Tuesday, March 30, 2021

ヘイト・クライム禁止法(198)スイス

スイス政府がCERDに提出した報告書(CERD/C/CHE/10-12 .29 January 2019

前回審査の結果、CERDはスイスに条約第四条に関する留保を撤回するべきであり、なぜ留保を付しているのか説明するよう要請した。

スイスでは団体設立に際して審査が行われない。人種主義を助長する団体の設立や指導、そうした団体への支援すること、団体の活動への参加を刑法で処罰することは、人に、ある団体の違法な性質を認識して法律に従うようにもとめ、その認識に基づいてその団体に参加しないように決定することを要請し、そうでなければ処罰に直面することになる。憲法第二三条が保障する結社の自由の権利に合致しないことになる。二〇〇三年、そうした効果を持つ規定を導入する提案がなされたが、審議参加者のほとんどによって否決された。その状況に変化は生じていない。民法第七八条は、人種主義を助長しようとする団体のような違法目的の団体を、当局又は関係者の要請を受けて、裁判官が解散させることができるとする。

前回審査の結果、CERDはスイスに、裁判官など法律家に、意見・表現の自由の保護とヘイト・スピーチとの闘いの国際基準に敏感になるようにすることを勧告した。

人権と人種差別に関する法律は、ロースクールの必修科目であり、検察官と裁判官はその職務を担うことができるように、判例法を学ぶことが課せられている。ジュネーヴ大学やバーゼル大学などでは、このテーマの特別なクラスとセミナーを用意している。裁判官団体と研修は地方のカントン当局の責任である。連邦の検察官と裁判官は特別研修を義務付けられていない。

国際基準の意識涵養という点では、司法職員はオン・ザ・ジョブ研修を行っている。ルツェルン教員研修学校人権研修センターが人権教育を担当している。スイス人権専門センターは法律家のためのシンポジウムを定期的に開催している。

前回審査の結果、CERDはスイスに、高い地位にある公務員による人種主義発言を拒否し、憎悪思想を非難するよう勧告した。

刑法第二六一条bisは、人又は集団の人種、民族、宗教に基づく憎悪又は差別の公然たる煽動を三年以下の刑事施設収容又は罰金としている。現在提案されている「レイナード立法提案」が実現すれば、性的志向及びジェンダー・アイデンティティにも適用される。民法第二八条は、人がヘイト・スピーチを直接受けた場合には人格権侵害について制裁を定めている。カントン・レベルの助言機関は、この規定の効果的な実施を支援する。

刑法第二六一条bis違反の人種主義事件の発生件数や類型は時期によって変化がある。二〇一六年は四一件、一五年は五七件、一四年は二二件、一三年は四七件であった。法廷に登場した事件のごく一部が報道されるにすぎない。連邦の反人種主義委員会が把握した件数は、一六年は〇件、一五年は一件であった。電子的コミュニケーションで人種主義的言葉が用いられた件数は一九九五年~二〇一六年に一二%であった。

この問題で取られた制裁措置は意識啓発及び予防措置によって補われる。当局は、共存の概念に焦点を当てた対抗言論を促進し、拡散しなければならない。連邦審議官は社会的調和を維持し、不寛容に反対する必要を強調する声明をたびたび発している。アラン・ベルセ連邦審議官、内務大臣、連邦大統領(二〇一八年)は統合と共存のための呼びかけ発言を何度も行ってきた。