Thursday, December 26, 2013

京都地裁判決における在特会による人種差別

桜井誠『在特会とは「在日特権を許さない市民の会」の略称です!』(青林堂)――在特会会長へのインタヴュー本だ。周知の内容だが、在特会の形成過程や基本的立場がわかりやすく述べられている。笑えるのは、冒頭で「日本のメディアは異常だということですね。今回の件でも、メディアはミスリードをしたんです。朝鮮学校に対して我々が行った抗議が『人種差別にあたった』から、賠償を命じられたと、そう報道されていたんですよ。」(12頁)、「そんな報道をすること自体、判決文を読んでいない証拠なんです。判決文では、名誉毀損にあたるという理由で、賠償金を命じているんですよね。『抗議活動が人種差別にあたるから賠償を命じる』など、どこにも書いてない。」(13頁)と主張している。一般の読者は判決文を入手することが出来ないから、平気でこんな話をする。それでは、判決文にはどう書いてあるか。2013年10月7日の「平成22年(ワ)第2655号 街頭宣伝差止め等請求事件」についての京都地裁第2民事部判決(橋詰均裁判長)からいくつか引用しておこう。                                                                                  判決は人種差別撤廃条約の内容に踏み込んで、次のように述べる。「人種差別撤廃条約は、『人種差別』について『人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有する者』と定義し(1条1項)、締結国に『人種差別を非難し・・・あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策・・・をすべての適当な方法により遅滞なくとる』ことを求め、『すべての適当な方法(状況により必要とされるときは、立法を含む。)により、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させる』ことを求めている(2条1項柱書き及びd)。さらに、人種差別撤廃条約の締約国は、その『管轄の下にあるすべての者に対し、裁判所・・・を通じて・・・あらゆる人種差別の行為に対する効果的な保護及び救済措置を確保し、並びにその差別の結果として被ったあらゆる損害に対し、公正かつ適正な賠償又は救済を・・・求める権利を確保する』ことをも求められる(6条)」。そして、判決は、「このように、人種差別撤廃条約2条1項は、締結国に対し、人種差別を禁止し終了させる措置を求めているし、人種差別撤廃条約6条は、締結国に対し、裁判所を通じて、人種差別に対する効果的な救済措置を確保するよう求めている。これらは、締結国に対し、国家として国際法上の義務を負わせるというにとどまらず、締結国の裁判所に対し、その名宛人として直接に義務を負わせる規定であると解される。このことから、わが国の裁判所は、人種差別撤廃条約上、法律を同条約の定めに適合するように解釈する責務を負うものというべきである」とする。「人種差別となる行為が無形損害(無形損害も具体的な損害である。)を発生させており、法709条に基づき、行為者に対し、被害者への損害賠償を命ずることが出来る場合には、わが国の裁判所は、人種差別撤廃条約上の責務に基づき、同条約の定めに適合するよう無形損害に対する賠償額の認定を行うべきものと解される」。「無形損害に対する賠償額は、行為の違法性の程度や被害の深刻さを考慮して、裁判所がその裁量によって定めるべきものであるが、人種差別行為による無形損害が発生した場合、人種差別撤廃条約2条1項及び6条により、加害者に対し支払いを命ずる賠償額は、人種差別行為に対する効果的な保護及び救済措置となるような額を定めなければならないと解されるのである」。判決は「本件活動による業務妨害及び名誉毀損が人種差別撤廃条約上の人種差別に該当すること」において、被告人らが差別意識を有していたこと、自分たちの考えを表明するために示威活動を行ったことから「本件活動が、全体として在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える意図の下に行われた」とした。その上で、判決は被告らによる数々の差別的発言を確認し、「以上でみたように、本件活動に伴う業務妨害と名誉毀損は、いずれも、在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える意図の下、在日朝鮮人に対する差別的発言を織り交ぜてされたものであり、在日朝鮮人という民族的出身に基づく排除であって、在日朝鮮人の平等の立場での人権及び基本的自由の享有を妨げる目的を有するものといえるから、全体として人種差別撤廃条約1条1項所定の人種差別に該当する」と判断し、「民法709条所定の不法行為に該当すると同時に、人種差別に該当する違法性を帯びている」とした。