Monday, November 23, 2020

ヘイト・スピーチ法研究文献(153)

桧垣伸次「ヘイト・スピーチ規制を考える」『法学館憲法研究所報』22号(2020年)

『ヘイト・スピーチ規制の憲法学的考察』(法律文化社、2017)の著者である。

日本はこれまでアメリカ型に近いアプローチをとってきたが、「近年の問題状況を踏まえて、対策に乗り出している。日本のアプローチは、アメリカ型ともヨーロッパ型とも異なる『第3の道』であるとみることができる」として、日本におけるヘイト・スピーチの現状、及びヘイト・スピーチ解消法を検討している。

特に、解消法が国や地方自治体に啓発や教育活動を求めている点に着目して、「解消法が求めるこれらの政府の行為は、『政府言論』と捉えることができる。政府言論の法理は、アメリカの判例理論を通じて発展してきた法理である。同法理は、政府は、規制主体としてだけではなく、自身が表現主体となることがあり、その場合には、見解差別も許容されるとするものである。民主政のもとでは、政府が自身の見解を表明することはむしろ必要とされるため、政府はいつどのようなことを話すことも自由であるとされる」という。実質的に強制となるような啓発は許されないが、規制ではない啓発と教育活動が重要だとする。

「むすび」では、解消法によって行政がどこまで対処できるかうまだ不明確である。啓発活動の成果をはかることは難しい。ヘイト・スピーチの明確な定義がないため、規制範囲が明らかでない。歴史的・社会的背景を検討しなければならない。これらの問題を指摘して、「ヘイト・スピーチといっても、さまざまなものがあるので、一括りに考えるのではなく、害悪ごとに類型化し、それぞれ規制可能性を探る必要性がある」という。