8月15日、諮問委員会が終了した。このところのテーマは、スポーツとオリンピック憲章による人権促進、腐敗が人権に与える影響、災害後・紛争後の人権、強制措置が人権に与える影響、アルビニズムの人の人権など。14日の午後に、今後の議題をどうするかの論議があった。国際人権活動日本委員会(前田弓恵)は、難民、国内避難民などを含め、フクシマの状況も踏まえて「故郷に帰る権利」の提案をした。NGOからの提案はこれ一つのみ。委員からは、世界人権裁判所や、植民地主義を取り上げたいという発言があった。しかし、次の議題という前に、諮問委員会の危機的状況をどうするかの議論が先だ。
14日午後、議長から、これまでに審議した事項のその後に関する報告があり、平和への権利国連宣言草案とその報告書について、6月の人権理事会作業部会で議論され、そこに諮問委員会の議論が反映されたと報告された。ある委員から、作業部会の結果は、前の諮問委員会の草案とは全く違うものになっているので、反映されたとは言えない、との指摘があった。その通りだ。骨抜きにされたのだから。しかし、議長としてはせめて「反映」と言いたかったのだろう。
国連人権委員会とその人権小委員会の時代と違って、現在の国連人権理事会と諮問委員会の関係は、まさに「諮問」であり、諮問されたテーマに答えればよいだけの委員会となった。日程は4週間から2週間になり、予算も権限も縮小された。自分ではテーマを決めることが出来ない。おまけに報告書を提出してもたなざらしにされる。職業と身分による差別に関する報告書はたなざらし、平和への権利報告書はいちおう是認されたが、宣言草案は骨抜きにされた。諮問委員会の任務はいったい何なのか、誰もが疑問に思う。
このためNGOの参加が激減した。13会期の最終日を除く4日間でNGOの発言は10回。そのうち3回は国際人権活動日本委員会である。傍聴しているNGOメンバーは10~20名だ。人権小委員会時代は100を超えるNGOが押し寄せ、発言のチャンスを競い合い、委員会に提言を繰り返した。今はどんどんNGOが減ってきている。諮問委員会の権限が縮小され、テーマが限られているのだからやむを得ない。
欧米の有力NGOは諮問委員会には全く来なくなった。ジュネーヴに常駐メンバーがいても、諮問委員会に顔を出さない。それよりも、上の人権理事会の特別報告者に、自分たちのメンバーや推薦する研究者を押し込むことに力を入れている。その方がはるかに効果的だからだ。人権理事会主催のワークショップで発言したほうが意味がある。だから諮問委員会には来ない。
この状況が続くと、諮問委員会の存在自体が無意味になりかねない。そのため14日に若干の議論がなされた。しかし、解決案は出ない。諮問委員会がNGOをもっと活用できるようにするべきだと言う提案があり、これに対して、日本政府推薦の委員は、諮問委員会が活用するのではなく、委員が個別に自己責任でNGOと協力すればよい。そうでないと、諮問委員会に参加できるジュネーヴ在住など一部のNGOに偏ることになりかねない。委員は世界各地にいるのだから、それぞれの領域でNGOとアクセスすれば、ジュネーヴに来れるNGOだけに偏ることはない、という頓珍漢な発言をしていた。
人権小委員会時代のことを知らないから、現状を前に小手先の議論しかしない。世界のNGOが来ないのは、遠くて航空券が高いからではない。諮問委員会に期待できないから、来ないのだ。現にジュネーヴ在住の多くのNGOが諮問委員会13会期に一度も顔を出していない。
人権理事会と諮問委員会の関係を仕切り直ししないと、諮問委員会の存在意義がなくなる。また、人権理事会の特別報告者と諮問委員会の協力関係を構築するとか、人権条約に基づいて設置されている人権条約委員会と諮問委員会の連携を図るなど、できることはあるはずだ。ともあれ13会期は終了した。
18日から、人種差別撤廃委員会CERDの2週目が始まる。審査を受ける政府報告書はカメルーン、イラク、日本、エルサルバドルなど。18日午前に、CERD主催で、委員会とNGOのミーティングが開かれる。このためすでに多数の日本関連NGOがジュネーヴに来ているはずだ。日本政府報告書審査は20日の午後と21日の午前の予定である。
大事なことを書き忘れたので追加。諮問委員会では「論争」がない。人権小委員会の時代には、委員同士の論争が盛んだった。委員と政府代表の間でも、政府同士の間でも、NGOと政府の間でも「論争」があった。論争すればいいと言うものではないが、論争なき仲良しクラブになってはいけない。
大事なことを書き忘れたので追加。諮問委員会では「論争」がない。人権小委員会の時代には、委員同士の論争が盛んだった。委員と政府代表の間でも、政府同士の間でも、NGOと政府の間でも「論争」があった。論争すればいいと言うものではないが、論争なき仲良しクラブになってはいけない。