Wednesday, August 20, 2014

人種差別撤廃委員会・日本政府報告書審査(3)審査1日目・前半

*下記は現場でのメモと記憶による報告であり、正確さの保証はありません。論文や報道などに引用することはできません。CERDの雰囲気をごくごくおおまかに伝えるものとしてご了解ください。残念ながら意味不明の部分もあります。
*CERDを傍聴された方、下記に間違いや不適切な個所がありましたらご指摘願います。

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8月20日午後3時~6時、ジュネーヴのレマン湖のほとりにあるパレ・ウィルソン大会議室でCERDによる日本政府報告書審査が行われた。正面壇上に議長と、日本政府代表が並ぶ。会議室中央部の席に18人の委員と、事務局、その間に残りの日本政府代表たちが座る。名簿によると今回東京から30人近くがやって来て、在ジュネーヴ日本政府代表部メンバーとともに、審査に臨んでいる。担当は外務省人権人道課だが、法務省、警察庁、文科省、厚生労働省など関係省庁の代表が来ている。
(渡航費・宿泊費を含めて膨大な税金が使われている。税金の無駄使いだが、若い官僚が経験を積むのは必要なことでもある。問題は、人種差別撤廃条約に従って差別をなくすために仕事をしているのか、それとも差別を温存しながらごまかす仕事をしているのか、である。)
最初に日本政府のプレゼンテーション。無知で傲慢な上田人権人道大使がクビになったので、今回の代表はKONOジュネーヴ常駐大使。
KONO大使――第1にアイヌ政策、第2に難民条約の履行についての手続きを説明し、ミャンマー難民受け入れは国際社会の高い評価を受けていると述べた。さらに、自分の人権だけでなく他人の人権を理解し責任を自覚して相互に尊重し合うという考えのもと人権教育・啓発を重視していると述べ、人権教育啓発促進法と基本計画を説明した。法務省には外国人のための人権相談もあり、人権侵害は速やかに調査していると述べた。東京オリンピックにも言及、オリンピック憲章も引用して差別に反対する姿勢を示した。
以下、CERDから事前に出された質問(リスト・オブ・イッシュー)に即して答えた。1aの国内人権機関について。日本国憲法14条の法の下の平等の規定があり、関係法によって雇用、教育、教育、医療について差別を禁止している。差別行為がなされれば民法の不法行為に当たり、人種差別煽動は一定の場合には名誉毀損にあたる。日本は法の下の平等を最大限尊重している。新たな人権委員会設置法案は国会に提出されたが、廃案となった。人権救済制度の在り方には適切に検討している。
1bのヘイト行為を禁止する法制定について。差別行為は不法行為になり、損害賠償責任の根拠となり、一定の場合には名誉毀損となる。他方、表現の自由を慎重に検討しなければならないと考えている。差別意識を生じさせることに繋がる言動には中止させたり、啓発活動を行っている。インターネット上の権利侵害については、人権侵害情報を削除した場合、プロバイダーが責任を問われないようプロバイダー責任制限法がある。
1cの思想の流布宣伝、ヘイト・スピーチについて、京都朝鮮学校事件で本年7月8日に大阪高裁判決が出た。事案は朝鮮学校に対して侮蔑的活動、差別的行為が行われたもので、一審(京都地裁)は授業妨害行為と名誉毀損を認定して、原告(被害者)による損害賠償請求を一部認容し、差し止め請求も認めた。控訴審(大阪高裁)は一審を支持して控訴棄却したが、本件は最高裁に係属中と聞いている。本件は、刑事事件でも威力業務妨害罪、器物損壊罪、侮辱罪などで起訴するなど厳正な処分をしている。救済へのアクセスについては、司法支援センターがつくられ順調に業務を行い、無料相談は累計240万件に達している。
1dの公務職員研修については、教師、裁判官、検察官、入国管理局職員、その他公務員に人権教育研修を行っている。文科省は学校における人権教育の総合的取り組み、人権教育研究推進事業、指導主事研修を行っている。他方、放送法によると、放送事業者は番組の適正化のため審議機関を設置している。審議機関の意見を尊重し、差別煽動、助長によって風俗を害する内容についての是正を行っている。また、学識経験者、メディア関係者などを招いて、フォーラムを2009年から1年間開催した。さらに、放送倫理番組向上のためBPOがある。
部落については、人種差別の定義に照らすと、その趣旨、目的から言って、社会的出身に基づく差別が人種差別に当たらないことは国際的に一般的に認められている。委員会は日本政府と異なる見解を持っている。(*部落は条約適用外なので本来答える必要はないが)日本政府は誠実に対応する姿勢なので、お答えすると、部落関係では、雇用主に公正な採用の指導・啓発を行い、公的住宅の入居について募集、資格、手続きは公正に行うこととし、社会教育施設において差別に関する人権教育も行っている。同和について、偏見、差別をなくすよう、一年を通して啓発活動をしている。
2bの琉球沖縄について、日本政府としてはアイヌ以外に先住民族は存在せず、沖縄は対象とならないと考えている。(*琉球沖縄は先住民族ではないので本来答える必要はないが)、誠実に対応する観点から回答すると、沖縄出身者は法の下に平等であり、権利は保護され、昭和47年の日本復帰以来、沖縄振興開発特別措置法がつくられ、さまざまな施策がとられてきたので、格差は縮小し、産業が発展してきた。また計画の策定主体が国から県へ移行することによって、沖縄主導で計画を作ることが出来るようになった。
2cのアイヌ民族について、2009年年の有識者懇談会報告書をふまえつつ、教育啓発を行い、国民の理解を深めている。アイヌ民族の象徴的空間についての取り組みも進めている。研究、文化振興、産業振興、生活向上を目指し、差別解消、理解促進普及のため、国は北海道の施策を支援している。道外の実態把握にも取り組んでいる。電話相談も行っている。アイヌ民族の歴史と文化にいついて国民の理解の促進するため、イベントによる普及啓発も続けている。民族の共生の象徴となる空間も重要である。アイヌ民族の子弟の教育支援のため、奨学金事業にも政府が支援している。
3aの移住者について、日本国籍を持たないものについての人権尊重は、各省庁が責任を以て実施しいている。法務省は人権尊重を年間強調事項の一つにして、職業紹介、指導における差別扱いの禁止をしている。文科省は教育、後期中等教育段階について、各種学校に通う外国人にも就学支援金を支給している。13年、各種学校は129であり、朝鮮71、韓国1、中華5である。ホテルは旅行業法上差別を禁止しているし、国際観光ホテル整備法もある。人身取引は重大な犯罪であり、人権侵害である。2009年から対策として、被害者の地位に着眼し、2011年には被害者保護措置申し合せ、関係省庁連絡会議を定期的に開催、政府一体となって撲滅を目指し、被害者保護を図っている。
3bの難民について、難民認定申請があれば、仮滞在の許可をしている。認定手続きの間、退去強制自由にあたる場合であっても仮滞在とし、収容を解くことにした。処遇に関する意見を被収容者本人から聴取する。不服がある時は不服申し立てを認める。所長等に調査、結果通知を義務付けている。退去強制手続きにおいて物理的抵抗をした場合、身体の安全を配慮しつつ、必要最小限度の実力行使を行うこととし、そのための心構え、安全確実な護送、送還の内部手続きを周知させるとともに、実技訓練を実施し、過度な実力行使を防止する措置をとっている。
以上が、大使のプレゼンテーション。その内容は文書で提出しているという。
次に日本政府報告書担当のケマル委員が全体に関する分析。
ケマル委員――2010年にソンベリ委員が指摘したとおり、日本国憲法14条に差別禁止規定があるが、条約(ICERD)にある禁止自由をカバーしていない。反差別法をICERD2条~6条にあうように、包括的な形で定める必要がある。
日本政府報告書にはわれわれCERの2010年勧告に対応する情報が入っていない。勧告12,20,21を除いて、入いっていないのは、なぜか。具体的な要請をしたのだが。報告書の中で実質的なことに対応しているかもしれないが、他の締約国の報告書のような形で韓国に対する応答が入っていないのはなぜか。また、日本政府報告書は「前回の報告書参照」という言葉をひじょうに多様している。簡単でも良いので、どういう内容かを書いたほうがわかりやすい。政府報告書は40ページを超えないようにという要請があるが、日本政府報告書は31頁だから少し加筆しても超えない。市民社会との協議を行ったこと、アイヌ先住民族、琉球の生活向上措置にも言及。
次に懸念すべき点である。2010年CERD勧告があったが、部落民に十分な言及がない。条約第1条にいう「世系」について、2010年上田大使が言及したが、今回は言及がない。30年特別措置法があったので、生活水準改善は評価できる。しかし、意識に格差があり、社会的面で差別がある。就職雇用にも差別があるので、最新の情報を知りたい。
パラ9で日本政府は、反差別法が不要と述べている、CERDは差別禁止法の立法を勧めている。
勧告11について、一般的なデータしかないので、マイノリティのデータを別にして出してほしい。報告書には全体のデータしかないので、マイノリティの状況が分かるデータがほしい。
パリ原則にのっとった人権擁護法と苦情処理手続きについて、日本政府に法制定の意思があるのは承知しているが、ほとんど歩みが見られない。他の条約に基づく委員会も日本政府が適切な立法措置を取るよう求めている。
勧告13のICERD4条(a)(b)の留保について、留保を撤回するべきである。政府報告書84,84があるが、懸念を表明したい。特定のグループ、例えば朝鮮学校の子どもを標的とした差別発言や、部落差別が続いている。ヘイト・スピーチには絶対的な定義がないからと言って、マイノリティに対するヘイト・スピーチが良いということにはならない。13年には360件の差別デモがあったと言う情報がある。日本政府は具体的にどのような措置をとったのか。ヘイト・スピーチをおさえるのにどのように措置をとっているのか。朝鮮学校に対するデモについて判決があるというが、もっと詳しい状況を負知りたい。
勧告14について、人権教育をしているのは承知しているが、これまでと同様、公人による差別発言が繰り返されている。これに対して、どのような対応がとられたのか、具体例を知りたい。最近の措置が取られたのではないか。日本社会はコンセンサスを重視し、対決的ではないと言うが、積極的な対応が必要である。マイノリティ、弱者が日本の文化にあわないと言う指摘があるが。また、ヘイトは日本の歴史においては事例がかつてはあったので、朝鮮学校へのデモに厳格な措置が取られる必要があるのではないか。
勧告15について、家庭裁判所調停員になれないことは、見直して参加できるようにできるのではないか。懸念している。いいニュースを期待したい。
勧告16について、帰化を求めるもののアイデンティティを尊重し、氏名に漢字使用の強制を控えることが望ましいが、コメントはあるか。報告書に書かれていない。
勧告17の二重の差別に関する措置を知りたい。マイノリティ女性、子どもには二重の困難、二重の差別があり、女性差別撤廃委員会や自由権規約委員会からも勧告が出ている。
勧告18の戸籍制度であるが、法改正後も、個人情報の誤用がある。部落をはじめとするマイノリティにつき、今でも情報を取ることが可能で、不当な情報収集がなされている。乱用を防ぐためどういう措置を取ったのか。
勧告19の部落差別について、2000年の同和特別法終了後、どうなっているか。明確な部落民概念を、どのようにしているか。
勧告20のアイヌ、先住民族権利宣言について、その後、進捗が見られない。アイヌ代表と協議が必要だ。調査、ILO条約169号批准も。報告書7,8,9があるが、依然として格差が残っている。ILO条約169について受け容れることが出来ない、としている。日本政府は琉球は先住民でないと言う立場だが、琉球の人はみずからをどう考えているのか。自らをどう定義しているのか、さらに検討が必要である。琉球代表との意見交換をするべきだ。軍事基地、米軍基地問題については、(CERDとしては)関与したくない問題であるが、しかし、土地の利用に関わる問題がある。事前協議が重要であり、勧告21にもかかわる。
勧告22の、マイノリティ教育について、アイヌ、その他の人々の言語を使用する権利がある日本政府報告書124-130に、外国人の子どもが出ているが、日本学校での教育である。朝鮮語、朝鮮文化を学ぶ環境はあるか。朝鮮人コミュニティは、政府から資金援助を受けられない。
勧告23の難民について、ある分野で進展があったが、庇護希望者のリスクの度合いがそれぞれ違う。無国籍者を送還しない措置も必要ではないか。
勧告24だが、センシティヴな問題である。日本と日本人以外の差別のないことに関して、レストラン、浴場などの入場が、自由権規約委員会によると日本では平等に処遇されていない。公共施設を日本人しか利用できない。こうした差別的慣習を禁止する必要がある。
勧告25の教科書だが、マイノリティの歴史と言語、アイヌ、琉球の言葉を教えることは、政府報告172にかかわる。
勧告26の人権相談所だが、啓発活動、メディアの役割が重要である。日本は、ICERD7条を履行することに近づいているが、差別はなくなっていないので、努力継続が必要である。
勧告27だが、移住労働者権利保護条約、雇用に関するILO条約、無国籍条約、ジェノサイド条約の批准の検討を要請した。これに対する回答がない。どういう対策が取られているのか。また、搾取を目的とする実務訓練生、技能研修の悪用、安価な未熟練工を強いられている。長時間勤務と差別があるので、技能研修は廃止したほうがいいのではないか。日本は人口が減っているので、技能研修よりも、移住者を入れる必要があるのではないか。

以上は8月20日午後の審議の前半。