徐京植『詩の力――「東アジア」近代史の中で』(高文研)
「詩人になり損ねた者」として、在日朝鮮人、マイノリティ、植民地主義にかかわる評論と、美術や音楽など文化に関するエッセイ、そして自伝的要素の濃いエッセイを書いてきた著者の、詩、詩論、文学評論をまとめた1冊である。「私はなぜ『もの書き』になったのか」で、高校時代の詩集のこと、民族文学との出会いを語る。「詩の力」では、魯迅、中野重治、朝鮮の詩人たちを論じて、「詩人とは沈黙してはならない人」と言う。さらに、「韓国文学」と「世界文学」を重ねながら「新しい普遍性」を模索し、「越境者にとっての母語と読み書き」として在日朝鮮人女性の体験の意味を考える。兄を語り、母を語り、自らを問い直す。最後に、「『証言不可能性』の現在」としてホロコースト文学を論じ、アウシュヴィッツとフクシマを結ぶ想像力を問い、詩的想像力の必然性と困難性を読者に突きつける。