Thursday, June 14, 2012

日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議

ヒューマン・ライツ再入門②

日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議





連帯会議



二〇〇八年一一月二三~二五日、東京で第九回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議が開催された。
二〇〇七年のアメリカ議会やEU議会の決議、二〇〇八年五月の国連人権理事会の普遍的定期審査における勧告、同年一〇月の自由権規約委員会の勧告が相次ぎ、日本軍性奴隷制(「慰安婦」)問題が再び国際的に注目を集めたため、諸決議を実現・獲得したNGOの会議として充実した集いになった。
海外からの参加者には、各国の元「慰安婦」被害者の李秀山ら(韓国)、陳桃(台湾)、郭喜翠(中国)、バージニア・ビリアルマら(フィリピン)など一〇名であった。
支援団体からは、韓国挺身隊問題対策協議会、台湾婦女救援基金会、中国の弁護士の康健、フィリピンのリラ・ピリピーナ、ロラ・マシン・ネットワーク、カンパニエラ、東ティモール人権協会、アメリカ議会決議に向けた運動の中心になったアメリカの「121連合」、カナダのトロント・アルファ、などである。
一一月二三日は、非公開の連帯会議である。各国における活動報告や、今後に向けての提案についての議論がなされた。議会関係者からも経過報告がなされた。二四日の公開集会では、亡くなった被害者への追悼の後、各国から来日した被害者の証言、ミュージカル「ロラ・マシーン物語」上演、海外国会議員のスピーチ、そしてシンポジウムが開かれた。二五日には、政府・国会要請行動として、参議院議員会館前でのスタンディング・デモおよび院内集会がもたれた。
日本側の連帯会議実行委員会からは、国際的な勧告や決議を国内で実現するための活動として、①国会での「公聴会」、②国会での「謝罪決議」、③補償立法案の可決、④教科書に記述させる運動、が提起された。
その具体的方策として、国会で「慰安婦」問題や「河野談話」について政府に質問し「言質」をとり、運動の手がかりとする。議員とNGOによる「解決のためのプロジェクト」組織を作る。国際的な勧告などの成果の周知徹底。地方議会レベルの「意見書」採択運動。教科書執筆者、教科書会社への働きかけ。関連団体(教科書・人権・戦後補償・女性団体・憲法など)との連帯行動。メディア対策。また、国際連帯活動の強化も提起された(同実行委員会編『第九回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議~世界と連帯し、日本政府に即時解決を要求する!』参照。以下も同様)。
地方議会レベルの「意見書」採択運動とは、二〇〇八年三月の兵庫県宝塚市、六月の東京都清瀬市、一一月の北海道札幌市における、「慰安婦」問題解決立法の制定を求める意見書の採択のことである。
 
世界からのメッセージ
 
結成一八周年を向かえた韓国挺身隊問題対策協議会からは、今後の計画及び提案として、①各国議会決議の受容を促す国際連帯活動、②女性差別撤廃委員会に向けた活動、③国際労働機関への働きかけ、④戦争と女性人権世界連帯活動、⑤戦争と女性人権博物館建設運動、⑥水曜デモと水曜デモの歴史化、⑦日本軍「慰安婦」問題の世界記録遺産登録、⑧戦争と女性人権センター、⑨生存者福祉、が提起された。
朝鮮日本軍「慰安婦」・強制連行被害者補償対策委員会からは文書で報告がなされた。朝鮮で登録された被害者の七割以上がすでに亡くなったこと、公開証言を行った四六名の被害者も生存者は十人を切ったこと、平均年齢は八五歳に迫っていること、これまでの委員会の調査活動や国際連帯活動を紹介した上で、要求事項を三つにまとめている。
     日本政府は日本軍性奴隷制をはじめ、過去、日本が犯したあらゆる反人倫的犯罪に関する資料をすべて公開し、その真相を歴史の前に、世界の前に明らかにすべきである。
     日本政府は、過去の反人倫的犯罪の被害者たちに国家の名義でもって謝罪し、生きている被害者はもとより、死亡している被害者やその遺族にまで謝罪の性格が明白な賠償をすべきである。
     日本政府は、日本軍性奴隷犯罪をはじめあらゆる反人倫的犯罪について各級の教科書にはっきり記述することによって新しい世代に歴史の真実を正しく伝えるべきである。
他方、トロント・アルファ(アジア第二次大戦史学習保存会)からは、①教育イニシアティブ(教材、ガイドブック、教育課程)、②マルチメディア・イニシアティブ(調査、ドキュメンタリ)、③カナダ議会決議への活動、④『南京大虐殺と七〇周年の健忘症』出版が報告された。
アメリカの121連合からは、次のような提起があった。
「世界じゅうからわき起こっている声に加えて、日本は歴史的な選挙を迎えようとしている。自民党の弱体化と不人気が、劇的な変革のチャンスとなっている。米国で起こったように、今こそ時が来たしるしが見えるのではないか。料理の素材はそろっているから、古くなる前に、急いで調理を始めるべきだ。私たち一人ひとりに役割がある。日本の市民の果たす役割を強調したい。民主的な政治のプロセスがベストであるから、日本の政府に誠実な謝罪を要求するのは、日本国民ではないかと考える。日本の市民は、民主的プロセスを信じ、また自分の政府に対する自分の発言権を信じてほしい。また過去二年間に世界が変わってきていることも指摘したい。私たちは、ますます互いにつながる新しい時代に突入している。現在の金融危機も、このつながりを示しているし、政治的指導者たちは、協力の必要性を主張している。孤島である国は、ひとつもない。日本も同じく、独自に歴史認識を持ち続けることは不可能だ。日本の歴史も、他国とわかちあっている歴史であることの理解は、日本の経済的、政治的未来と、非常に関連している。謝罪の要求は、過去に清算をするためではないことを、強調したい。過去を清算することは不可能だからだ。それは、未来への土台を置くことを意味している。しっかりした国際関係を創り、友情が花開くためには、信頼と誠実を土台としなければならない。謝罪は、今年なされるべきだ。日本が、正義を求める国際社会の声を無視し続けるならば、今後何代にもわたって、日本のイメージに傷がつくだろう。生存者が死に絶え、許しを願う相手がいなくなるまで待つならば、日本は本当の癒しのチャンスを永久に失うことになる。謝罪は、美しくパワフルな行為だ。心からの謝罪から、新しい世界と新しい意識が生まれる。」
 

国内報道

 
朝日新聞は「慰安婦謝罪求め都内で公開集会」という見出しで次のように報じた。

 「『日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議』の公開集会が二四日、東京都内で開かれ、日本政府に①日本軍の性奴隷化の事実を認め謝罪する、②謝罪と賠償実現のための法的制度を整える、③教科書に正しく記述する、などを求める決議を採択した。中国や韓国、フィリピンなどの元慰安婦一一人や支援者、活動家など約四〇人の国内外からの参加者を含め、計四〇〇人が集まった。/米国での運動のリーダー、アナベル・パクさんは『日本政府は世界の動きなどを知らないように振る舞っている。私たちが求めているのは心からの癒し。日本に罰を与えたいのではない。和解したいのだ』と話した。(編集委員・大久保真紀)」(朝日新聞二〇〇八年一一月二五日)
毎日新聞(都内版)も「従軍慰安婦問題:アジア連帯会議 法的補償などを元慰安婦ら訴え」と題して次のように伝えた。
「『慰安婦問題』の解決を求めてアジア各地の被害者らが集まる『日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議』の公開集会が二四日、千代田区の韓国YMCAで開かれ、約四〇〇人が参加した。韓国、中国、台湾などから一〇人の被害者が来日し、在日韓国人の宋神道(ソンシンド)さんも加わった。/初来日した東ティモールのエスペランサ・アメリア・フェルナンデスさんは『一九四三年に日本軍が(ティモール島に)上陸したとき、私はまだ胸の膨らみも生理も迎えていない少女だった』と言い、『女性たちは家畜同然の扱いだった』と証言した。フィリピンのフェデンシア・ダビッドさんは『私は今年で八一歳になったが、レイプは女性にとって一生忘れられない犯罪。日本政府の法的な補償と謝罪がない限り、私たちの名誉は回復されない』と話した。/連帯会議は二三日から始まり、最終日の二五日は参院議員会館前での訴えの後、院内集会が開かれる。(明珍美紀)」(毎日新聞二〇〇八年一一月二五日)

 同様の記事は、日本経済新聞、中日新聞はもとより、英文のジャパン・タイムズ、そして西日本新聞など多数の地方紙にも掲載された。「慰安婦」問題は、この十年近くの間、日本のマスメディアでは不十分な取り上げ方しかされてこなかったし、とりわけ「NHK番組改ざん問題」以後は、多くのメディアが報道を回避してきた印象がある。NHK訴訟の判決が出たときには大きく報道されたが、それ以外の場合はあまり報道されない。その意味では、アジア連帯会議は久々に、それなりに報道されたといってもよいだろう。

第一に、会議を準備した主催者の懸命の努力があった。

第二に、被害女性やアメリカ議会決議を実現した運動体のメンバーが来日したことで注目を集めた。

第三に、国連人権理事会の普遍的定期審査や、自由権規約委員会の日本政府に対する勧告が出たことも大きい(勧告については、前号本欄参照)。



海外報道



 他方、海外メディアも報じている。

 AP通信は「第二次世界大戦の性奴隷制犠牲者たちが日本政府に謝罪要求」と題して次のように報じた(横田満男氏の翻訳を参考にした)。
 「第二次世界大戦中日本軍への性奉仕を強制されたと主張する戦争犠牲者の一団が、東京の参議院議員会館前に集合して、日本政府に公式謝罪を求めた。日本軍性奴隷制犠牲者のために東京で開催された国際連帯会議に引き続き、犠牲者とその支持者が集まって、いわゆる『慰安婦』問題の早期解決を日本政府に求めた。第二次世界大戦中、日本軍は韓国、中国、フィリピンその他の国から数千人の女性をとらえてアジア全域に送り出し、軍隊に性奉仕をさせた。一九九〇年に日本政府は、軍が軍用売春宿を開設・経営したことを認めている。しかし、賠償請求については、戦後の条約で解決済みとして、そのほとんどを拒否した。犠牲者は二五日、参議院議員会館前で、彼女たちの怒り、恥辱、反抗について語り、いまだに残る心身の障害について述べた。決議の支持者たちは、第二次世界大戦中強制収容所に収容された日系米人に米政府が提示した謝罪と同様のものを求めている。日本はこの決議に反対している。そして二〇〇一年の小泉元首相の謝罪コメントその他の首相の謝罪コメントを引き合いに出して、この問題の措置は講じたと主張している。安部晋三元首相は、戦時中アジア人女性を性奴隷として使用する際に日本政府が強制した証拠はないと述べて、日本が以前に認めた性奴隷制の実施を否定し、一九九五年の画期的な謝罪も軽視できるかのように示唆した。日本政府は概して、あの戦争について個人に損害を賠償することを拒否してきた。そして、問題は戦後の政府間条約で解決したと述べている。日本の裁判所は、元性奴隷たちによる数多くの訴えを退けてきた。性奴隷制の生存犠牲者数は減少している。」(AP通信、二〇〇八年一一月二六日)

ザ・ストレイツ・タイムズ(AFP配信)、ハンギョレ新聞、タイムズ・オブ・インディアなどにも報道されている。ザ・ストレイツ・タイムズは、一六歳の時に日本の支配下にあった満州で強制的に軍用売春宿に入れられた李秀山の「兵隊が長い行列を作って(彼女が閉じ込められていた)部屋の前に立っていた。私はとうてい生き残れるとは思わなかった。私の体は痛めつけられ、傷だらけになった」という言葉を紹介している。

国内報道と海外報道を比較すると次のことが明らかになる。

第一に、被害者や支援者の要求が、なぜ、誰に対して向けられているのかが、海外報道のほうが詳しい。国内では周知のことであり、紙面も限られているためだろうか。

第二に、二国間条約で解決済みという日本政府の姿勢、請求を棄却した裁判所の姿勢、安部元首相の無責任発言についても、海外報道のほうが詳しい。

第三に、国際NGOの活動については、朝日新聞がアメリカの121連合のアナベル・パクの言葉を伝えているように、国内報道のほうが詳しい。国内の市民運動の主張よりも、海外NGOの主張を報道することに意義があると考えられたためであろうか。

 日本軍性奴隷制の解決を求める運動は、内外の追い風を受けて久しぶりにチャンスを手にしている。このチャンスを具体的なものとするためにいっそうの努力が必要だ。

『統一評論』520号(2009年2月)