Sunday, December 29, 2013

右翼・民族派の論理と行動を読む

木村三浩『お手軽愛国主義を斬る』(彩流社)――――右翼を代表する一水会代表の著書で、副題が「新右翼の論理と行動」だ。新右翼というのは、新左翼運動の高揚に危機感を感じて行われた三島由紀夫事件を契機に、それまでの右翼とは違って、左翼と新左翼の全体に対して批判し、特に民族派として、対米自立を唱えた運動だ。かつての右翼が対米従属路線を歩んでいたことへの批判もあった。その中心の一水会の代表に2000年からついている著者は、前著『憂国論』(彩流社)でもブッシュのイラク戦争を厳しく批判し、イラクに20回以上訪問し、フセイン大統領にエールを送っていた。沖縄へのオスプレイ配備に反対し、在特会などの排外主義を徹底批判してきたこともよく知られる。私の授業にお招きして3週連続対談した記録を木村三浩・前田朗『領土とナショナリズム――民族派と非国民派の対話』(三一書房)として出版した。北方領土、竹島、尖閣諸島をめぐる議論で、著者はすべて日本の領土と主張している。私は、北方領土はもとは日本領だが、政府のでたらめ外交によって返還可能性を喪失してきたと考えている。私見では、竹島は日本領土ではない。尖閣諸島は琉球人民の生活圏だったので、いちおう日本領と言えるが、現在の紛糾・混乱をつくりだしたのは日本側の責任と考える。このように対立するが、相互批判しながらの対話である。私の元には「なんで右翼と一緒に本を出すのか」という非難が何件も届いたが、内容に対する批判は一つもない。こういう非難をするのは「中身のない崩壊左翼」「理論のない気分だけサヨク」ばかりだ。まともな左翼ならこんな低レベルの非難をしないだろう。さて、著者は、本書で、お手軽愛国主義の安倍政権が「わが国を売り渡す」、「日本の溶解」をもたらす、「中国、韓国などを刺激する言動を繰り返し、『お手軽愛国主義』の空気に点火させ、心をくすぐり、増長させている」と的確に批判し、これに民族派の論理を対置する。朝鮮、インド、「アブハジア共和国」への訪問記録も掲載している。朝鮮訪問は日本人遺骨問題の解決のためで、交渉進展のきっかけを作った。おかげで国交がないにもかかわらず、人道的配慮として、朝鮮半島北部への日本からの遺族訪問・墓参が実現した。民族派だから、当然、他の民族を尊重するという姿勢である。他民族を誹謗中傷して自分のアイデンティティにしがみつくザイトクとは決定的に違う。ただし、ヘイト・スピーチの法規制には反対しているところが、私と対立する。東アジアの歴史認識についても、意見は異なるが、著者のような見方があることを知ることは役に立つ。イノセ5000万円事件で「時の人」になってしまったが、そのさなかに本書が出たことは、著者の思想と立場を世間に明らかにするためによかったと思う。イノセ事件は年明けには刑事事件の立件となりそうだから、著者も大変な立場だろうが、すべて話すべきだろう。* * <<<追記>>>                                                                              一水会の機関誌『レコンキスタ』416号(2014年1月)一面に、著者の報告「猪瀬都知事が辞任 残念無念! 米軍横田基地返還(軍民共用)がこれで遠のく――必ず捲土重来を期する――木村代表」が掲載され、徳田虎雄、猪瀬直樹両者をつないだ経緯や理由を説明している。猪瀬辞任は、民族派としては「政策の一端が潰えた」と位置付けるとともに、「ポスト猪瀬」として名前の挙がっている人物は「どの人を見ても都民の目線に立つ人ではないと思います。都庁役人の言いなりになってしまうだけの人物では確実に都政は現在より悪くなるでしょう」と述べている。