Wednesday, June 01, 2016

ヘイト・クライム禁止法(113)デンマーク

デンマーク政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/DNK/20-21. 30 October 2013)は、委員会の前回勧告への応答に始まる(前回勧告について、前田朗『ヘイト・スピーチ法研究序説』603頁参照)。検事長が捜査中断や訴因撤回の強い権限を有していることに関心を示し、検事長の決定を監視する独立機関を設置するよう勧告した。また、刑法第266条b廃止要求に反論するよう勧告した。デンマーク刑事訴訟法は便宜主義原則を採用しているので、検事長決定に対する監視機関を設置すると基本原則を変更することになる。ヘイト・クライム実行者に対する効果的訴追の重要性にかんがみ、刑法第266条bを廃止する予定はない。
2011年9月22日、警察コミッショナー、各地の検察官、検事長はヘイト・クライム事件の効果的訴追を履行する責務を強調した。検事長は、刑法第266条b及び人種差別禁止法の違反事件の捜査と訴追に関する新たなガイドラインを提示した。人種主義的同委による犯罪について、2011年及び2012年、すべての警察管区でヘイト・クライム・セミナーを開催した。2013年には、検事長がヘイト・クライム年次セミナーを開催し、検察官、弁護士、裁判官が参加した。
人種主義発言に関する刑事事件について、2011年、検事長の新たなガイドラインにより、新たな報告制度が始まった。ヘイト・スピーチ事件について、表現の自由との関連が整理された。予審にかけられた刑法第266条b事件が検事長に報告され、検事長が訴追の可否を決定する。地方検察官の決定も検事長に報告される。ヘイト・スピーチ事件に関する裁判所の判断も検事長のウェブサイトに公表される。
2007年~2012年の刑法第266条bのヘイト・スピーチ事件は、次のとおりである。
2007年:告発15、訴追6、有罪8、略式罰金1、無罪4。
2008年:告発 9、訴追8、有罪2、略式罰金4、無罪0。
2009年:告発15、訴追6、有罪4、略式罰金0、無罪0。
2010年:告発29、訴追13、有罪7、略式罰金1、無罪2。
2011年:告発28、訴追19、有罪5、略式罰金2、無罪4。
2008年:告発26、訴追14、有罪4、略式罰金4、無罪4。

人種差別禁止法違反事件に関しても新たな報告制度が採用され、検事長に報告されることになった。2009~12年に2件が有罪となり、1件が略式罰金、1件が無罪であった。