Wednesday, December 11, 2013

現実を引き受けた物語を読み解く批評

立野正裕『日本文学の扉をひらく 第一の扉 五里霧中をゆく人たちの物語』(スペース伽耶)――本郷文化フォーラム・ワーカーズ・スクールの講座をもとに執筆された本で、同じ著者による『世界文学の扉をひらく』(現在3巻出版)の兄弟姉妹編ということになる。対話形式で、作品に様々な観点から光を当て、理解を深めていく弁証法的な文芸批評と言ってよいだろう。本書で取り上げられたのは、宮沢賢治『注文の多い料理店』、夏目漱石『夢十夜』、泉鏡花『高野聖』、大西巨人『五里霧』、幸田露伴『雪たたき』の5作。これらを「五里霧中をゆく人たち」の登場する作品としてとらえ、作品に内在する出会い、疑念、疑惑、衝突、不安、なぞに着目し、作品の構造と問いかけを浮き彫りにする。また、文学史における位置や同時代の影を考察に入れ、外在的な理解も並行して進めようとする。個人的には、冒頭の宮沢賢治をあまり評価していないので、読み始めは違和感を持ちながら読み進めたが、著者の視点の確かさもあって、最後まで楽しく読めた。著者には名著『精神のたたかい』があり、かつてこれを読んだ私は、一面識もないのに、「非国民入門講座」のインタヴューを申し入れた。その記録「精神のたたかい――不服従の可能性」は、前田朗編『平和力養成講座』(現代人文社)に収録。学ばされることのとりわけ多い著者である。著者は明治大学教授(英米文学、文学評論)で、非暴力主義の思想的可能性を追求。