Monday, November 23, 2020

ヘイト・スピーチ法研究文献(153)

桧垣伸次「ヘイト・スピーチ規制を考える」『法学館憲法研究所報』22号(2020年)

『ヘイト・スピーチ規制の憲法学的考察』(法律文化社、2017)の著者である。

日本はこれまでアメリカ型に近いアプローチをとってきたが、「近年の問題状況を踏まえて、対策に乗り出している。日本のアプローチは、アメリカ型ともヨーロッパ型とも異なる『第3の道』であるとみることができる」として、日本におけるヘイト・スピーチの現状、及びヘイト・スピーチ解消法を検討している。

特に、解消法が国や地方自治体に啓発や教育活動を求めている点に着目して、「解消法が求めるこれらの政府の行為は、『政府言論』と捉えることができる。政府言論の法理は、アメリカの判例理論を通じて発展してきた法理である。同法理は、政府は、規制主体としてだけではなく、自身が表現主体となることがあり、その場合には、見解差別も許容されるとするものである。民主政のもとでは、政府が自身の見解を表明することはむしろ必要とされるため、政府はいつどのようなことを話すことも自由であるとされる」という。実質的に強制となるような啓発は許されないが、規制ではない啓発と教育活動が重要だとする。

「むすび」では、解消法によって行政がどこまで対処できるかうまだ不明確である。啓発活動の成果をはかることは難しい。ヘイト・スピーチの明確な定義がないため、規制範囲が明らかでない。歴史的・社会的背景を検討しなければならない。これらの問題を指摘して、「ヘイト・スピーチといっても、さまざまなものがあるので、一括りに考えるのではなく、害悪ごとに類型化し、それぞれ規制可能性を探る必要性がある」という。

Sunday, November 22, 2020

マルクスのエコ社会主義と<コモン>

 斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)

新型コロナのためオンライン授業に追われて、他のことがなかなかできない。講演会はキャンセルになり、遠出も控えてきた。秋になって、参加したい市民集会が徐々に開かれるようになってきたが、まだ参加できていない。八王子で自宅と勤務先の往復にとどめている。

研究も読書もなかなか手につかない。連載原稿だけは何とかこなしてきたが、それ以上のことはできずにいる。

そうした中、話題の1冊をようやく読んだ。「気候変動、コロナ禍…。文明崩壊の危機。唯一の解決策は潤沢な脱経済成長だ。」という宣伝文句。ポイントは「潤沢な脱経済成長」だ。その意味は本書で何度も繰り返されているが、資本主義は希少性を重んじ、貧困を生み出す。使用価値と価値の対立をいかに超えていくか。晩年のマルクスにそのカギがあるという。

著者は1987年生まれの経済思想研究者で、エコロジーとマルクス主義の双方に詳しく、なおかつ晩年のマルクスの手稿を研究して、そこから得た知見を前著『大洪水の前に』で展開した。その上に立って、次のステップに挑んでいる。

冒頭から「SDGsは大衆のアヘンである!」と厳しい突っ込みだ。気候変動と帝国的生活様式の関係を暴き出し、これに対処しようとする気候ケインズ主義の限界を指摘する。成長を本質とする資本主義システムでは脱成長はできないという。そこから晩期マルクスの思想の解明に転じたうえで、「欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム」論を打ち出す。論旨は明快であり、魅力的な1冊だ。

潤沢なコミュニズムへの道が、一件ローカルに見えるコミュニティや地方自治体、社会運動のつながり、「生産の<コモン>化、ミュニシパリズム、市民議会」であり、「ワーカーズ・コープでもいい、学校ストライキでもいい、有機農業でもいい」という。地方自治体の議員、環境NGO、市民電力、労働組合、という話なので、拍子抜けしたが、3.5%の市民が本気で立ち上がれば、社会変革は可能だという。設計図はないが、いちおうの青写真は著者の頭の中にあるのかもしれない。次著も楽しみだ。

Saturday, November 21, 2020

ヘイト・クライム禁止法(187)パレスチナ

パレスチナがCERDに初めて提出した報告書(CERD/C/PSE/1-2. 16 October 2018

パレスチナはCERD一般的勧告35号に合致して、条約第4条と表現の自由のバランスをとっている。パレスチナ独立宣言は国連の原則と目的、世界人権宣言を尊重している。国際自由権規約に留保なしに加入した。基本法19条及び1995年の印刷出版法第2条は意見と表現の自由を保障する。

刑法は人種の優越性の流布、人種・民族憎悪、憎悪の煽動、暴力の煽動を行う表現の自由を規制する。1960年のヨルダン刑法130条は、西岸に適用されるが、国民感情を貶め、人種的宗教的緊張を刺激する目的の宣伝を流布する者は3年以上15年以下の刑事施設収容とする。刑法150条は宗教的人種的緊張に油を注ぎ、コミュニティ間や国民間の紛争を扇動する目的の文書や言説を行う者は6月以上3年以下の刑事施設収容とする。

 1936年の刑法はガザ地区に適用されるが、刑法59条及び60条は、パレスチナ住民の間に不和をもたらす者、住民の異なる人々に悪意や敵意の感情を助長する者は3年の刑事施設収容とする。

 1995年の印刷出版法第47条は、国民の統合を貶め、犯罪実行を煽動し、敵意を拡散し、憎悪や不和を植え付け、コミュニティの構成員の信条主義を刺激するものは3月以下の停職とする。

 2007年の公職選挙法第108条は、性別、宗教、信仰、職業、障害を基に他の候補者を避難する宣伝、言説、広告又は図像を用いた者は6月以上の刑事施設収容、及び500ドルの罰金とする。

 2017年のサイバー犯罪法第24条は、特定の集団に対する人種差別を目的とし、人種、信条、皮膚の色、外貌又は障害に基づいて人を脅迫、侮辱、攻撃し、インターネットや情報技術を通して人種差別に油を注ぐ情報を流布・回覧するウエブサイト、アプリケーション、電子アカウントをつくった者は、一定期間の強制労働、及び5000以上10万以下ヨルダン・ディナールの罰金とする。

 サイバー犯罪法第25条は、国際法文書に示されたジェノサイドや人道に対する罪を誤解し、又は正当化し、人道に対する罪の実行を援助・煽動した者は10年以上の強制労働とする。

 パレスチナにはアルメニア人やシリア人も居住するので、人種、皮膚の色、世系、人種的民族的出身を超えた交差性原則を考慮している。

 西岸に適用される刑法第278条は、他人の宗教感情を攻撃し、宗教信仰を侮辱する印刷物、文書、図像、絵画、シンボルを配布した者、公共の場や他人に聞こえる範囲で、その人の宗教感情を攻撃、侮辱する者は3月以上の刑事施設収容又は20ディナールの罰金とする。

 ガザに適用される刑法第149条は、他人の宗教感情を攻撃し、宗教信仰を侮辱する印刷物、文書、図像、絵画、シンボルを配布した者、公共の場や他人に聞こえる範囲で、その人の宗教感情を攻撃、侮辱する者は1年の刑事施設収容とする。

 1995年尾印刷出版法第47条は、宗教や信仰を貶める記事を掲載した新聞やメディアについて3月以上の停職とする。

 2017年のサイバー犯罪法第21条は、聖なる場所、宗教信仰を害し、侮辱する意図をもって、インターネットや情報技術を通じてウエブサイトを作り、情報を流布した者は、1年以上の刑事施設収容及び/又は2000以上5000以下ディナールの罰金とする。

 西岸に適用される刑法第144条は、内戦や信仰対立を引き起こす意図をもって組織された武装集団に参加した者は修身の刑事施設収容とする。

 西岸に適用される刑法第151条は、宗教的緊張や人種的緊張を煽り、コミュニティ間の紛争を煽動するために設立された組織に参加した者は、6月以上3年以下の刑事施設収容、及び50ディナールの罰金とする。当該目的の組織は解散される。

 ガザに適用される刑法第69条は、違法組織とは、住民に不和を掻き立てる目的の行為を唱道、煽動、鼓舞する人の集団とする。第70条は、違法集団のメンバーとなった16歳以上の者、違法組織の事務局員となった者、違法組織の代表者は1年の刑事施設とする。

2012年のイスラエル政府報告書審査の結果としてCERDがイスラエルに勧告したように、イスラエル占領下でヘイト・スピーチの禁止が必要である。占領権力はヘイトの文化を改革する措置を講じていない。それどころかユダヤ系イスラエルの人種的優越性に基づく思想が公式に信奉されている。2017年、イスラエル外務省は、イスラエルは文明都市であり、アラブ人は遅れた非人間的だとする人種主義的漫画を出版した。これは人種主義と暴力を煽動・鼓舞するものである。

 2001年のダーバン会議の時に、イスラエル財務大臣が、パレスチナが参加しているからという理由で「憎悪の祭り」と決めつけた。イスラエルによる差別政策にパレスチナ人が苦しんできたことを無視している。イスラエルは人種主義的で敵対的な環境を創り出し、アラブ人やパレスチナ人の殺害を唱える過激集団を育成してきた。非常に多くの事例があるが、一部を紹介する。

ヒルトップ青年集団は、占領パレスチナの丘に違法な山猫基地を作り過激な宗教的活動をしている。パレスチナ人と財産を攻撃してきた。

「値段札」集団はヒルトップ青年集団に属するが、西岸のパレスチナ人を攻撃してきた。もっとも有名な事件は南ナブルスのドマ村のダワブシャ家族の家を襲撃し、夫婦と赤ん坊が焼き殺された。

レハヴァ組織は、ユダヤ人と非ユダヤ人の結婚を阻止しようとする過激な人種主義集団である、西岸の特殊キャンプで訓練を続けている。

ユダヤ人タスクフォースは、イスラエルはすべてユダヤ人のための土地であるという主張で、パレスチナ人を排除する活動をしてきた。

占領下のイェルサレムではパレスチナ人に対する煽動、暴力、ハラスメント、人種差別の環境が抑制されていない。住民を攻撃する武装集団、日々のハラスメントが続いている。某量の波はパレスチナ人の身体的統合だけでなく生命権に影響を及ぼしている。2014年7月2日、イスラエル植民者は東イェルサレムのシュファ難民キャンプの赤ん坊を誘拐し、焼き殺した。植民者はアルメニア人も攻撃して、アルメニア人地区の壁に「アラブ人とアルメニア人に死を」と落書きしている。

CERDがパレスチナに出した勧告(CERD/C/PSE/CO/1-2.20September 2019

刑事司法における人種主義の予防に関する一般的勧告31を想起し、人種差別の申し立てと法的対応のないこと、法的救済が貧弱であることに注意を喚起し、責任者の捜査と制裁を行うよう勧告する。法執行官、検察官、裁判官その他の公務員に人種差別に関する研修を行うこと。条約の下で保障される権利について啓発キャンペーンを行うこと。捜査、訴追、判決、被害者補償に関する統計データを報告すること。

1936年刑法、1960年刑法、印刷出版法、サイバー犯罪法がヘイト・クライム/スピーチを犯罪としているが、条約第4条に完全に合致していない。規定が過度に広範であいまいなため、表現の自由に重大な制限を科し、ジャーナリストや人権活動家を犯罪化してしまう懸念がある。ハマスによるメディアやソーシャルメディア、学校教科書に、イスラエル人に対するヘイト・スピーチがあり、反ユダヤ主義に油を注いでいる。

1936年刑法、1960年刑法、印刷出版法、サイバー犯罪法を修正して、条約第4条に合致させること。ジャーナリスト、人権活動家を傷害、ハラスメント、逮捕、拘禁、訴追するほうが表現の自由を制約しているので是正すること。公的人物、政治家、メディアがインターネット上でヘイト・スピーチや暴力の煽動をしているので、これと闘い、学校教科書から偏見と憎悪のもとになる記述を削除すること。

Monday, October 26, 2020

ヘイト・クライム禁止法(186)コロンビア

コロンビアがCERDに提出した報告書(CERD/C/COL/17-19. 14 November 2018

二〇一一年の法律一四八二号の目的きは、人種、民族、宗教、国籍、政治イデオロギー、哲学イデオロギー、性別、性的志向又は障害に基づいて差別した者を刑事処罰することである。障害については二〇一五年改正で挿入された。人種主義と差別の定義は、人種、国籍、性別又は性的志向に基づいて人の権利の完全な行使を予防、妨害、制限することである。人に心身の害悪を引き起こすことを目的とするハラスメントや差別行為について刑罰を科す。公然と、マスメディアにおいて、公務員によるハラスメントや差別には刑罰が加重される。

 検察庁が扱った事案は三六八件であり、人種主義や差別が二に七件、ハラスメントが一四一件である。そのうち五件が裁判に付され、一件が有罪判決となっている。

 二〇一四年の憲法裁判所判決は、障害者が法改正以前に差別の被害者となる危険があったと認定した。

 二〇一五年の憲法裁判所判決は、民族的アイデンティティゆえに懲戒権を行使できなかった事案で、平等権の保護を言い渡した。

 二〇一七年の憲法裁判所判決は、表現の自由権と法律一四八二号によるヘイト・スピーチの禁止について検討した。

 二〇一二年の決定によって、内務大臣の諮問機関として差別・人種主義監督官が置かれている。人種差別と人種主義について啓発する教育計画を策定し、地方自治体に包括的施策を助言し、事件処理方法を確立し、人種差別を防止する公共政策を勧告する。被害者支援サービスも行う。二〇一四~一八年、一〇四件の人種差別申立てを受理した。男性が四九件、女性が三四件、子どもが一一件、集団が八件である。そのうち四二件は検察庁に送付された。

CERDがコロンビアに出した勧告(CERD/C/COL/CO/17-19. 22 January 2020

一般的勧告第一五号及び第三五号に照らして、ヘイト・スピーチ、人種差別の煽動、人種主義表現を予防するため実効的な措置を講じること。排外主義、ヘイト・スピーチ、人種差別の煽動、人種的動機による暴力を捜査し、責任者を訴追し処罰すること。多様性を尊重し、人種差別を撤廃する啓発活動を実施すること。人種憎悪を正当化し助長する思想の流布を犯罪とし、人種差別を煽動する団体を禁止すること。

Sunday, October 25, 2020

ヘイト・クライム禁止法(185)ポーランド

 ポーランド政府がCERDに提出した報告書(CERD/C/POL/22-24. 22 August 2018

今回の報告書は、スポーツにおけるレイシズム、インターネット上のヘイト・スピーチ、ヘイト助長団体の3つを報告している。

スポーツにおけるレイシズムでは、二〇一二~一七年、大半のスポーツ領域では事件が起きていないが、サッカーの試合で起きている。ポーランド・サッカー協会の報告によると、協会は規律規則を作成し、攻撃的横断幕の展示を禁止している。違反事件には最低五〇〇〇PLN(約一一八〇ユーロ)の罰金としている。六年間に四四件の事案が報告された。

検察庁が担当した事案はごく少なく、減少している。しかし、協会はレイシズム事件予防に取り組んでいる。五二のクラブチームのためにレイシズム予防の訓練のできる講師を要請している。攻撃的スローガンの旗や横断幕の監視をしている。サポーターに反差別メッセージ付きのTシャツを提供している。ソーシャルメディアやウエブサイトでも反差別をアピールしている。

検事総長はインターネット上のヘイト・スピーチと闘うための活動を続けている。二〇一二年一〇月二九日、検事総長は私訴事件への検察官関与のためのガイドラインを出した。差別のための誹謗中傷犯罪であって、検察官専権ではなく私訴による刑事事件への検察官関与に言及している。これらの犯罪への検察官関与が正当化されるのは、電話やインターネットによる犯罪の場合、被害者が実行犯の特定が困難だからである。

 二〇一四年一〇月二七日、検事総長はインターネットによるヘイト・クライムについてのガイドラインを出した。これには証拠確保、記録、他の政府機関やNGOとの協力、非刑罰的措置も含まれる。

 二〇一六年一二月一日、警察庁サイバー犯罪と闘う部局が設置された。通常業務として、ソーシャルメディア、ウエブフォーラム、ウエブサイトの関連内容の監視を行う。刑法違反のヘイト・スピーチ犯罪を発見した場合、インターネット・ユーザーの個人情報特定を行う。個人情報は警察の担当部局に送付される。認知局には二四時間運用サービス課が設置されている。

 二〇一七年八月三一日、警察庁サイバー犯罪と闘う部局に、サーバースペースにおけるヘイト・クライムと闘う調整官が置かれた。同年九月二八日、首都警察のサイバー犯罪と闘うユニットも置かれた。

刑法第一一九条や一九〇条など人種憎悪助長犯罪の書き込みのあるウエブサイトを特定した場合、ドメイン所有者の特定がなされる。当該情報は訴追判断や更なる手続きのための決定判断に利用される。訴追に当たっての困難の一つは当該サーバーや書き込みが外国領で行われていることである。当該国家との協力が要請される。

条約第四条(c)に関する人種差別を助長・煽動する政党・組織について、憲法第一三条では、全体主義やナチス、ファシズム、共産主義モデルに基づく政党や組織、人種又は国民憎悪を行う政党や組織は禁止される。政党法は、政党活動に関する合憲性の評価の権限をワルシャワ地裁に与えている。結社法によると、裁判所や検察庁に、一定の重大な法律違反を行う結社の解散権限がある。

 二〇一六年、ヘイト・クライムの訴追が増えている。二〇一二~一五年には一五・四%~一八・六%だったが、一六年には二〇%である。犯罪の訴追実務がより実効的になっている。

 二〇〇九年以来、ヘイト・クライム訴追関係者への研修が行われている。裁判官や検察官の研修は、国立司法・検察研修所が担当している。二〇一二年六月一三日、検察庁は「ヘイト・クライム被害者」という会議を開催し、「犯罪被害者のための検察官」を出版した。

 二〇一四年六月、政府平等処遇庁は「ヘイト・スピーチに反対――グローバルに考え、ローカルに行動する」会議を組織し、平等処遇スタンダード・プロジェクトを進めている。

CERDがポーランドに出した勧告(CERD/C/POL/CO/22-24 . 24September 2019

一般的勧告第一五号と第三五号を想起し、刑法におけるヘイト・スピーチの定義を条約第四条に合致させ、条約第一条及び欧州評議会大臣委員会勧告に従うこと。インターネット上のヘイト・スピーチや暴力煽動としっかり闘うため必要な措置を講じ、政治家など公人による人種主義ヘイト・スピーチを非難すること。国民的マイノリティ、移住者、難民、難民認定申請者に対するヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムと闘う公衆キャンペーンを強化すること。ジャーナリストや放送関係者に、ヘイト・スピーチやステレオタイプを避ける責任があるという強いメッセージを送ること。刑法第五三条二項を改正して、人種主義的動機を刑罰加重事由とすること。

 国民運動、国民ラディカル・キャンプ、全ポーランド青年運動、ファランガ、国民社会会議、自律的国民主義者、血と名誉などの団体のような、人種差別を助長・煽動する政党や組織を違法と宣言する法を執行すること。刑法を改正して、これらの団体への参加を犯罪とすること。

 ヘイト・スピーチとヘイト・クライムについて、被害者が国家の司法制度に有している不信を解消すること。事件の報告を確保し、法律扶助、法的救済についての公衆の意識を啓発し、事件を記録、捜査、訴追し、適切な刑罰を科すこと。憎悪動機犯罪について年次評価を実施すること。マイノリティに属する者を警察、司法、検察に採用し、適切な研修を行うこと。ヘイト・スピーチとヘイト・クライムの捜査、訴追、判決についての情報を提供すること。

Saturday, October 24, 2020

東京富士美術館散歩

 

秋晴れの一日、八王子郊外の東京富士美術館に行ってきた。

https://www.fujibi.or.jp/

JR八王子駅からバスで10分ほど、創価大学正門前だ。展示は2つ。

1つは、「This is Japan in Tokyo永遠の日本美術」で、若冲、蕭白、北斎、広重。

若冲の<象図>は笑えて楽しかった。

8代将軍徳川吉宗の時に象が日本にもたらされ、長崎から江戸まで歩いて移動したという。若冲は京都で実際に見たようだ。

普通なら横から描くところ、象を画面いっぱいに真正面から描いている。真ん中に象の顔があり、長い鼻が下にのびる。意表を突く大胆な構図で、象の背景となる部分を全て墨で塗りつぶしている。水墨抽象画だ。

もう1つは、ダ・ヴィンチ没後500年「夢の実現」展だ。

https://maeda-akira.blogspot.com/2020/01/500.html

今年初めに代官山ヒルサイドフォーラムで開催された展示の巡回が始まった。代官山では施設の都合でよく見ることのできなかった目玉展示の<最後の晩餐>復元映像が、完璧だった。<最後の晩餐>空間体験ゾーンもユニークだ。

展示のガイドブックも出版された。

東京造形大学ダ・ヴィンチ・プロジェクト編『よみがえるレオナルド・ダ・ヴィンチ』(東京美術)

https://www.tokyo-bijutsu.co.jp/np/isbn/9784808711962/

<未完や欠損状態の絵画、巨大建築の設計図、機械や彫刻のデッサンなど、万能人ダ・ヴィンチが生前やり残したさまざまな「夢」を、500年後の今、現代のテクノロジーを用い完全な形で再現を試みた画期的プロジェクト。さらに、ダ・ヴィンチにまつわる長年の謎や議論について、そのあらましと興味深い最新知見を紹介。他分野の識者による考察も多くの示唆に富み、コンパクトながら類のないダ・ヴィンチ入門書。>

常設展「西洋絵画 ルネサンスから20世紀まで」では、ウオーホルの「ブラスナー氏の肖像」もおもしろい。

Saturday, October 17, 2020

国際人権から見たヘイト・スピーチ

申惠丰『国際人権入門――現場から考える』(岩波新書)

<第二次大戦後、人権に関するさまざまな国際ルールがめざましい発展を遂げ、日本もそれを守ることとされている。日本社会で現実に起きているさまざまな人権問題も、これらの国際人権基準に照らして考えることで、新たな光を当てられ、解決の方法を見出すことができる場合が少なくない。日本の現場から国際人権法の「活かし方」を考える。>

はしがき

序 章 国際人権基準とそのシステム

第1章 「不法滞在の外国人」には人権はないのか――入管収容施設の外国人

第2章 人種差別・ヘイトスピーチ――差別を「禁止」する法の役割

第3章 女性差別の撤廃と性暴力

第4章 学ぶ権利実現のため措置を取る国の義務――社会権規約の観点から

著書はこれまで、『人権条約上の国家の義務』、『人権条約の現代的展開』という本格的研究、『国際人権法――国際基準のダイナミズムと国内法との協調』という教科書、『友だちを助けるための国際人権法入門』という入門書を送り出してきた。本書は2冊目の入門書である。

序章では、国際的な人権保障の出発点は国連憲章とし、世界人権宣言、国際人権規約、その他の人権条約や、「国連憲章に基づく手続」と「人権条約に基づく手続」などを解説している。

第1章から第4章では、入管、ヘイトスピーチ、女性差別、学ぶ権利の4つを取り上げて、国際人権の観点から日本の現状を考究している。

「第2章 人種差別・ヘイトスピーチ――差別を「禁止」する法の役割」では、「社会生活における人種差別を禁止する法律がない日本」として、憲法には差別の禁止規定があるが、差別禁止法のない日本の現状を確認している。日本は、人種差別撤廃条約を批准したにもかかわらず、既存の法律で対応でき法律の整備は不要として、立法措置をとらなかった。このため、民法の「不法行為」の規定をあてはめて解釈する迂遠な方法が採用されている。

「法律に明文規定がないということは、どのような行為をしたら違法な人種差別になるのかが社会で共有されないということ」である。

条約は、人種差別を扇動するヘイトスピーチ根絶のための国の義務を明示しているが、日本は条約加入の際に留保を表明した。これがヘイト・スピーチの放置につながった。しかし、「留保」は条約第四条(a(b)の留保であり、第四条柱書や(c)にはかかっていないが、実際には柱書や(c)を遵守する姿勢が見られないことを指摘する。

諸外国の立法の例を見ると、スイス、カナダ、フランスなど立法による対策が一般的である。日本では法律による禁止がなされず、不法行為訴訟の形式をとらざるを得ない。「不法行為という民法の一般規定の解釈にとどまることはやはり根本的な限界だ」という。

二〇一六年のヘイト・スピーチ解消法は、条約の定義を踏まえず、ヘイト・スピーチを禁止していない。罰則がない。つまり、「人種差別撤廃条約で求められている対策を履行したものとはいいがたいものだ」。

ネット上のヘイト・スピーチに対する取り組みを見ても、EUをはじめ国際的には進展がみられ、二〇一九年にはニュージーランドのテロ事件を契機に「クライストチャーチ・コール」が採択され、日本も署名した。

 著者は、「日本も、人種差別撤廃条約に合致した形で、公的生活における人種差別禁止に関する法律を制定するとともに、ネット上のものを含むヘイトスピーチについても法律で明確に禁止規定を置き、それに基づいて、EUで行われているように、IT企業の取り組みを求める仕組みを整えていくべきだ」という。

 もっともであり、全面的に賛成である。