高橋哲哉『沖縄の米軍基地――「県外移設」を考える』(集英社新書)
野村浩也の『無意識の植民地主義』(御茶ノ水書房)論に触発されて、沖縄の若手研究者・言論人たちが沖縄の基地問題に新しい展開をもたらしてきた。「日本人よ、沖縄の米軍基地を持って帰れ」「本土に基地を引き取れ」という厳しい問いかけは、徐々に共感の輪を広げてきた。私自身、最初に野村の著書に接した際に、半分説得されながら、半分、内心で懸命に「反論」を試みていたことを思い出す。
知念ウシの『ウシがゆく 植民地主義を探検し、私を探す旅』(沖縄タイムス社)に接した時も、同じように賛否半ばの思いを抱えていたように思う。日本人としてのポジショナリティを十分理解しながら、「基地はいらない、どこにも」という反戦平和主義の「甘え」から脱していなかったが、同書は本土(ヤマト)の側こそ読むべきだと思い、100冊ほど普及した。
この間、アイヌ民族の先住民族としての権利を考え、朝鮮植民地支配における「植民地犯罪」と 人道に対する罪について検討し、植民地犯罪の現代的形態の一つであるヘイト・クライム/ヘイト・スピーチに向き合い続けることによって、ようやく野村や知念の問いかけから逃げない地点にたどり着いた。使い古された表現を用いれば「内なる植民地主義の在り処」にようやく理論的にも実践的にも向き合えるようになった。それでも、知念ウシの『シナンフーナーの暴力』(未來社)に説き伏せられながら、なお、たじろぐ自分がいた。
沖縄に対する植民地主義を脱するために、構造的沖縄差別をまず除かなくてはならない。そのためには沖縄に押し付けられた米軍基地を本土に引き取る必要がある。つまり、県外移設である。平和運動に取り組む平和主義者、非武装平和主義者としては、
沖縄であれ本土であれ、基地はいらない。だから、まず沖縄の基地をなくし、本土に移転してきた基地との闘いに取り組まなくてはならない。そうしないと、本土の平和運動は本気で米軍基地と闘うことをしないのだから。――この結論は気が重く、率先して口にする気になれない結論であるが、沖縄差別を解消するためには必要な結論だろう。その結論を明快に説いたのが高橋哲哉である。
第一章
在沖米軍基地の「県外移設」とは何か
第二章
米軍基地沖縄集中の歴史と構造
第三章
県外移設を拒む反戦平和運動
第四章
「県外移設」批判論への応答
終章 差別的政策を終わらせるために
憲法9条擁護と言いながら、実は本土(ヤマト)の国民の圧倒的多数が日米安保条約を是認し、米軍基地を容認している。日本防衛のために米軍基地が必要だと言う。しかし、「自分の所には持ってくるな」。つまり、米軍基地は沖縄に置くべきだと考えてきた。基地押しつけは日本政府やアメリカ政府だけではなく、日本国民の選択でもあった。
構造的差別を終わらせるために何をすべきなのか。「沖縄の基地を本土に移転せよ」と言う主張に対して、本土の反戦平和運動は「基地はどこにもいらない。県外移設ではなく、国外移設を」と唱える。だが、それは真剣な議論ではなく、沖縄の基地を維持する意見でしかない。
高橋は、知念ウシほか『沖縄、脱植民地への胎動』(未來社)における、知念ウシと石田雄の往復書簡をもとに、沖縄に基地を押し付けながら、本土に基地を引き取ることを拒否する日本人の感情と論理を明るみに出す。次に高橋は、沖縄で県外移設論への批判を展開している新城郁夫の議論を批判的に検討して、県外移設論の正当性を再確認する。石田雄や新城郁夫といった敬愛すべき論客との応接により、高橋の主張が鮮明になる。
高橋の結論は次のようなものとなる。
「県外移設要求は正当であり、それに応えるのは『本土』の責任である。なぜなら、在日米軍基地を必要としているのは日本政府だけでなく、約八割という圧倒的多数で日米安保条約を支持し、今後も維持しようと望んでいる『本土』の主権者国民であり、県外移設とは、基地を日米安保体制下で本来あるべき場所に引き取ることによって、沖縄差別の政策に終止符を打つ行為だからである。/県外移設は、平和を求める行為と矛盾しないのはもとより、『安保廃棄』の主張とも矛盾するものではない。『本土』の人間が安全保障を求めるなら、また平和や『安保廃棄』を求めるなら、基地を引き取りつつ自分たちの責任でそれを求めるべきであり、いつまでも沖縄を犠牲にしたままでいることは許されない。県外移設が『本土』と沖縄、『日本人』と『沖縄人』の対立を煽るとか、『連帯』を不可能にするなどという批判は当たらない。県外移設で差別的政策を終わらせてこそ、『日本人』と『沖縄人』が平等な存在としてともに生きる地平が拓けるのである。」
知らず識らずのうちに植民地主義に貫かれている日本の反戦平和主義を、いかに反植民地主義的反戦平和運動に作りかえていくのか。近代150年の日本を総括する思想的課題である。日本人自身が植民地主義から解放され、沖縄が植民地主義から解放されるために。
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