Tuesday, July 19, 2011

差別集団・在特会に京都地裁有罪判決

「救援」(救援連絡センター506号、507号



差別集団・在特会に京都地裁有罪判決



京都朝鮮学校襲撃事件



  四月二一日、京都地裁は「在日特権を許さない市民の会(在特会)」「主権回復を目指す会」などの構成員が行った差別(暴言・虚言)と暴力について、四人の被告人に対して犯罪実行の事実を認定し、それぞれ懲役一~二年(いずれも執行猶予四年)を言い渡した。三月は東日本大震災と原発事故のニュースが報道の大半を占めていたため、関西以外ではほとんど報道されなかった。判決の要旨を紹介し、若干の検討を加えたい。


  事件は二つの事実からなる。第一に、二〇〇九年一二月四日、被告人ら四名(ABCD)が、共謀の上、京都朝鮮第一初級学校前に押しかけて暴言を撒き散らし、スピーカーに接続された配線コードを切断した(威力業務妨害罪、侮辱罪、器物損壊罪)。第二に、二〇一〇年四月一四日、四名のうち三名(ABC)が、共謀の上、徳島県教職員組合事務所に乱入し、暴行や暴言を伴う大騒ぎをした(建造物侵入罪、威力業務妨害罪)。


判決理由の第一・第二は次のように述べている。「被告人四名は、京都朝鮮第一初級学校南側路上及び勧進橋公園において、被告人ら一一名が集合し、日本国旗や『在特会』及び『主権回復を目指す会』などと書かれた各のぼり旗を掲げ、同校校長Kらに向かってこもごも怒声を張り上げ、拡声器を用いるなどして、『日本人を拉致した朝鮮総連傘下、朝鮮学校、こんなもんは学校でない』『都市公園法、京都市公園条例に違反して五〇年あまり、朝鮮学校はサッカーゴール、朝礼台、スピーカーなどなどのものを不法に設置している。こんなことは許すことできない』『北朝鮮のスパイ養成機関、朝鮮学校を日本から叩き出せ』『門を開けてくれ、設置したもんを運び届けたら我々は帰るんだよ。そもそもこの学校の土地も不法占拠なんですよ』『戦争中、男手がいないところ、女の人レイプして虐殺して奪ったのがこの土地』『ろくでなしの朝鮮学校を日本から叩き出せ。なめとったらあかんぞ。叩き出せ』『わしらはね、今までの団体のように甘くないぞ』『早く門を開けろ』『戦後。焼け野原になった日本人につけ込んで、民族学校、民族教育闘争ですか、こういった形で、至る所で土地の収奪が行われている』『日本から出て行け。何が子供じゃ、こんなもん、お前、スパイの子供やないか』『お前らがな、日本人ぶち殺してここの土地奪ったんやないか』『約束というものは人間同士がするものなんですよ。人間と朝鮮人では約束は成立しません』などと怒号し、同公園内に置かれていた朝礼台を校門前に移動させて門扉に打ち当て、同公園内に置かれていたサッカーゴールを倒すなどして、これらの引き取りを執拗に要求して喧騒を生じさせ、もって威力を用いて同校の業務を妨害するとともに、公然と同校及び前記学校法人京都朝鮮学園を侮辱し、被告人Cは、勧進橋公園内において、京都朝鮮学園が所有管理するスピーカー及びコントロールパネルをつなぐ配線コードをニッパーで切断して損壊し」た


これらが威力業務妨害罪(学校の授業運営などを妨害した)、侮辱罪(朝鮮学校に対する侮辱)、器物損壊罪と判断された。



徳島県教組乱入事件



 判決理由の第三は次の通りである。「被告人ABCは、共謀の上、あしなが育英会等に寄付するとして集められた募金の中から徳島県教職員組合が四国朝鮮初中級学校に支援金を渡したとして糾弾するなどして同組合の正常な業務を妨害する目的で、四月一四日午後一時一五分ころ、徳島県教育会館二階同組合事務所内に、『日教組の正体、反日教育で日本の子供たちから自尊心を奪い、異常な性教育で日本の子供たちを蝕む変態集団、それが日教組』などと記した横断幕、日章旗、拡声器等を携帯して、『詐欺罪』などと怒号しながら侵入した上、約一三分間にわたり、同事務所において、同組合の業務に係る事務をしていた組合書記長T及び組合書記Mの二名を取り囲み、同人らに対し、前記横断幕、日章旗を掲げながら、拡声器を用いるなどして、『詐欺罪じゃ』『朝鮮の犬』『売国奴読め、売国奴』『国賊』『かわいそうな子供助けよう言うて金集めてね、朝鮮に一五〇万送っとんねん』『募金詐欺、募金詐欺じゃ、こら』『非国民』『死刑や、死刑』『腹切れ、お前、こら』『腹切れ、国賊』などと怒号し、『人と話をするときくらいは電話は置き』『置けや』などと言いながら前記Tの両腕や手首をつかむなどして同人が一一〇番通報中であった電話の受話器を取り上げて同通話を切った上、同人の右肩を突き、『朝鮮総連と日教組の癒着、許さないぞ』『政治活動をする日教組を日本から叩き出せ』などとシュプレヒコールするなどした上、机上の書類等を放り投げ、拡声器でサイレン音を吹鳴させるなどし、事務所内を喧噪状態に陥れて同組合の正常な業務を不能ならしめ、もって同事務所に正当な理由がないのに侵入した上、威力を用いて同組合の業務を妨害した」。


  これらが建造物侵入罪と威力業務妨害罪と判断された。


  以上が在特会事件第一審判決の概要である。事件の法的評価について言えば、起訴状自体が不十分なものであったため、判決も不十分である。朝鮮学校を舞台とする朝鮮人差別と暴行の事件は、本質的にはヘイト・クライムであるが、日本にはヘイト・クライム法がない。名誉毀損罪があるにもかかわらず、検察官は名誉毀損罪を起訴状(訴因)に含めず、侮辱罪のみに絞った。このため最初から「事案の真相」を解明する作業が放棄された(問題点は次回検討する)。


 とはいえ、これまで各地で蛮行を繰り返してきた在特会に、刑事裁判で初めて有罪判決が出たことは大きい。三鷹事件、名古屋博物館事件、西宮事件など各地で、在特会は警察に見守られながら激しい差別と暴力を繰り返してきた。京都朝鮮学校事件でも、現場に立ち会った警察官は差別と暴力を規制するそぶりも見せなかった。朝鮮学校関係者や弁護団の度重なる要請によって、ようやく重い腰を上げて京都地検が動き、本件が立件された。被告人らが逮捕されたのは事件から八ヶ月も後のことであった。このように遅れがちであったが、ともあれ威力業務妨害罪や侮辱罪で有罪となった。執行猶予四年の間は蛮行が収まることが期待できる。本件判決を広めて活用していくことも必要である。



京都事件判決の法理



  前回、判決要旨を紹介したように、四月二一日、京都地裁は「在日特権を許さない市民の会(在特会)」「主権回復を目指す会」などの構成員が行った差別(暴言・虚言)と暴力について、四人の被告人に対して犯罪実行の事実を認定し、それぞれ懲役一~二年(いずれも執行猶予四年)を言い渡した。事案は、第一に、被告人ら四名(ABCD)が、共謀の上、京都朝鮮第一初級学校前に押しかけて暴言を撒き散らし、スピーカーに接続された配線コードを切断し(威力業務妨害罪、侮辱罪、器物損壊罪)、第二に、四名のうち三名(ABC)が、共謀の上、徳島県教職員組合事務所に乱入し、暴行や暴言を伴う大騒ぎをした(建造物侵入罪、威力業務妨害罪)というものである。


  在特会による蛮行は、現代日本における人種差別と排外主義の典型事例である。人種差別禁止法やヘイト・クライム法について議論するための素材として、京都事件に焦点を当てて、判決の法理を検討してみよう。


  被告人らは、「京都朝鮮学校南側路上及び勧進橋公園において、日本国旗などを掲げ、同校校長Kらに向かってこもごも怒声を張り上げ、拡声器を用いるなどして」、差別的な発言を怒号し、「同公園内に置かれていた朝礼台を校門前に移動させて門扉に打ち当て、同公園内に置かれていたサッカーゴールを倒すなどして、これらの引き取りを執拗に要求して喧騒を生じさせ、もって威力を用いて同校の業務を妨害するとともに、公然と同校及び前記学校法人京都朝鮮学園を侮辱し、被告人Cは、勧進橋公園内において、京都朝鮮学園が所有管理するスピーカー及びコントロールパネルをつなぐ配線コードをニッパーで切断して損壊し」たものである。


  六月二四日、龍谷大学で開催された第二回ヘイト・クライム研究会において、本判決の検討を行った。そこでの議論も参照しつつ、ヘイト・クライムとの関係で目につく点を検討すると、第一に、罪名は威力業務妨害罪、侮辱罪、器物損壊罪である。名誉毀損罪が訴因に含まれていないため、判決も侮辱罪を適用するにとどめた。侮辱罪の刑罰は拘留又は科料にとどまるが、威力業務妨害罪などとセットのために、懲役刑(執行猶予つき)が選択されている。名誉毀損罪の適用には立証上の問題があるため、これを適用せず侮辱罪にしたが、刑罰は威力業務妨害罪等の適用によって適切なものになし得たということであろうか。逆にいえば、業務妨害罪に問える場合でなかったとしたら、名誉毀損罪ではなく侮辱罪だけで拘留又は科料ということがありえたことになる。


  第二に、判決の文脈によると、怒号その他の行為によって「喧騒を生じさせ、もって威力を用いて同校の業務を妨害するとともに、公然と侮辱し、損壊し」たという流れになる。「妨害するとともに」というつながりから「喧騒を生じさせ、公然と侮辱し」と読む可能性もないわけではない。侮辱罪は名誉毀損罪と異なって事実の摘示を必要としないし、平穏侵害の要件もないので、喧騒と侮辱は関係ないはずだが、つながりがあるという読み方もありうるということだろうか。


第三に、被害者は朝鮮学校と学校法人朝鮮学園とされている。集団侮辱罪のあるドイツとは異なって、日本刑法の侮辱罪の法益は個人的法益であって、集団侮辱には適用できない。このため、被害者として法人等の組織があげられている。逆にいえば、在日朝鮮人一般に対する攻撃の場合は侮辱罪が成立しない場合があることになる。



ヘイト・クライム法の必要性



 在特会の蛮行は朝鮮学校を直接の対象としている。判決において引用された差別発言も、なるほど朝鮮学校を名指ししている。しかし、「約束というものは人間同士がするものなんですよ。人間と朝鮮人では約束は成立しません」のように、朝鮮学校ではなく、朝鮮人全体を対象とした表現も使われている。判決に引用されていない発言の中にも、やはり朝鮮人全体をターゲットにしたものがある。まして、在特会の従来の言動からいっても、在特会の名称や組織の性格からいっても、朝鮮人一般に対する差別と迫害を行うことを目的とし、その主要な活動内容としていることは明らかである。


  判決の文脈を、被害者は誰かという観点から見直してみると、威力業務妨害罪、侮辱罪、器物損壊罪の三つの罪について同一の被害者を認定することが便宜であり、それに従って判決文が書かれていると考えられる。威力業務妨害罪として構成すれば、学校の授業運営が妨害されたのだから、当然、被害者は学校及び法人になる。器物損壊罪も同様である。侮辱罪もこの二罪ととともに掲げられている。三つの罪名は実行行為の順に従って列挙されている。このため侮辱罪に関する判決文が、威力業務妨害罪と器物損壊罪の間に挟まれて、前者との関係で記述されているように見える。


  名誉毀損罪の場合と異なって、侮辱罪の認定・評価には特段の理論的争いはないし、本件事案もくだくだしく解釈を展開するまでもなく、当然、侮辱罪との認定ができるので、このような判決文になったのであろう。この限りでは、本件では起訴状の構成に対応して穏当な判決が書かれたということができよう。


 しかし、判決が実際に起きた事案を適切に反映したものかという観点で検討すれば疑問も少なくない。ヘイト・クライムや集団侮辱罪の規定がないことに由来するが、このことをどのように評価するかは判断が分かれうる。第一に、ヘイト・クライム法がなくても、検察・裁判所は別の罪名を活用して事案を的確に把握したという理解である。第二に、ヘイト・クライム法がないため、事案が縮小認定され、事件が矮小化されたという理解である。後者の立場からは、実態に即した法的評価を可能とするような人種差別禁止法やヘイト・クライム法の整備が課題となる。「日本には人種差別禁止法を必要とするような人種差別はない」と断言する日本政府の現状を是正するために、やはり事実に即した評価こそが重要である。日本にはヘイト・クライムがあり、在特会はヘイト・クライムを教唆・煽動し、率先して実行してきた。ヘイト・クライムは許されないというメッセージを明瞭に発することが求められている。前田朗「ヘイト・クライム法研究の展開」第二東京弁護士会『現代排外主義と人種差別規制立法』(二〇一一年)参照。