友永健三『部落解放を考える――差別の現在と解放への探求』(解放出版社)
http://www.kaihou-s.com/book_data15/978-4-7592-1031-6.htm
部落解放・人権研究所の事務局長・所長として、解放運動を理論的に支えてきた著者が、内閣同和対策審議会答申から50年、部落地名総鑑差別事件発覚40年、人種差別撤廃条約採択50年、人権のための国連一〇年開始20年の2015年に出した6
冊目の単著である。21世紀に入って、反差別・人権擁護の運動が迎えている現状を総攬し、次のステップを探る試みである。
(1)部落差別の現状について、「特別措置法」後の部落差別の実態は、どうなっているかを問い、「部落地名総鑑差別事件」は終わっていないとして、その歴史と現在を考える。
(2)部落解放の思想と運動について、まず水平社宣言の現代的意義について読み直し、「同対審答申」五〇年と部落差別の撤廃や、差別なき世界の構築をめざした部落解放運動の役割
(反差別国際運動創立二五周年をふまえて)を論じる。
(3)人権確立にむけた法整備の課題として、人権条例制定の意義と課題を考えるとともに、人種差別撤廃条約と部落問題について、日本政府見解の問題点と今後の方向を探る。
(4)部落解放にむけた取り組みの広がりとして、「同和教育」の成果と課題を検討し、「二一世紀と人権―宗教者への期待」「部落差別撤廃と企業
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九〇年の歴史から考える」「食肉業・食肉労働に対する偏見と差別の撤廃をめざして」など、各分野に応じた理論と実践を説く。
(5)最後に、現在の部落差別をどうとらえるか、部落解放をどう考えるかを論じる。
以上のように、差別の現場での闘いを通して得られた理論と実践、生きる仲間との交流を通して得られた共感とともに苦痛を踏まえて、時には国際人権法の世界で羽ばたきながら、日本政府との対話を継続してきた著者の人生を凝縮した珠玉の論集である。
「部落差別とヘイト・スピーチ」というテーマも、地名総鑑事件、連続差別ハガキ事件、インターネットにおける差別など様々に広がっている。「差別表現」のすべてがヘイト・スピーチというわけではないが、基本的問題は同じである。本書を手掛かりに
「部落差別とヘイト・スピーチ」についてさらに考えたい。