Monday, March 01, 2010

グランサコネ通信2010-07

以下の記録は、現場でのメモと記憶に依拠していますが、正確さの保証はありません。CERDのおおよその雰囲気を伝えるものということでご了解願います。

CERDの日本政府報告書審査(2月25日・続き)

日本政府からの回答を受けて、再度、CERD委員からの質問があり、日本政府が回答しました。

ディアコヌ委員--日本報告書の文章に起因するが、多くのことが不明確だ。アイヌ以外の先住民族について検討を続けるべきだ。アイヌ代表とは協議しているように、部落や沖縄とも協議機関を設けないのか。それぞれの文化を研究調査しないのか。もし異なる言語や文化があれば、マイノリティであり、配慮が必要になる。長期にわたって居住してきたのなら先住民族であり、対策が必要である。代表と協議するべきである。日本政府の世系の説明には納得できない。これは条約の外ではなく、条約の中のどこかに位置する問題である。民族問題は条約のどこかに位置を見出すべきである。再検討して欲しい。もっとも重要な問題である。社会階層、カースト、そして差別が世系に関わる。学校教育にももっと注目すべきだ。税制差別はなぜなのか。高等教育へのアクセスに差別のないようにするべきだ。4条については、すべての人について処罰する一般刑法があることは承知している。しかし、差別による暴力、人種差別動機について、どの法律も考慮していない。差別動機を考慮することはどの国でも見られることだ。悪質性を量刑で加味するというが、そのための手がかりを法律に示す必要がある。

ラヒリ委員--CERDと日本政府の間の見解の相違が前回から詰まっていない。変化があったのは、パリ原則に従った国内人権機関を作りたいという姿勢だけである。2001年以来、条約の実施についてさほどの変化がない。マイノリティ集団に関する情報がない。中国人や朝鮮人は不利益を被っている状況がある。CERDの前回の勧告が実施されていない。江戸時代末に攘夷思想が台頭したが、攘夷が復活していないか。CERDの勧告を受け入れ、国内法を改正し、国際基準に合致することが重要であり、攘夷の精神ではなく、国際法という同じ側に立つ必要がある。矛盾はないはずである。次回の審査までに、差別撤廃のための実施メカニズムについて再検討して欲しい。

デグート委員--ディアコヌ委員に賛成である。アイヌ以外の集団の言語、文化、権利はどうか。人権高等弁務官事務所が、国連人権理事会における普遍的定期審査の結果をまとめている。人権理事会のディエン特別報告者の報告書もある。これらによれば、部落民は300万という。これだけのコミュニティが、パーリア不可触賎民とされた人々の子孫である。カースト制度は廃止されたかもしれないが、差別が残っている。世系については出身を考えるべきで、条約1条の世系の解釈についてはすでにCERDの一般的勧告29が出ている。沖縄も含めて、アイヌ以外の集団とも協議をするべきである。

プロスパー委員--ジェノサイド条約を批准していない。私は90年代末、クリントン政権のもとでICC規程の外交交渉にもかかわった。アメリカは加入しなかったが、日本は加入した。日本はICC加入には何の問題もなかったのに、ジェノサイド条約を批准できないという。逆ではないか。アメリカさえもジェノサイド条約は批准している。なぜこのようになるのか。ICCには補完性の原則がある。国内法をつくり、それに基づいて処罰できる。日本政府には一貫性がないのではないか。ICC加入によってジェノサイドを訴追できるのに、なぜジェノサイド条約を批准できないのか。

マルティネス委員--2011年は国連総会が定めたアフリカ出身者の国際年である。日本もこのプロセスにコミットしてほしい。前向きになるよう願っている。

カリザイ委員--アイヌについては前進があるが、7人のうち1名では対等条件で参加しているとは思えない。このパネルは対等にしなければならない。沖縄については、かつでエクアドルのホセ・マルティネス・ボゴの調査報告書がある。先住民族というものは「自己規定」である。同時に植民地以前の存在、近代国家以前の存在である。沖縄の独自の言語、文化を考慮し、UN先住民族権利宣言に賛成したのなら、日本語とまったく異なる言語を使っていることを考えるべきだ。年金問題のギャップも重要である。朝鮮人高齢者、及び朝鮮人障害者が年金の対象になっていない。法律のギャップである。一部の人たちはその大きさに気づかないかもしれないが、気づく人たちもいる。ギャップを埋める努力が必要だ。

アフトノモフ委員--(日本語を聞くことはあまりなかったので嬉しかった)--部落について部分的回答はあったが、戸籍をめぐって伝統的ステレオタイプを乗り越えるのは難しい。どの国も、父母や祖父母がどこに属していたか、そこから差別が生まれる。家系とか戸籍である。制度そのものは長年の間に確立したものなので、それを変えるように言っているわけではない。人々の権利実施にとって重要な問題である。個人情報保護法ができたと聞いているが、それがプラスに影響を及ぼしたのか。差別、偏見、ステレオタイプな見方について知りたい。意識的に差別するとは限らず、無意識に差別することもあるので、言っている。状況は変化したのか、前進はあったのか。

議長--先住民族はアイヌだけというが、日本人も先住民族ではないか。アイヌと同じ期間、日本に暮らしている。そしてアイヌは不利益を被ってきた。

上田大使--先住民族の国際法上の定義はない。どのように定義するというのか。オーストラリア、ニュージーランド、アメリカと日本は違う。外部から入ってきたのではない。日本人は、中国、南方、ロシアその他から、第一波、第二波、第三波と様々な人が入ってきて、すべてが融合して日本人になった。これに対してアイヌは明らかに独自の文化と歴史を持っている。日本とは違う。しかし、沖縄人は日本人である。フランスで、プロヴァンス人とイール・ド・フランス人は区別がつかないではないか。それと同じである。沖縄には豊かな独立の文化があるが、言語は広い意味で日本語の変形である。中国、台湾、朝鮮と比べれば、沖縄語は明らかに日本語である。学問的にはいろんな学説があるが、広く言えば沖縄人は日本人である。先住民族とは認識していない。もちろん時には異なる歴史があって、第二次大戦では沖縄の人は苦しんだ。しかし、沖縄の経済発展のために多大な支援をしている。生活向上に取り組んでいる。G8サミットを沖縄で開催した時には、世界の人々が美しい沖縄の文化を享受した。

外務省人権人道課長--協議や対話の重要性が指摘されたが、日本政府は報告書作成に当たって、2006年2月にHPで書面意見の提出を求めた。2006年3月には、NGOから非公開ヒアリングを受けた。同年6月と2007年8月、一般参加者との意見交換会を開催した。2006年3月には、16のNGOと政府7省庁が参加して、自由な意見交換を行った。2006年7月にはHPを通じての一般参加者60人、政治家7人が参加した。2007年8月には一般参加者40名、政府6省庁が参加した。

アイヌ政策審議室--推進会議は14名で、アイヌは5名である。14のうち2名は官房長官(?)など政治家である。2名を除くと12名のうち5名がアイヌである。過半数ではないが、アイヌが5名はいっている。実務作業部会は2つあるが、いずれも6人のうち3名がアイヌである。

厚生労働省--年金には国籍要件はない。外国人も対象となっている。1981年以前は国籍要件があったが、1982年に撤廃された。法改正の効力が将来に向かってのもののため、現在、84歳以上の外国人、48歳以上の外国人障害者は年金にはいっていない。彼らが苦労しているのは事実であるが、福祉的措置を今後とも検討したい。

人権人道課長--世系の文言解釈については必ずしも納得していただけていないが、日本政府は、同和について、世系にあたらないから報告しないということではない。CERDにおける質問に対して建設的対話を続けることは重要と考えている。ICERD前文の精神を踏まえて、いかなる差別もあってはならないと考えている。

法務省(?)--改正戸籍法の件だが、2007年改正前は、団体が不正アクセス、不正譲渡する事案が見られたので、不正請求の防止、個人情報保護のために、法改正を行った。第三者の戸籍謄本については取得要件を定め、本人確認を行い、違反には罰則を設けた。

厚生労働省--デグート委員から対策が不十分ではないかと指摘があった。同和等の人権啓発、相談、調査だが、これにとどまらない。CERDが事前に出した「質問リスト」にも回答したように、雇用については雇用主の認識が重要であり、企業への採用選考にあたっては応募者の人権を尊重し、差別を未然防止するよう公正に指導している。

法務省--犯行動機が人種差別である場合に、悪質性として考慮するというのは、刑事手続きにおいて適切に立証され、裁判官が量刑判断の要素の一つとして適切に考慮しているということである。

外務省人権人道課長--ICC規程加入とジェノサイド条約を批准していないことについては、申し訳ありませんがいまお答えできません。

上田大使--私の前任者は、雑賀大使だったが、彼女はその後、ICC判事に選任され、最近亡くなった。その後任にはやはり尾崎という女性が選任されている。この点に日本政府がICCに協力している姿勢が現れている。

リンドグレン委員--部落については疑念が残る。彼らはどういう存在なのか。日本語を話すし、宗教が違うわけでもない。どこが違うのか。

上田大使--何の違いもない。まったく違いはない。部落民は私たちだ。まったく同じだ。区別することはできない。「イール・ド・フランスから来た」といわない限りわからないのと同じだ。

人権人道課長--同和対策審が述べたように、日本社会の歴史において形成された身分的、社会的問題である。ただ、差別には多様性があり、明確な定義は困難だ。

ディアコヌ委員--日本は大国、先進国なので多くの前向きな進展を期待している。個人が差別から守られているのか、団体が差別から守られているのか。日本政府は、部落は違わないというが、部落の人からは差別があると聞いている。もっと明確にしたい。部落の代表者と協議することが必要だ。身体的特徴では区別できないことは多い。つぶさに見れば差異が見えてくることがある。かなりの集団に関心のある重要な問題だ。これは日本にとっても重要だ。日本の豊かな歴史と文化の一部であるはずだ。それが封建時代に発するのなら、カーストではないか。身分階層性の残滓ではないか。そうであれば対処しなければならない。マイノリティであり、存在していないとはいえない日本国民である。引き続き検討して欲しい。単に解釈の問題ではなく、もっと情報がほしい。

デグート委員--(私はフランス人だがプロヴァンス出身ではない)--いかなる国も国民に関わる多様な問題から逃れることはできない。開かれた直接の対話が重要である。協力と対話を通じて条約遵守の程度がどのくらいか、進展を把握していくべきである。

ソンベリ委員(日本政府報告書担当者のまとめの発言)--アイヌを先住民族と認めたのは第一歩である。プロセスの鍵を握るのは権利、参画、協議である。沖縄について幅広く協議して欲しい。その地位に関する記述にははいらなくても、代表との協議が重要である。教育について、特に公立学校について十分に議論できなかった。柔軟性のないカリキュラムがあるのではないか。制度の枠をこえて広げる必要がある。4条、氏名変更、難民、反差別法、14条、8条改正については議論が残された。ジェノサイド条約とICCの件も。CERDと日本政府に合意が見られたのは、差別をできる限りなくしていくことの重要性、教育の重要性、アイヌの地位について一定の方向性が示されたこと、人権機関の設置である。さらに検討が必要であり、勧告することになるかもしれないのは、まず部落である。世系の解釈はCERDが長年にわたって形成してきた解釈であり、(日本以外)ほとんどの国に受け入れられているものだ。人権教育に関して十分に多様性があるのか疑問である。4条の留保は本当に必要なのか。留保の範囲を狭くするか、留保を撤回することが必要である。反差別法はいまは必要ないというのも同じ問題である。氏名変更や戸籍についても意見がわかれた。ICERDは長い射程を持っている。国家機関だけでなく、私人も含めて社会的側面まで達する。法律を作るだけでなく実施が重要である。脆弱な集団、マイノリティにCERDが関心を持つのは抑圧の対象となるからである。多数者は保護を必要としないが、マイノリティには必要である。部落についてはもっと開かれた立場で考える必要がある。国際法を国内法に取り入れていくことは、主権にかかわるが、国際基準、国際規範を考えるべきである。多様性の尊重、平等、同質性というのは、同じ基準を適用するということだけではない。それで平等となるとは限らない。単純な規範の適用が平等ということではない。マイノリティは自己規定の問題でもある。憎悪言論は、さらに教育と救済が必要である。特に外国人と接触することの多い公務員に教育が必要である。日本政府は、次回は、3~4回まとめてではなく、間を短くして報告書を出して欲しい。それから差別は孤立して起こるのではない。グローバルにおきる。グローバルな課題はすべての国にかかわる。ニュアンスの違いはあるが、共通性がある。だからこそ国際基準による対策が必要である。反差別法がないことには、懸念を感じる。統計、情報、事実を確認するべきである。法制定をしない立場は必ずしも正当化できない。さらに検討するべきである。ぜひ誠実な対応をして欲しい。

上田大使--CERDに感謝。NGOにも感謝。NGOの貢献に感謝。議長に感謝。

以上で、2月24日・25日に人種差別撤廃委員会で行われた日本政府報告書審査が終了。

私は疲労困憊して、週末はバカンス。