序文
第1部
危機の概観
女性ジャーナリストに対する暴力
女性政治家に対する暴力
女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力に対処する障壁
結論
*
「女性ジャーナリスト・政治家に対するオンライン暴力」では、インターネットの利便性を確認した上で、インターネットがジェンダーに基づいたオンライン暴力の場となっているという。
オンライン暴力とは、暴力行為を行う実行犯がインターネットを利用することである。男性も女性もソーシャルメディア等を通じて暴力を経験するが、女性の萌芽より多くサイバー暴力、特にハラスメントや性的虐待を経験している。オンライン暴力は性差別主義や女性嫌悪に結びついている。2019年のEU文書によると、オンライン・ハラスメントが増加している。インターネットによってハラスメントが始まったのではないが、インターネットはジェンダー・ステレオタイプ、性差別主義、性的ヘイト・スピーチを助長している。
2014年の国連総会決議68/181によると、情報テクノロジー関連の侵害、虐待、差別、暴力が女性を貶め、さらなる侵害を煽動し、組織的なジェンダーに基づく差別現象となりうる。女性を統制し、女性に対する男性支配を維持し、家父長制規範を呼び戻す。オンライン暴力は他の形態の女性に対する暴力とは次の点で異なる。
①
執拗性――被害者は、どの時間、どの日もオンライン攻撃される。被害者が逃れる安全な場所がない。
②
脱抑制――実行犯は共感を持たず、攻撃対象を見ることも見られることもなく、匿名で行動するので、容易に残虐になる。
③
聴衆――オンライン領域は潜在的に巨大な聴衆を有する。
④
匿名性――実行犯は偽名や匿名で活動することができる。
⑤
アクセスの容易性――テクノロジーの発展により技術知識が少なくても実行でき、高度な技術を廉価で入手できる。
⑥
デジタル・パフォーマンス――コンテンツに投稿された内容が永久的にアイデンティティにされてしまい、削除が難しい。
女性に対するオンライン暴力の主要な形態は次のようなものである。
①
ハラスメント又はスパム――実行犯はITを用いて被害者を継続的に威嚇し、畏怖させる。
②
サイバーストーキング――実行犯は反復的に、望まれないコンタクトを続ける。
③
性的記録・写真・メッセージの同意なき配布(ばらまき)
④
デマキャンペーン――虚偽情報を拡散して、信用や名誉を失わせる。
⑤
ドキシング(晒し)――悪意を持って個人情報を開示する。
オンライン暴力は予防も訴追も困難を抱え、被害者や家族に重大な困難をもたらす。被害者の心身の健康に有害であるのに、そのことを法執行官、司法官が良く理解しない。法執行官は「オンラインはリアルではない」と考えるため、制度的支援ができず、実行犯の不処罰が続き、悪の連鎖となる。