女性ジャーナリスト・政治家に対する暴力03
「女性ジャーナリストに対する暴力」では、近年、プレスの自由やジャーナリストの活動への攻撃が増えているという。OSCE全体でメディアに対して敵対的な政治的発言が増え、ソーシャル・メディアの台頭、新型コロナ禍の影響もあり、すべてのジャーナリストに独特の圧力がかかっている。ジャーナリストに対する暴力も増加している。
女性ジャーナリストはさらに男性の同僚よりもリスクに直面している。ジェンダー暴力には無数の形態がある。身体的暴力、性的暴力、職場の差別、オンライン脅迫とハラスメントなど。
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A 現場、ニュースルーム、その他の暴力
仕事中に殺害された女性ジャーナリストは男性より少ない。UNESCO報告によると、1993年以来、1454人のジャーナリストが殺され、女性は114人である。紛争地や危険なテーマで活動する女性ジャーナリストがそもそも少ない。
最近、メディアに登場する女性が増え、危険な地域でも男性と同様に活動するようになってきた。結果として、女性ジャーナリストが身体暴力を受けることも増えつつある。
女性ジャーナリストが拘禁される可能性もあり、その場合、脅迫や性的暴力の危険がある。「国境なきレポーター」によると、2019年12月から2020年12月、拘禁されたジャーナリスト全体の数に変化はないのに、拘禁された女性ジャーナリストは35%増えた。「女性ジャーナリズム連合」によると、2021年5月だけで19人の女性ジャーナリストが拘禁された。
女性ジャーナリストは多くの形態の暴力被害を受ける。「国際ジャーナリスト連盟」の50カ国の調査によると、48%がジェンダーに基づく暴力――セクシュアルハラスメント、身体暴力、言葉、精神的、経済的虐待を受けた。別の調査によると、女性の63%が少なくとも一度、オンライン脅迫を経験した。2021年の第1四半期に、女性ジャーナリズム連合は世界で348件の暴力と脅迫を記録している。性暴力、ハラスメント、身体暴力、拷問、拘禁、法的ハラスメント、組織的ハラスメント、殺すという脅迫、仕事からの排除。
ジャーナリズムで働く多くの女性が職場における虐待を経験してきたが、#MeToo運動によって勇気づけられたという。デンマークのTVプレゼンターのゾフィー・リンデが2020年8月にセクシュアルハラスメントについて語った後、1600人の女性労働者がデンマークの新聞記事に署名し、外見や服装について不適切なことを言われた、身体行動について、あるいはクリスマス・パーティ参加について警告を受けたと表明した。
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B 女性ジャーナリストへのオンライン暴力
インターネットの普及に伴いオンライン暴力が増えてきた。男性よりも女性ジャーナリストの被害が多く、悪質で性的な攻撃が多い。オンライン攻撃には無数の形態がある。女性嫌悪のハラスメント、虐待、脅迫、プライヴァシー侵害、意図的なデマキャンペーンがある。国際プレス機構によると、欧州における女性ジャーナリストへのオンライン攻撃は、おおむね5つのカテゴリーに分けられる。①過小評価、②性差別的侮辱、③性暴力の脅迫、④家族への脅迫・侮辱、⑤職業上の評判を損なうキャンペーン。
2019年、OSCEメディアの自由代表のハーレム・デシールは、OSCE領域でオンラインハラスメントがエスカレートし、女性ジャーナリストの仕事に重大な影響を与えていると述べた。2020年、国際ジャーナリストセンターICFJとUNESCOの調査で、73%の女性回答者がオンライン暴力を経験していた。
オンライン暴力はオフライン暴力をもたらす。ICFJとUNESCOの調査によると、女性の20%が以前ンおオンライン攻撃と関連のある人身攻撃を受けた。アラブ女性の回答者の半分以上がオンライン攻撃に由来するオフライン攻撃を受けた。
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C 狙われるアイデンティティ
オフラインでもオンラインでも、人種、民族、宗教、国民的出身、障害、性的指向、ジェンダー・アイデンティティが狙われる。ICFJとUNESCO調査では、ユダヤ人女性の88%、先住民族女性の86%、黒人女性の81%、白人女性の64%がオンライン暴力を受けた。レズビアン女性の88%、バイセクシュアル女性の85%、ヘテロセクシュアル女性の72%が被害を受けた。ノルウェーでは、移住女性、なかでも黒人ムスリム移住女性がヘイトの目標とされる。
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D 狙われるストーリー(物語)
男性ジャーナリストは職業上の言動に焦点を当てて攻撃されるが、女性に対する攻撃は、ニュース・ストーリーではなく、個人の特徴に焦点があてられる。女性ジャーナリストは、女性、ジェンダー、セクシュアリティに関するストーリーを狙われる。ジェンダー、フェミニズム、家庭内暴力、性的攻撃、フェミサイド、リプロダクティブ・ライツ、中絶、トランスジェンダー問題がよく狙われる。国際プレス機構の調査によると、フィンランド、ポーランド、スペイン、イギリスでは、LGBTQ+の権利やフェミニズムを支持するストーリーがバックラッシュの対象となる。2012~17年、国境なきレポーターによると、女性の権利を報じたことで殺されたジャーナリストは11人、拘禁されたのは12人である。
政治的レポートも差別の標的となることがある。ICFJとUNESCOによると、「政治と選挙」はオンライン・ハラスメントを惹き起こす第2のストーリーである。カナダとアメリカの調査で、ハラスメントの対象とされたのは地方政治や国政であった。2015年のOSCE調査では、政府批判、移住者、人権、宗教、フェミニズム、テロリズム、イスラエル・パレスチナ紛争が取りざたされた。2021年5月、ドイツでは、カテリン・グラベナーとアントニア・ヤーミンはイスラエル・パレスチナ紛争に抗議について襲撃された。
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E ジャーナリズムと民主主義への影響
女性ジャーナリストへの攻撃は、女性のメディア産業への参加を妨げる。仕事の妨げになり、評判を損ない、職業から追いやられる。
被害女性の調査では、37%が結果として一定のストーリーを避けるようになった。仕事を止めようかと考えた女性は29%、自分のキャリアに否定的影響を与えたと考えた女性は24%、別の専門領域に転出を考えたのは16%、実際に転出を申し出たのは16%。
こうして女性がジャーナリズム化を離れることで、メディアの多様性が失われる。ニュースルームが多様であればあるほど、諸問題についてより正確な報道ができるという調査がある。そうでないと、女性にとって重要なテーマや公共の討論が重要なテーマが取り上げられなくなる。社会全体の利器が損なわれることになる。社会には多元的な情報、民主主義、持続可能な発展に対する権利がある。
女性ジャーナリストへの攻撃はジャーナリスト全体の信用を害し、メインストリームニュースの信用を失い、インフォーマルなデマ情報拡散が増えることになる。