Monday, May 20, 2013
ヘイト・スピーチ処罰実例(6)
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/BIH/7-8. 21 April 2009.)によると、刑法第163条(憲法秩序に対する犯罪)について検察庁が扱った事件は4件あり、うち2件が実際に手続きに入り、1件は捜査中、もう1件は有罪答弁が行われて終結した。連邦警察は、2005年から2007年にかけて、刑法第163条、第166条(人種的国民的宗教的理由による殺人)、第177条(人種的国民的理由による個人の平等侵害)について34件の事案を扱った。ただし、事案の具体的内容は紹介されていない。禁止法の状況については、本ブログの「ヘイト・クライム禁止法(9)」を参照。
Sunday, May 19, 2013
ヘイト・クライム禁止法(15)
チェコ政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/CZE/8-9. 9 August 2010.)によると、2009年の法律第40号によって刑法が改正され、人種的動機による犯罪に追加がなされた。1961年法律第140号の刑法第196条は、2009年法律によって第352条になり、「住民及び個人に対する暴力」の罪は、人種、民族、国民その他の集団構成員であることに動機を有する犯罪となった。刑法第198条の「国民、民族集団、人種及び信念の中傷」の罪は、改正によって刑法第355条「国民、人種、民族その他の人の集団の中傷」の罪となり、犯罪実行方法に、印刷された言葉、フィルム、ラジオ、テレヴィ、公にアクセスできるコンピュータ・ネットワークその他の効果を有するもの、が加えられた。集団侮辱罪である。刑法第259条のジェノサイドの罪は刑法第400条となり、対象に階級その他同様の集団が加えられた。これは国際法上のジェノサイドには含まれていない。刑罰の上限は20年以下の刑事施設収容に加重された。ジェノサイド実行の公然たる煽動の刑罰も20年である。
Saturday, May 18, 2013
うかうか三十、ちょろちょろ四十
昨日は新宿・紀伊國屋サザンシアターでこまつ座公演「うかうか三十、ちょろちょろ四十」(井上ひさし作、鵜山仁演出)だった。
http://www.komatsuza.co.jp/contents/performance/
井上ひさし24歳の演劇デビュー作。もっとも、当時は上演されなかったし、こまつ座でも上演は初めて。井上ひさしらしく、東北地方の農村を舞台にし、セリフもすべて東北弁。ただし、どの地方の言葉ということではなく、東北各地の言葉をごっちゃにしているという。このところ、こまつ座での井上作品のお演出は、蜷川幸雄、栗山民也、鵜山仁が競い合っている。いずれも井上作品に習熟し、井上作品を愛し、徹底的に、これでもかと観客を楽しませる演出家だ。今回も、鵜山仁は、農村の貧しい農家を舞台の中央に据え付け、物語の展開に応じて農家をぐるりと回して見せる。3幕の短い演劇だが、後の井上作品を予感させるほのぼのした情景で、くすくす笑わせ、どっと笑わせ、暗転して悲劇になってもやはり笑わせる。坂口安吾の『桜の森の満開の下』ほどのスリリングな展開ではなく、物語が静かに進み、静かに終わるが、人間存在につきまとう悲哀を主題としている点は共通している。どんでん返しは単純だが、最後に人生の怖さを突き付けて、終わる。最後の仕掛けも、また楽しい。終演後に、藤井隆、福田沙紀、鈴木裕樹、田代隆秀、小林勝也によるトークもあった。観劇後は新宿西口の紀州料理。
Friday, May 17, 2013
ヘイト・スピーチ処罰実例(5)
チュニジアが人種差別撤廃委員会に提出した報告書CERD/C/TUN/19. 17 September 2007.によると、2005年3月28日、チュニス控訴裁判所は、被告人に3年の刑事施設収容を言い渡した原審判決を支持した。被告人は、2004年10月5日、ノーマライゼーションと「シオニズム化」と闘う委員会の主張に基づいたパンフレットを準備し、配布した。パンフレットは、ユダヤ人に反対し、いかなる形であれユダヤ人との協議に反対し、ユダヤ人との和解に反対して人々が立ち上がるように訴えるものであった。2004年9月28日、国連恣意的拘禁作業部会は、本件について、国際自由権規約第19条と第20条に違反するか否かを検討し、被告人の行為は犯罪であり、意見表現の問題ではないとした。
ヘイト・クライム禁止法(14)
アルバニアが人種差別撤廃委員会に提出した報告書CERD/C/ALB/5-8. 6 December 2010.によると、2008年11月27日、刑法改正が行われた。刑法第84条(a)は、「コンピュータ・システムを用いた人種主義及び外国人嫌悪の動機を伴った脅迫」について、人の民族的所属、国籍、人種又は宗教のゆえに、コンピュータ・システムを用いてなされた、人に対する殺人や重大傷害の脅迫は、罰金、又は3年以下の刑事施設収容とする。刑法第119条及び119条(a)は、人種主義又は外国人嫌悪の内容を持つ文書をコンピュータ・システムを用いて公に配布し又は配布しようとした者は、罰金、又は2年以下の刑事施設収容とする。刑法第119条(b)は、民族的所属、国籍、人種又は宗教ゆえに、コンピュータ・システムを用いて、人に対して公になされた侮辱についても同じ刑罰を定めている。2008年改正は、これらの人種主義犯罪がコンピュータを通じて行われた場合の規制を定めており、コンピュータによらず、口頭や文面で行われた場合については、それ以前から定められていた。たとえば、ジェノサイド(刑法第73条)、人道に対する罪(刑法第74条)、国民の平等の侵害(刑法第253条)、国籍、人種及び宗教間の憎悪や紛争の煽動(刑法第265条)、国民的憎悪の呼びかけ(刑法第266条)である。
Thursday, May 16, 2013
ヘイト・スピーチ処罰実例(4)
フィンランド政府が人種差別撤廃委員会に提出した第19回政府報告書CERD/C/FIN/19. 15 October 2007.によると、インターネット上の人種主義文書の書き手を特定することには困難があり、差別文書を削除することも困難である。明らかに犯罪的な内容を有するメッセージを公開しないようにできなかったオペレータも正犯又は共犯の責任を問われることがある。一定の条件のもとでは、編集者が管理責任を果たさなかったために、マスメディア表現の自由法第13条によって、罰金を言い渡されることもある。しかし、同法はフィンランド国内の事件にしか適用できないので、外国のサーバーを通じて入ってきた差別文書に適用できない。実際、多くの差別文書がアメリカ合州国から発せられている。
次に、民族アジテーションに関する判例である。刑法第11章第8節に規定された民族アジテーションの事案はまれである。2006年には「マイノリティのためのオンブズマン」がインターネット上の事案について40件の捜査を要請した。同年末時点で、そのうち15件は中央検事局による捜査中である。2005五年には9件であった。
2002年1月から2006年9月までに、民族アジテーション事案の判決は2件である。1件は訴追が却下された。もう1件では、被告人はヘルシンキ控訴審によって300ユーロの罰金を言い渡された。判決理由によると、ユダヤ人を侮辱するように唆す反セミティズムの印刷物は、宗教を攻撃して汚したものであり、それゆえ民族アジテーションの行為であったと判断された。
ヘイト・クライム禁止法(13)
ルーマニアが人種差別撤廃委員会に提出した第16~19回報告書によると(CERD/C/ROU/16-19. 22 June 2009.)、人種差別撤廃条約第4条に関連する立法は4つに分類できる。第1に刑法、第2にファシズム・シンボル禁止法、第3に「アウシュヴィッツの嘘」法、第4にオーディオ・ヴィジュアル法である。憲法第30・7条は、国民、人種、階級、宗教的憎悪の煽動と、差別の教唆は法律によって禁止されるとしている。
第1に、2006年の法律278号によって改正された刑法第317条は、差別の教唆を次のように定義している。人種、国籍、民族的出身、言語、宗教、ジェンダー、性的志向、意見、政治的関係、信念、財産、社会的出身、年齢、障害、慢性の非伝染病又はHIVを理由とする憎悪の教唆。差別の教唆は、6月以上3年以下の刑事施設収容又は罰金を課される。
第2に、ファシズム・シンボル法(2002年の緊急法律31号)は、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪の性質を持った組織とシンボル、平和に対する罪や人道に対する罪を犯した犯罪者を美化することを禁止した。2006年法律107号と同年法律278号によって一部修正されている。この法律第2条(a)によると、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪の組織とは、3人以上によって形成された集団で、一時的であれ恒常的であれ、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪のイデオロギー、思想又は主義、民族的、人種的、宗教的に動機付けられた憎悪と暴力、ある人種の優越性や他の人種の劣等性、反セミティズム、外国人嫌悪の教唆、憲法秩序又は民主的制度を変更するための暴力の使用、過激なナショナリズムを促進するものである。これには、組織、政党、政治運動体、結社、財団、企業、その他の法律団体で、前記の定義の要素に合致するものも含まれる。第2条(b)によると、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪のシンボルとは、旗、紋章、バッジ、制服、スローガン、公式・決まり文句の挨拶、その他のシンボルで、前記の定義で述べられた考え、思想及び主義を促進するものである。(「公式・決まり文句の挨拶」とは「ハイル・ヒトラー!」のようなものを指しているのであろう。)第3条によると、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪の組織の設立は、3年以上15年以下の刑事施設収容及び一定の権利停止である。組織への参加や支援も同じ刑罰が定められている。ファシスト・シンボルの配布、販売、その準備は、6月以上5年以下の刑事施設収容と一定の権利停止である。シンボルの公の場での利用も同じ刑罰である。公の場におけるプロパガンダ、行為、その他の手段による、平和に対する罪や人道に対する罪を犯した犯罪者の美化、ファシスト、人種主義者、外国人嫌悪のイデオロギーの促進は、3月以上3年以下の刑事施設収容及び一定の権利停止である。プロパガンダ概念は、新たな信奉者を説得し、魅了する意図をもって、考え、思想又は主義を組織的に広め又は正当化することである(第5条)。
ルーマニアには「アウシュヴィッツの嘘」法もあるが、これについては後日紹介する。
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