチが拡散しているのに監視する手段が欠けている。人種差別やヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムの申立て、捜査、訴追、実行犯に課された制裁についての統計情報がない。

人種差別に対する申立てが少ないのは、適切な法律がなく、法的救済が貧弱であり、司法システムへの信頼がなく、報復の恐怖があるためである。刑法を含む法律の枠組みを見直して、条約第四条に沿って人種主義ヘイト・スピーチを犯罪化すること。民族マイノリティを標的とする人種差別、ヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムとの闘いを強化すること。ヘイト・スピーチを非難し、政治家によるヘイト・スピーチを抑止し、捜査と制裁を行うこと。インターネット企業やソーシャルメディア・プラットフォームと協力して、メディアやインターネット上のヘイト・スピーチを監視すること。警察官、検察官、その他の法執行官にヘイト・スピーチやヘイト・クライムを認知する体系的で特別な研修を行うこと。人種差別、ヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムを報告し、申立てを記録する制度を採用すること。

人種差別撤廃委員会一般的勧告第三六号を想起し、警察署など警察業務の中で、法執行官による人種プロファイリングを禁止・防止する法規制を採用すること。人種プロファイリングや人種主義警察暴力の申立てを受理する独立の監視機関を設置し、公正な捜査を行うこと。人種プロファイリングや人種主義警察暴力の申立てや捜査に関する情報を次回報告すること。