Wednesday, August 20, 2014

人種差別撤廃委員会・日本政府報告書審査(4)審査1日目・後半

*下記は現場でのメモと記憶による報告であり、正確さの保証はありません。論文や報道などに引用することはできません。CERDの雰囲気をおおまかに伝えるものとしてご了解ください。残念ながら意味不明の所もあります。
*CERDを傍聴された方、下記に間違いや不適切な個所がありましたらご指摘願います。

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日本の大使によるプレゼンテーション、そしてケマル委員による冒頭の概説に続いて、CERD委員から日本政府に対する質問がなされた。以下、各委員の質問。
バスケス員――ヘイト・スピーチについて、残念なビデオを見た(*NGOブリーフィングの際に上映した5分のビデオで、在特会によるヘイト・スピーチと暴力の様子をまとめたもののこと)。朝鮮人に対するヘイト・スピーチである。条約に基づいて懸念があり、安倍総理もヘイト・スピーチに適切に対処すると述べていると言う。CERDが2013年に採択した一般的勧告35「ヘイト・スピチと闘う」において、ヘイト・スピーチに対する対応を整理してある。一般的勧告26にも書かれている。日本は憲法の枠内で条約を実施するとして、条約4条を留保していることは承知している。しかしなぜ留保が必要なのか、留保の性格、範囲も問題である。勧告を受けて見直したが、留保の決定は変えないというが、性格や内容をもっと明確にしてほしい。憲法の範囲内で条約を実施するというが、憲法がなぜそこまで制約になるのか。懸念しているのは、どういう限界が必要なのか、である。表現の自由は幅広いが、ヘイト・スピーチに対応することは特に表現の自由とは抵触しない。実際に暴力をふるい、威嚇している。「出てこい」「殺すぞ」などと、非常に過激な言動であり、スピーチ以上のものである。まさに暴力の威嚇が身に迫っている。大阪高裁判決が出て、最高裁係属中ということも承知している。期待している。33-44、ヘイト・スピーチ処罰規定を設けるべきである。措置を取る必要がある。教育、寛容の精神との回答だが、37では、公人によるヘイト・スピーチについ述べている。もっと情報を提供してほしい。高いレベルの公人(政治家等)がヘイト・スピーチをどのように非難しているのか、「ヘイト・スピーチはいけない」と言っているのか。ヘイト・スピーチに対するカウンター・デモがあるが、心配なことに、人種差別グループのヘイトデモに対するカウンター・デモの側から逮捕者が出ている。カウンター側がメッセージを広めることができない。差別に反対するカウンターを阻害することは許されない。ヘイト・スピーチ法ができても心配がある。NGOによると、現政権は法律を乱用して、マイノリティに対して押さええつける心配がある、という。CERD勧告20は、あいまいで幅広いヘイト・スピーチの定義によって、守られるべき人にとってマイナスになる可能性がある。条約の定義にあう形で定義する必要がある。法律を口実としてマイノリティをおさえつけない、マイノリティを守ることが目的であると明確に述べる法律であるべきだ。
アフトノモフ委員――微妙な表現に関わることであるが、日本政府報告書172-188の、アイヌについて積極的措置といえるが、187に関して、ユネスコは日本で9つの言葉が消滅の危機にあるとしている。しかし、文化や言語が残る事は重要である。奄美の言葉その他7つの言葉はどうなっているか。アイヌ、他の先住民について情報が欲しい。部落民について、社会的集団であり、民族、種族などと異なると言われているが、例えば京都駅の南側のように、一定の地域に居住している。戸籍の問題では、どのような家族が同和と呼ばれることになるのか。結婚差別もある。部落にエスニックな側面はないのか、かつては法律が作られたではないか。29について、朝鮮学校の高校無償化問題があるが、自治体はどうなっているか。政府から資金がない、無償化の便宜を得ていないが、自治体が補助を出すのは違法なのか。外国人の14%コリアンが外国人では3番目に大きい集団だが、ブラジル移民、日本に戻った人は定住しているのか、歓迎されていないのか、情報を知りたい。
マルティネス委員――現在のアイヌの状況、パラ13だが、データの内訳がない。2009年以降の進展を考えると、もっとデータがあるのではないか、どういう行動がとられたのか。日本政府報告書に掲載されている各統計が一般的である。集団ごとのデータがあれば差別状況が分かる。アイヌの教育のデータを見ると、日本人よりも低いことが分かる。71-72の政治参加について女性のための措置、非対称性が見られる。議員の13.5%が女性議員、女性が少ない。アイヌはさらにその状況がひどいことにならあいか。特定の集団、アイヌのデータがほしい。勧告32は、是正措置に関する。奴隷の形態である人身売買、22に言及はあるが、対処する措置は国際的レベルの措置に比べると足りない。アフリカ系の人の住民、比率、統計も知りたい。
ディアコヌ委員――「前回報告書に書かれている」と言う報告書は役に立たない。差別について、法務省の組織、人権擁護局など265のアンテナというのはわかった。差別の動機ついて、例えば人種だが、日本はどう理解しているのか。学術的には人種は存在しない。我々は皆同じ人間という人種である。日本における人種の定義はどうなっているか。日本国籍保持者か。世系はどう考えるのか。人種差別禁止法が必要である。さまざまな外国人が住んでいるので、包括的な差別禁止法をつくるべきだ。ヘイト・スピーチは、バスケス委員が言った通り、表現の自由とヘイト・スピーチの規制に矛盾はない。CERD一般的勧告35「ヘイト・スピーチと闘う」は長い検討の結果、採択された、情報の自由があるが、差別言説は、バスケス委員が指摘したように、単に表現の自由ということではなく、暴力であり、暴力の煽動は世界中で問題となっている。殺す、ガス室、叩き殺すと言った表現は暴力に訴える、暴力を唱導することは表現の自由とは区別できる。マイノリティの権利行使に不利益があり、言語消滅の危機もある。言語の保護、文化保護のため、アイヌについて何をしているか。琉球の言葉も、ユネスコでは日本語とは別の言語と認められている。歴史と伝統、ユニークありと認められている。沖縄の特異性をどうして認知しないのか。ユニークは日本を豊かにするものであり、保護するべきである。部落について、ここでも特異性を持った集団をどう保護するか。日本には移住者の保護法がない。差別を防ぎ、いいかに日本に定着させるのか。特別在留許可が難しい。退去強制手続き前の特別許可はできないのか。無期限勾留があるとの情報がある。移住者・女性の二重差別もある。人権理事会のUPRでも指摘されている。政府が解決しなければならない、個別の委員会に委ねるべきものではない。マイノリティ差別を見ると、嫌悪的なメンタリティがある。人権促進、人種差別との闘いを強化する必要がある。
ユエン委員――バスケス委員が既に発言したが、ヘイト・スピーチについて、京都朝鮮学校事件で地裁でも高裁でも1200万円の賠償命令が出ている。名誉毀損を認定し、不法行為とした。刑事の側面、起訴されたとの話も聞いたが、もう少し詳しく知りたい。刑法の罰則が幅広いようだが、しかし、ヘイト・スピーチが起訴相当の罪にあたる場合があるという。具体的にどういう罪が法律に定められているのか。実際に発動されて、判決で認定されたのか。刑法のどのような条項か。差別は日本刑法で罰せられないのではないか。ヘイト・スピーチは法律で禁止されていない。表現の自由という理由だが、ビデオを見て懸念を抱いた。ビデオでは、特定の出来事が映っているが、加害者に警察が付き添っているように見える。ほとんどの国では、こういう事が起きれば、加害者を逮捕し、連行し、収監するはずだ。刑事的な面でどのように対処しているのか。安倍首相の発言はきちんとした措置を求めている。これは評価すべき。立法措置の見通しはあるのか。タイムスケジュールを設定しているか。朝鮮学校だけが名指しされている。中華、アメリカン・スクール、他にもあるのに、朝鮮学校だけ別のカテゴリーで、別扱いされている印象を受けた。
フアン委員――ヘイト・スピーチをいかに止めるか。2010年のCERD勧告は、4条留保を撤回すべきとしたが、日本は留保撤回は考えていないと言う。その理由は、人種差別が激しいことはないとか、正当な言論を抑え込むことになるからとか、重大な人種差別はないと、言っている。しかし、日本はどうもそれほど明るい状況ではないのではないか。人種差別が実際に日本に存在する。極端な個人や団体、右翼が、日本人の優越性、植民地主義的考えを抱いて、少数派、外国人に嫌がらせをし、挑発、暴力的行為をしている。インターネット、新聞テレビでもヘイト・スピーチを流布させ、民族的対立をあおっている。閣僚、政治家が政治的発言をして、人々をあえて誤解させる発言をしている、在日、子どもたちへの差別発言がある。「中国脅威論」の発言もある。日本では法律で差別を禁止せず、パリ原則に従った国内人権機関もない。差別言論が起きているのに処罰されない。極右集団や個人の発言がさらにあからさまに過激になっている。被害者は司法へのアクセスがない。極右組織はあきらかに人種主義的、排外的デモが政府のお墨付きを得ている。排外主義デモが警察に守られている。人種主義的スローガンを叫び、かつての日本軍国主義の旗や、ナチスの旗を掲げている。被害者が訴えても警察は無関心であるという。極右は根深い人種差別思想を心の中にもっている。過激な「殺すぞ」といった発言が、日本人以外の者に向けられている。日本的名前に改名するよう圧迫もある。雇用、年金も平等処遇を受けていない。日本に差別が存在し、深刻な事態である。ICERDに基づいて、表現の自由は2013年のCERD一般的勧告35において明示したが、ヘイト・スピーチを禁止するべきである。表現の自由を保護することとヘイト・スピーチ禁止の間に矛盾はない。一人一人が表現の自由と同時に社会的責任を有している。とくに政府、政治家は自制するべきである。条約4条の責任を果たすよう勧める。差別禁止法を作るよう、積極的措置を取るべきである。それから、関東大震災時に、6000人もの人が警察や軍隊によって殺された。犠牲者はその後の処遇に満足せず、調査を求めている。日本政府は、いつ調査を行うのか。
ボスユイ委員――朝鮮人、そして永住者の数は何人か。朝鮮学校が資金援助を得ることが出来なくなった。いつ政策変更が行われたのか。どのような理由で変更したのか。処遇の違いはどこからでているのか
ラヒリ委員――日本はアジアの人たちに対して、植民地主義との闘いの必要性を意識させた。高度成長、経済成長、伸展があった。しかし、孤立した部分がある。移住者のコミュニティは差別に直面している。コリアン50万人が差別を受けている。朝鮮学校無償化問題もある。アイヌなど先住民族も差別されている。ビデオを見たが、ヘイト・スピーチが助長されていることは否定できない。国内人権機関が、これだけ長い検討の後になぜできていないのか。
クリックリー委員――日本政府は前回の勧告に応答していない。報告書は「前回参照」という書き方ではなくきちんと書いてほしい。勧告が実現していない。国内人権機関、なぜ廃案になったのか。ぜひ設置するべきだ。新しい人権機関立ち上げに早い段階から市民社会の積極的な参加のもと、すすめるべきだ。ヘイト・スピーチ、朝鮮人、外国人に対する暴力の唱道にどう対処するのか。表現の自由と憎悪煽動の関係をはっきりさせるべき。高校無償化は、多くの報告があるが、あいまいな理由で継続的に差別がなされている。性奴隷制度、慰安婦問題では国連人権高等弁務官の声明も出ている。継続的な侵害である。被害女性の90%が外国人であり、既に亡くなったと言う。「性奴隷制でなく、売春だ」という言葉が被害者、家族に多大の苦痛を与えている。慰安婦には、賠償、補償があたえられるべきである。2005年以後、搾取のための人身売買が減っていると言うが、改善と言えるのか、どういう措置を取って性的搾取に対応しているのか。先住民族について、土地の権利、補償、影響を与える政策策定に事前に参加できるようにするべき。米軍基地についても、地元住民の参加が必要だ。ILOドメスティック労働者、移住者の権利、家事労働者についての情報も欲しい。
リンドグレン委員――日本政府報告書は「前の報告書参照」ばかりで、読みにくい。別のデータを出してほしい。個別データではないため、外国人の実態がわからない。経済的状況なども、日本国民と一緒のデータではないものが必要である。私はブラジル出身である。ワールドカップでは、日本人サポーターは応援だけでなく、ごみを拾うなどとても評判が良かった。総理がブラジル訪問した。ところで、日系ブラジル人13万人、報告書104-109だが、片親が日本人でないと子どもは日本人になれない。親がブラジル人だと日本で生まれても子供は日本国籍を取れないのか。学校に行けない、親が学校に通わせない、これは親の問題だが、子どもたちが日本人になれなかったら、その先どうなるのか。教育の機会を子どもたちが享受できるようにするべきだ。
カラフ委員――さらなる努力が必要な分野として、4条留保の撤回がある。保護措置の拡大が重要である。ICERD14条だが、2010年に日本政府は個人通報制度の受諾を検討していると述べたが、その後どうなったのか知りたい。暴力だが、刑務所収容者の数に影響しているか、2000件の強姦というデータがあるが、データを別の内訳として出してほしい。
バルデル委員――日本の姿勢、「ジャパニーズネス」についてどうとらえれているのか。どの国も社会の一体性を維持するのに苦労している。排外主義、反発があり、包摂ではなく排除がどの国でも起きる。長いこと日本に住んでいる外国人が、税金を払っていても、年金、社会保障の給付を受けられない。最高裁判決が出たと言う。他方、自治体だが、人道的視点、政策で給付の義務付けをしていない。公務員就任権だが、コリアン、外国人について取り組みをしているのか。管理職、国でも地方でもつくことができないか。家裁の調停員の排除について知りたい。文化的背景があるのか。国の一体性の理念、しかし、外国人排斥思想を排除することが有用である。どういった社会的力関係があればより受け入れることが出来るのか。
ダー委員――リンドグレン委員も言うように、「前回参照」は読みにくい。今後はもう少し改善しいてほしい。報告書作成段階での市民との協議はどのようになされたのか、どういう人と協議したのか、どの程度、報告書に反映したのか。いろんな形態の差別が指摘されている。国内人権機関が死活的に重要であるので、加速してほしい。日本国民とその他の人が社会生活のあらゆる分野で別処遇となっている。移住者女性が日本人男性と結婚、その子ども地位、配偶者など3年ごとに更新される在留資格という。子どもは日本人の親がいる。両方の国籍を持つ国も多い。家族が分離、バラバラ、離婚すると女性は地位を失う、脆弱な状況に置かれている。夫の地位に左右されるため、地位を失う恐怖感から弱い立場になり、DVの対象になっても、通報できない、手続ききの簡素化が必要である。マフィア、売春宿があるので、女性を救出するための組織が必要である。人身売買に対処する具体的な措置はどうなっているか。他の委員会が、性奴隷、慰安婦について、被害者と認めリハビリを提供し、子孫にも適切な補償をすべきと勧告した。日本政府は個人通報に言及していない。無国籍条約の締約国になっていない。
アミル委員――イスラム教徒が警察による調査対象となっている。テロ活動の懸念なのか。一部なら別かもしれないが、一般的にイスラム教徒を調べていると言う。9.11以後、いろんなことが世界で起きたが、14年、長い年月がたって、テロ容疑はない。宗教だけに囚われているのでない。すべての宗教は尊重に値する。調査しているのは本当なのか。
議長――13~24のアイヌ文化振興だが、アイヌ語を学ぶ機会が不十分だという。高等教育で年間36時間、口頭伝承もしていると聞いているが、言葉だけでなくアイデンティチィが重要、維持強化のためにどのような措置をしているか。公立学校でアイヌ語を教えることは考えていないのか。ユネスコ絶滅危機8つ、八重山、与那国も危惧されている。151で国が人権侵害被害者にサポートするとあるが、162では人種差別を受けた被害者に挙証責任があるとしている。これでは政府からの支援を受けることが出来ない。人種差別が人権侵害であると認識していないのか。
フアン委員(再び発言)――慰安婦、性奴隷は強制連行され、残虐な行為をうけた。人権侵害であり、人種差別である。生存者が謝罪と賠償を求めるのは当然である。多くの犠牲者が死ぬ前に希望をかなえたいと述べている。総理、大阪市長、閣僚その他が慰安婦の必要性、正当性を主張している。軍国主義の性奴隷を隠蔽するものである。国連人権高等弁務官が声明を出した。「基本的人権が計画的に侵害されている。政府に効果的な解決策をとるように、勇気ある女性が闘っているが、権利を回復することなく次々に亡くなっている。日本は包括的で公平で恒久的な解決策を提供してない。生存者の人権の侵害であり、正義に対する権利がある」と。誠実な謝罪、歴史に直面することが重要である。日本政府は2013年、社会権規約委員会の最終見解に対し、「条約機関の最終見解には拘束力がないから実施する義務はない」と言う決定をしたという。これには驚いた。条約締約国が条約加盟の後にこうした行為をすることは責任ある行為とは言えない。このような態度が今後広がる懸念があり、CERD勧告に対する無視が今後も続くのではないか。
KONO大使――最後に一言。
山中課長――個人通報制度を受諾しないことについて簡単な説明など。

以上で、8月20日午後、1日目の審査が終わった。

人種差別撤廃委員会・日本政府報告書審査(3)審査1日目・前半

*下記は現場でのメモと記憶による報告であり、正確さの保証はありません。論文や報道などに引用することはできません。CERDの雰囲気をごくごくおおまかに伝えるものとしてご了解ください。残念ながら意味不明の部分もあります。
*CERDを傍聴された方、下記に間違いや不適切な個所がありましたらご指摘願います。

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8月20日午後3時~6時、ジュネーヴのレマン湖のほとりにあるパレ・ウィルソン大会議室でCERDによる日本政府報告書審査が行われた。正面壇上に議長と、日本政府代表が並ぶ。会議室中央部の席に18人の委員と、事務局、その間に残りの日本政府代表たちが座る。名簿によると今回東京から30人近くがやって来て、在ジュネーヴ日本政府代表部メンバーとともに、審査に臨んでいる。担当は外務省人権人道課だが、法務省、警察庁、文科省、厚生労働省など関係省庁の代表が来ている。
(渡航費・宿泊費を含めて膨大な税金が使われている。税金の無駄使いだが、若い官僚が経験を積むのは必要なことでもある。問題は、人種差別撤廃条約に従って差別をなくすために仕事をしているのか、それとも差別を温存しながらごまかす仕事をしているのか、である。)
最初に日本政府のプレゼンテーション。無知で傲慢な上田人権人道大使がクビになったので、今回の代表はKONOジュネーヴ常駐大使。
KONO大使――第1にアイヌ政策、第2に難民条約の履行についての手続きを説明し、ミャンマー難民受け入れは国際社会の高い評価を受けていると述べた。さらに、自分の人権だけでなく他人の人権を理解し責任を自覚して相互に尊重し合うという考えのもと人権教育・啓発を重視していると述べ、人権教育啓発促進法と基本計画を説明した。法務省には外国人のための人権相談もあり、人権侵害は速やかに調査していると述べた。東京オリンピックにも言及、オリンピック憲章も引用して差別に反対する姿勢を示した。
以下、CERDから事前に出された質問(リスト・オブ・イッシュー)に即して答えた。1aの国内人権機関について。日本国憲法14条の法の下の平等の規定があり、関係法によって雇用、教育、教育、医療について差別を禁止している。差別行為がなされれば民法の不法行為に当たり、人種差別煽動は一定の場合には名誉毀損にあたる。日本は法の下の平等を最大限尊重している。新たな人権委員会設置法案は国会に提出されたが、廃案となった。人権救済制度の在り方には適切に検討している。
1bのヘイト行為を禁止する法制定について。差別行為は不法行為になり、損害賠償責任の根拠となり、一定の場合には名誉毀損となる。他方、表現の自由を慎重に検討しなければならないと考えている。差別意識を生じさせることに繋がる言動には中止させたり、啓発活動を行っている。インターネット上の権利侵害については、人権侵害情報を削除した場合、プロバイダーが責任を問われないようプロバイダー責任制限法がある。
1cの思想の流布宣伝、ヘイト・スピーチについて、京都朝鮮学校事件で本年7月8日に大阪高裁判決が出た。事案は朝鮮学校に対して侮蔑的活動、差別的行為が行われたもので、一審(京都地裁)は授業妨害行為と名誉毀損を認定して、原告(被害者)による損害賠償請求を一部認容し、差し止め請求も認めた。控訴審(大阪高裁)は一審を支持して控訴棄却したが、本件は最高裁に係属中と聞いている。本件は、刑事事件でも威力業務妨害罪、器物損壊罪、侮辱罪などで起訴するなど厳正な処分をしている。救済へのアクセスについては、司法支援センターがつくられ順調に業務を行い、無料相談は累計240万件に達している。
1dの公務職員研修については、教師、裁判官、検察官、入国管理局職員、その他公務員に人権教育研修を行っている。文科省は学校における人権教育の総合的取り組み、人権教育研究推進事業、指導主事研修を行っている。他方、放送法によると、放送事業者は番組の適正化のため審議機関を設置している。審議機関の意見を尊重し、差別煽動、助長によって風俗を害する内容についての是正を行っている。また、学識経験者、メディア関係者などを招いて、フォーラムを2009年から1年間開催した。さらに、放送倫理番組向上のためBPOがある。
部落については、人種差別の定義に照らすと、その趣旨、目的から言って、社会的出身に基づく差別が人種差別に当たらないことは国際的に一般的に認められている。委員会は日本政府と異なる見解を持っている。(*部落は条約適用外なので本来答える必要はないが)日本政府は誠実に対応する姿勢なので、お答えすると、部落関係では、雇用主に公正な採用の指導・啓発を行い、公的住宅の入居について募集、資格、手続きは公正に行うこととし、社会教育施設において差別に関する人権教育も行っている。同和について、偏見、差別をなくすよう、一年を通して啓発活動をしている。
2bの琉球沖縄について、日本政府としてはアイヌ以外に先住民族は存在せず、沖縄は対象とならないと考えている。(*琉球沖縄は先住民族ではないので本来答える必要はないが)、誠実に対応する観点から回答すると、沖縄出身者は法の下に平等であり、権利は保護され、昭和47年の日本復帰以来、沖縄振興開発特別措置法がつくられ、さまざまな施策がとられてきたので、格差は縮小し、産業が発展してきた。また計画の策定主体が国から県へ移行することによって、沖縄主導で計画を作ることが出来るようになった。
2cのアイヌ民族について、2009年年の有識者懇談会報告書をふまえつつ、教育啓発を行い、国民の理解を深めている。アイヌ民族の象徴的空間についての取り組みも進めている。研究、文化振興、産業振興、生活向上を目指し、差別解消、理解促進普及のため、国は北海道の施策を支援している。道外の実態把握にも取り組んでいる。電話相談も行っている。アイヌ民族の歴史と文化にいついて国民の理解の促進するため、イベントによる普及啓発も続けている。民族の共生の象徴となる空間も重要である。アイヌ民族の子弟の教育支援のため、奨学金事業にも政府が支援している。
3aの移住者について、日本国籍を持たないものについての人権尊重は、各省庁が責任を以て実施しいている。法務省は人権尊重を年間強調事項の一つにして、職業紹介、指導における差別扱いの禁止をしている。文科省は教育、後期中等教育段階について、各種学校に通う外国人にも就学支援金を支給している。13年、各種学校は129であり、朝鮮71、韓国1、中華5である。ホテルは旅行業法上差別を禁止しているし、国際観光ホテル整備法もある。人身取引は重大な犯罪であり、人権侵害である。2009年から対策として、被害者の地位に着眼し、2011年には被害者保護措置申し合せ、関係省庁連絡会議を定期的に開催、政府一体となって撲滅を目指し、被害者保護を図っている。
3bの難民について、難民認定申請があれば、仮滞在の許可をしている。認定手続きの間、退去強制自由にあたる場合であっても仮滞在とし、収容を解くことにした。処遇に関する意見を被収容者本人から聴取する。不服がある時は不服申し立てを認める。所長等に調査、結果通知を義務付けている。退去強制手続きにおいて物理的抵抗をした場合、身体の安全を配慮しつつ、必要最小限度の実力行使を行うこととし、そのための心構え、安全確実な護送、送還の内部手続きを周知させるとともに、実技訓練を実施し、過度な実力行使を防止する措置をとっている。
以上が、大使のプレゼンテーション。その内容は文書で提出しているという。
次に日本政府報告書担当のケマル委員が全体に関する分析。
ケマル委員――2010年にソンベリ委員が指摘したとおり、日本国憲法14条に差別禁止規定があるが、条約(ICERD)にある禁止自由をカバーしていない。反差別法をICERD2条~6条にあうように、包括的な形で定める必要がある。
日本政府報告書にはわれわれCERの2010年勧告に対応する情報が入っていない。勧告12,20,21を除いて、入いっていないのは、なぜか。具体的な要請をしたのだが。報告書の中で実質的なことに対応しているかもしれないが、他の締約国の報告書のような形で韓国に対する応答が入っていないのはなぜか。また、日本政府報告書は「前回の報告書参照」という言葉をひじょうに多様している。簡単でも良いので、どういう内容かを書いたほうがわかりやすい。政府報告書は40ページを超えないようにという要請があるが、日本政府報告書は31頁だから少し加筆しても超えない。市民社会との協議を行ったこと、アイヌ先住民族、琉球の生活向上措置にも言及。
次に懸念すべき点である。2010年CERD勧告があったが、部落民に十分な言及がない。条約第1条にいう「世系」について、2010年上田大使が言及したが、今回は言及がない。30年特別措置法があったので、生活水準改善は評価できる。しかし、意識に格差があり、社会的面で差別がある。就職雇用にも差別があるので、最新の情報を知りたい。
パラ9で日本政府は、反差別法が不要と述べている、CERDは差別禁止法の立法を勧めている。
勧告11について、一般的なデータしかないので、マイノリティのデータを別にして出してほしい。報告書には全体のデータしかないので、マイノリティの状況が分かるデータがほしい。
パリ原則にのっとった人権擁護法と苦情処理手続きについて、日本政府に法制定の意思があるのは承知しているが、ほとんど歩みが見られない。他の条約に基づく委員会も日本政府が適切な立法措置を取るよう求めている。
勧告13のICERD4条(a)(b)の留保について、留保を撤回するべきである。政府報告書84,84があるが、懸念を表明したい。特定のグループ、例えば朝鮮学校の子どもを標的とした差別発言や、部落差別が続いている。ヘイト・スピーチには絶対的な定義がないからと言って、マイノリティに対するヘイト・スピーチが良いということにはならない。13年には360件の差別デモがあったと言う情報がある。日本政府は具体的にどのような措置をとったのか。ヘイト・スピーチをおさえるのにどのように措置をとっているのか。朝鮮学校に対するデモについて判決があるというが、もっと詳しい状況を負知りたい。
勧告14について、人権教育をしているのは承知しているが、これまでと同様、公人による差別発言が繰り返されている。これに対して、どのような対応がとられたのか、具体例を知りたい。最近の措置が取られたのではないか。日本社会はコンセンサスを重視し、対決的ではないと言うが、積極的な対応が必要である。マイノリティ、弱者が日本の文化にあわないと言う指摘があるが。また、ヘイトは日本の歴史においては事例がかつてはあったので、朝鮮学校へのデモに厳格な措置が取られる必要があるのではないか。
勧告15について、家庭裁判所調停員になれないことは、見直して参加できるようにできるのではないか。懸念している。いいニュースを期待したい。
勧告16について、帰化を求めるもののアイデンティティを尊重し、氏名に漢字使用の強制を控えることが望ましいが、コメントはあるか。報告書に書かれていない。
勧告17の二重の差別に関する措置を知りたい。マイノリティ女性、子どもには二重の困難、二重の差別があり、女性差別撤廃委員会や自由権規約委員会からも勧告が出ている。
勧告18の戸籍制度であるが、法改正後も、個人情報の誤用がある。部落をはじめとするマイノリティにつき、今でも情報を取ることが可能で、不当な情報収集がなされている。乱用を防ぐためどういう措置を取ったのか。
勧告19の部落差別について、2000年の同和特別法終了後、どうなっているか。明確な部落民概念を、どのようにしているか。
勧告20のアイヌ、先住民族権利宣言について、その後、進捗が見られない。アイヌ代表と協議が必要だ。調査、ILO条約169号批准も。報告書7,8,9があるが、依然として格差が残っている。ILO条約169について受け容れることが出来ない、としている。日本政府は琉球は先住民でないと言う立場だが、琉球の人はみずからをどう考えているのか。自らをどう定義しているのか、さらに検討が必要である。琉球代表との意見交換をするべきだ。軍事基地、米軍基地問題については、(CERDとしては)関与したくない問題であるが、しかし、土地の利用に関わる問題がある。事前協議が重要であり、勧告21にもかかわる。
勧告22の、マイノリティ教育について、アイヌ、その他の人々の言語を使用する権利がある日本政府報告書124-130に、外国人の子どもが出ているが、日本学校での教育である。朝鮮語、朝鮮文化を学ぶ環境はあるか。朝鮮人コミュニティは、政府から資金援助を受けられない。
勧告23の難民について、ある分野で進展があったが、庇護希望者のリスクの度合いがそれぞれ違う。無国籍者を送還しない措置も必要ではないか。
勧告24だが、センシティヴな問題である。日本と日本人以外の差別のないことに関して、レストラン、浴場などの入場が、自由権規約委員会によると日本では平等に処遇されていない。公共施設を日本人しか利用できない。こうした差別的慣習を禁止する必要がある。
勧告25の教科書だが、マイノリティの歴史と言語、アイヌ、琉球の言葉を教えることは、政府報告172にかかわる。
勧告26の人権相談所だが、啓発活動、メディアの役割が重要である。日本は、ICERD7条を履行することに近づいているが、差別はなくなっていないので、努力継続が必要である。
勧告27だが、移住労働者権利保護条約、雇用に関するILO条約、無国籍条約、ジェノサイド条約の批准の検討を要請した。これに対する回答がない。どういう対策が取られているのか。また、搾取を目的とする実務訓練生、技能研修の悪用、安価な未熟練工を強いられている。長時間勤務と差別があるので、技能研修は廃止したほうがいいのではないか。日本は人口が減っているので、技能研修よりも、移住者を入れる必要があるのではないか。

以上は8月20日午後の審議の前半。

人種差別撤廃委員会・日本政府報告書審査(2)NGOブリーフィング

8月20日昼休み、パレ・ウィルソン(国連人権高等弁務官事務所)会議室において、日本関連のNGOのネットワークである人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)主催で、人種差別撤廃委員会CERD委員に対するブリーフィングを開催した。10日の事前ミーティングはCERDが主催したもので、非公式会合とはいえ正規の会場で行われた。20日のブリーフィングはNGO側の主催で、隣の小会議室で行われた。
開始時は8人だったが、遅れて参加した委員も含めて結局18人の委員のうち12人が参加。NGO側は20数名。日本の記者も含めて30人ほど。
NGO側から、移住労働者、外国人女性、在日朝鮮人、沖縄、アイヌ民族などの人権状況について補足説明を行った。
有田芳生(参議院議員)は、朝にジュネーヴに着いたばかりだが、日本におけるヘイト・スピーチについて、日本政府の無策と、議員による努力の経過を説明した。
糸数慶子(参議院議員)は、沖縄差別を報告した。もともと琉球王国だったのに近代に日本に侵略され、日本の一部とされた上、小さな島に米軍基地を押し付けられ、米軍兵士に要る性暴力が絶えないと訴えた。
北海道アイヌ協会は、日本政府がアイヌ民族を先住民族と認めたものの、十分な施策を講じていないので、先住民族権利宣言、CERD一般的勧告23、ILO条約を履行するよう訴えた。
なお、前回2010年のCERDの様子については下記を参照。その前の2001年の記録も下記に掲載。

上記に出て来る上田大使は、昨年5月の拷問禁止委員会で「シャラップ!」と怒鳴って顰蹙を買い、クビになった上田人権人道大使である。

Monday, August 18, 2014

人種差別撤廃委員会・日本政府報告書審査(1)事前ミーティング

8月20・21日、ジュネーヴのパレ・ウィルソン(国連人権高等弁務官事務所)で開催されている人種差別撤廃委員会CERDが、日本政府報告書の審査を行う。2001年、2010年に続く3回目の審査である。日本政府報告書の名称は第7・8・9回報告書となっているが、実際の審査はまとめて行われるため、今回が3回目である。2001年にも2010年にも参加したので、私も今回が3回目。                 
8月18日午前、CERD主催のNGOとの非公式ミーティングが行われた。今週審査を受けるイラク、カメルーン、日本関連のNGOからの情報提供の場である。非公式と言っても、公式会場と同じ会議室にCERD委員が列席し、公開で開催され、NGOが各国の差別実態や政府による条約履行状況について報告する。イラクについては2つのNGO、カメルーンについては1つのNGO。日本関連は「人種差別撤廃NGOネットワーク」に集う諸団体や、日弁連の弁護士たちが多数参加した。正確には数えなかったが18人ほどいた。他に日本政府の外交官が傍聴していた。                      
各NGOは共同して、あるいはそれぞれの報告書を事前にCERDに提出しているが、今回は特に強調したい部分を述べた。多数のNGOが順次、それぞれ2~4分程度で報告した。人種差別撤廃NGOネットワークERDnet、反差別国際運動IMADR、在日本朝鮮人人権協会HURAK、部落解放同盟BLL、日弁連、在日コリアン弁護士協会LAZAK、外交人人権法連絡会、市民外交センター、移住連/ヒューライツ大阪、在日本大韓民国民団、ムスリム弁護団など、13人が発言した。                            
委員からも多数の質問が出た。マルティネス、カラフ、バスケス、ケマル、クリックリー、ユエンなど。NGOは日本政府がCERD勧告を何も実行していないと言うが、前回アイヌに関して日本政府が報告したのではなかったか。ヘイト・スピーチがひどいようだが、標的とされている被害集団は誰か。日本政府は条約4条を留保しているが、留保している国でも一定の措置を講じているが、日本ではどうか。司法において、ヘイト・スピーチ規制と表現の自由の区別が明確にされているのか。ムスリムに対する警察監視の結果、データは具体的にどう使われたか。部落とは何か、同和との関連、等々。各NGOが手分けして回答。回答できなかったものは、20日の昼のブリーフィングの際に回答することになった。                                       

17日、18日とジュネーヴは快晴続き。先週後半は雨天・曇天が続いたが、今日は見事な青空で爽やか。パレ・ウィルソンの窓からレマン湖がキラキラ輝いて見えた。好天が続くと良いが。

Sunday, August 17, 2014

国連人権理事会諮問委員会13会期終了

8月15日、諮問委員会が終了した。このところのテーマは、スポーツとオリンピック憲章による人権促進、腐敗が人権に与える影響、災害後・紛争後の人権、強制措置が人権に与える影響、アルビニズムの人の人権など。14日の午後に、今後の議題をどうするかの論議があった。国際人権活動日本委員会(前田弓恵)は、難民、国内避難民などを含め、フクシマの状況も踏まえて「故郷に帰る権利」の提案をした。NGOからの提案はこれ一つのみ。委員からは、世界人権裁判所や、植民地主義を取り上げたいという発言があった。しかし、次の議題という前に、諮問委員会の危機的状況をどうするかの議論が先だ。                    
14日午後、議長から、これまでに審議した事項のその後に関する報告があり、平和への権利国連宣言草案とその報告書について、6月の人権理事会作業部会で議論され、そこに諮問委員会の議論が反映されたと報告された。ある委員から、作業部会の結果は、前の諮問委員会の草案とは全く違うものになっているので、反映されたとは言えない、との指摘があった。その通りだ。骨抜きにされたのだから。しかし、議長としてはせめて「反映」と言いたかったのだろう。                            
国連人権委員会とその人権小委員会の時代と違って、現在の国連人権理事会と諮問委員会の関係は、まさに「諮問」であり、諮問されたテーマに答えればよいだけの委員会となった。日程は4週間から2週間になり、予算も権限も縮小された。自分ではテーマを決めることが出来ない。おまけに報告書を提出してもたなざらしにされる。職業と身分による差別に関する報告書はたなざらし、平和への権利報告書はいちおう是認されたが、宣言草案は骨抜きにされた。諮問委員会の任務はいったい何なのか、誰もが疑問に思う。                        
このためNGOの参加が激減した。13会期の最終日を除く4日間でNGOの発言は10回。そのうち3回は国際人権活動日本委員会である。傍聴しているNGOメンバーは10~20名だ。人権小委員会時代は100を超えるNGOが押し寄せ、発言のチャンスを競い合い、委員会に提言を繰り返した。今はどんどんNGOが減ってきている。諮問委員会の権限が縮小され、テーマが限られているのだからやむを得ない。                   
欧米の有力NGOは諮問委員会には全く来なくなった。ジュネーヴに常駐メンバーがいても、諮問委員会に顔を出さない。それよりも、上の人権理事会の特別報告者に、自分たちのメンバーや推薦する研究者を押し込むことに力を入れている。その方がはるかに効果的だからだ。人権理事会主催のワークショップで発言したほうが意味がある。だから諮問委員会には来ない。                                 
この状況が続くと、諮問委員会の存在自体が無意味になりかねない。そのため14日に若干の議論がなされた。しかし、解決案は出ない。諮問委員会がNGOをもっと活用できるようにするべきだと言う提案があり、これに対して、日本政府推薦の委員は、諮問委員会が活用するのではなく、委員が個別に自己責任でNGOと協力すればよい。そうでないと、諮問委員会に参加できるジュネーヴ在住など一部のNGOに偏ることになりかねない。委員は世界各地にいるのだから、それぞれの領域でNGOとアクセスすれば、ジュネーヴに来れるNGOだけに偏ることはない、という頓珍漢な発言をしていた。                            
人権小委員会時代のことを知らないから、現状を前に小手先の議論しかしない。世界のNGOが来ないのは、遠くて航空券が高いからではない。諮問委員会に期待できないから、来ないのだ。現にジュネーヴ在住の多くのNGOが諮問委員会13会期に一度も顔を出していない。                                       
人権理事会と諮問委員会の関係を仕切り直ししないと、諮問委員会の存在意義がなくなる。また、人権理事会の特別報告者と諮問委員会の協力関係を構築するとか、人権条約に基づいて設置されている人権条約委員会と諮問委員会の連携を図るなど、できることはあるはずだ。ともあれ13会期は終了した。                                     

18日から、人種差別撤廃委員会CERDの2週目が始まる。審査を受ける政府報告書はカメルーン、イラク、日本、エルサルバドルなど。18日午前に、CERD主催で、委員会とNGOのミーティングが開かれる。このためすでに多数の日本関連NGOがジュネーヴに来ているはずだ。日本政府報告書審査は20日の午後と21日の午前の予定である。


大事なことを書き忘れたので追加。諮問委員会では「論争」がない。人権小委員会の時代には、委員同士の論争が盛んだった。委員と政府代表の間でも、政府同士の間でも、NGOと政府の間でも「論争」があった。論争すればいいと言うものではないが、論争なき仲良しクラブになってはいけない。

Saturday, August 16, 2014

大江健三郎を読み直す(26)記念碑、転換点、そして

大江健三郎『個人的な体験』(新潮社、1964年[新潮文庫、1981年])                 
文壇デヴュー後、60年安保に際して若者代表の役割を負わされ、文学的には試行錯誤を続けた大江は、「セヴンティーン」事件もあって困難な時期を過ごした上、1963年に長男が重い障害を持って生まれるという、個人としても人生の最初の岐路に立たされた。苦境が作家を変えたと言ってしまえば簡単だが、文字通り逆境を乗り越えることによって大江は現代文学の最前線に躍り出て、疾走することになった。その記念碑的作品として本書は今も大江初期の最重要作品である。                                   
1970年代中葉、学生時代に本書を手にしたとき、大江の長男のことを漠然としか知らなかった。どうやら著者自身と子どもがモチーフになっているらしいとは気づいていたものの、それ以上の知識を持たないまま読んだので、どこまでが現実に基づき、どこからが想像、創作なのかといったことに気を取られて読んでいたように思う。そうした読み方が良くないとは思わないが、作品の主題よりも、一つひとつのエピソードに囚われてしまっただろう。また、性愛に目覚めた年代で本書を読むと、不安や恐怖に襲われるが、鳥(バード)や火見子の行動様式には釈然としない思いに駆られもした。大江は、不安や恐怖や絶望を鳥と火見子の行動を通じて描き出しているのに、わかっていながら釈然としないのも事実であった。                                  
文庫に寄せた文章で大江は次のように述べている。「頭部に異常のある新生児として生まれてきた息子に触発されて、僕はこの『個人的な体験』にはじまり。いくつもの作品を書いてきた。それらはすべて、出発点をなした長編とおなじく、現実生活での経験にぴったりかさなっているというのではなく、しかしやはりその自分としての経験に、深いところで根を達しているものであった。それらの作品のいちいちについて、表現されている知恵遅れの子供と父親との関係の差違を見れば、ひとつの作品ごとの、小説の方法についての僕の戦略があきらかであろう。それは文体の選び方ということへも、直接力を及ぼしたのであった。」                                            

本作に始まり、『空の怪物アグイー』『万延元年のフットボール』『洪水はわが魂に及び』『ピンチランナー調書』へと展開していく大江世界の変遷、変容を確認していく必要があるだろう。

サントクロワ・オルゴール博物館散歩

8月15日はサントクロワのオルゴール博物館CIMAへ行ってきた。あいにくの雨模様――降ったり止んだりだったが、ジュネーヴからイヴェルドン・レバンへ出て、お城のイヴェルドン博物館、ペスタロッチ記念館を見学し、昼食後に、登山鉄道でサントクロワへ。イヴェルドンが標高400メートルを超えるので、サントクロワはたぶん800メートル以上の高地だろう。                                                      
サントクロワには2つのオルゴール博物館があるが、今回は時間の都合で駅前にあるCIMAにした。午後2時からガイド付きの見学に加わった。もっとも、ガイドはフランス語なのでさっぱりわからない。オルゴールづくりの歴史、部品のあれこれ、各種のオルゴールの違いを学び、それぞれの音色を楽しんだ。年代物のオルゴール、からくり時計、からくり人形、自動筆記人形など次々と奏でる音楽がとてもよかった。90分のガイドを終えて、絵葉書を買って帰ってきた。神戸のオルゴール博物館もよかったが、やはりサントクロワだ。                                 

夜はジュネーヴに戻ってLes 5 Portesでマグロのたたきとビーフ・タルタル、Le Port des Soupir, Geneve, 2102.