Wednesday, March 24, 2010

グランサコネ通信2010-16

すっかり春めいてきました。国連欧州本部の中庭の芝生も徐々に青くなってきましたし、小さな小さな花がたくさん開いています。わが宿舎、わが部屋の前の芝生もご機嫌そう。小鳥のさえずりも賑やかになってきました。

1)人権理事会

22日は、議題7の「パレスチナその他占領下アラブ地域における人権状況」でした。実は人権理事会今会期の決議案は19日までに仕上がっていて、事務局に提出されています。関連する決議案は5本出ています。24-25日に採択です。22日に討論をするといっても、本当の議論は終わっています。あとはセレモニー。今会期に提出された報告書は、ガザ攻撃における重大人権侵害に関する人権高等弁務官事務所報告書(A/HRC/13/54)、国連ガザ調査委員会勧告の実施に関する事務総局報告書(A/HRC/13/55)、イスラエルの検問所における妊娠したパレスチナ女性に関する人権高等弁務官事務所報告書(A/HRC/13/68/Rev.1)です。他にシリア政府による報告やNGO報告書。たくさんの発言がありました。ごくごく一部のみ紹介。

(最初のパレスチナ発言を聞き逃しました)

イスラエル--ガザにおける武力紛争法の違反事件を、2008年12月と2009年1月にイスラエル国防軍は調査した。2つの報告書を公表した(Operation in GazaGaza:An Updateのこと)。英米豪加などの調査報告書と同じ民主的水準のものである。150件の申立てがあり、うち36件は刑事事件の申し立てである。ほぼ100人のパレスチナ人から証拠提供を受けた。その結果として2週間前、ガザのあるビルで捜索中に、ブービートラップを保持しているかもしれないと疑って、子どもにカバンを開けるように命令した2人の兵士に対して(やりすぎなので)刑事事件として起訴状が提出された。本件はNGOのディフェンス・フォー・チルドレン・イスラエルの申し立てによるものである。国連ガザ調査委員会(ゴールドストーン委員会)報告書に掲載されていない事例も丁寧に調査した。・・・・等々。

パキスタン(イスラム諸国機構を代表して)--イスラエルによる侵略、人権侵害、戦争犯罪、禁止された兵器の使用、国際人道法違反、民間人攻撃を指摘した上で、人権高等弁務官事務所報告書にあるように数々の証拠が明らかである。報告書には重大人権侵害の「激増」とある。調査のフォローアップが必要だ。

イスラエル(2度目)--3月18日にガザでロケットが発射され、タイ人労働者(?)が死んだ。2009年1月以来イスラエルに打ち込まれたロケットは300以上になる。ゴールドストーン報告書も述べているように、戦争犯罪と人道に対する罪である。ハマスとその仲間はイスラエル民間住民を狙って殺戮戦を繰り広げている。過去62年もの間、イスラエルは平和を創るために対話を呼びかけてきた。エジプトやヨルダンは平和に前向きになってきたが、まだ紛争が続いている。1947国連決議、1967など歴史を振り返り、平和と人権について演説。人権理事会をハイジャックしようとしている勢力に警戒を。

パキスタン(イスラム諸国機構を代表して、2度目)--占領下の戦争犯罪、特に女性と子どもの被害を強調。宗教遺産、文化遺産の破壊。占領下ゴラン高原にも言及。パレスチナ人民の自決権、イスラエルによる重大人権侵害に関する歴代の決議を想起せよ。今回の決議案への支持を要請する(註:決議案の提案者は、パレスチナ、パキスタン、スーダンの連名です)。

シリア--報告書を歓迎。イスラエルによる戦争犯罪と人道に対する罪。一部の諸国の沈黙は遺憾。平和を破壊し、民間人を殺すイスラエルの責任はすでに十分すぎるほど明らかである。イスラエルが平和を願っているとはいえない。

この後、ナイジェリア、スーダン(アフリカ諸国を代表)、バーレーン、インドネシア、カタール、サウジアラビア、キューバ、バングラデシュ(ガザをディストピアだと言っていました)、オマーン、モロッコ、アルジェリア、マレーシア、イエメン、クウェート、リビア、イラン、スリランカ、アラブ連合、チュニジア、朝鮮、アラブ首長国連邦、レバノンなどが続々と発言。その間、ロシア、アメリカ、スペイン、スイス、アイスランドも発言(平和的解決のための対話を呼びかけるだけ)。日本は沈黙。

NGO報告書のうち、ノース・サウス21、アラブ法律家連盟、全アラブ女性連合、国際民主法律家協会など10団体によるジョイント文書は、イスラエル国際刑事法廷(ICTI)設置を求めています。旧ユーゴスラヴィア国際刑事法廷(ICTY)やルワンダ国際刑事法廷(ICTR)と同じような国連主導の法廷設置です。これは従来の理解では、安保理事会でないとできないことですが、この報告書は国連憲章22条に基づいて国連総会で決議して設置せよと主張しています。

23日は、議題8のウィーン・フォローアップと議題9のダーバンのフォローアップでした。ウィーン・フォローアップは発言が少なく1時間でささっと終わり。議題9に今回提出された報告書は4本です。「宗教への中傷と闘う」ための人権高等弁務官事務所報告書(A/HRC/13/57)、アフリカ系人民に関する専門家作業部会エクアドル調査報告書(A/HRC/13/59)、(ダーバン宣言・行動計画の)補足基準仕上げアドホック委員会第2会期報告書(A/HRC/13/58)、ダーバン宣言・行動計画効果的実施・政府間作業部会第7会期報告書(A/HRC/13/60)です。それぞれのプレゼンテーション、関係政府の応答、そして一般討論でした。

報告書58は、2009年10月19-30日の会期の報告書です。そこでの議題は次の20です。人種憎悪等の主唱・煽動、包括的反差別法、宗教・信念に基づく差別、差別予防のための国内人権機関設立、ジェノサイド、ヘイト・クライム、人権教育、既存規範・基準の実施、人種主義行為等の不処罰、文化間・宗教間対話、人種差別撤廃委員会のモニター手続き、複合形態の差別、自然災害犠牲者救援における非差別、移住者の保護、外国占領下の人民の保護、難民や国内避難民の保護、人種的プロファイリングおよびテロリズムと闘う手段、人種的サイバー犯罪、被害者の補償・救済、外国人排斥。これらをめぐる様々な討論の概略が報告書に記載されています。報告書を受けて、これからどうするかを23日に議論しました。

報告書60は、2009年10月5-16日の会期の報告書です。これまでの人権理事会決議の実施、移住、子どもの保護、雇用に焦点を当てて議論がなされ、勧告がまとめられています。その報告書をめぐる議論が行われました。いずれも、報告書を読んでいなかったので、よくわかりませんでした。各国の発言は、みな前向きでした。なんだか信用できませんが、見事にみな、明るい未来に向かって・・・。参考になったのは、日本で始めた「東アジアNGO歴史・人権・平和宣言」を国際社会にどう発信して行くのか、ターゲットがわかった点です。人権高等弁務官事務所と、人権理事会、ということは最初からわかっていますが、その下に設置されている作業部会と、人権理事会の議題を確認できました。

イタリア・シエナのDella Robbia, Brunello Di Montalcino, 2004. 最初の一口は、うん、なかなか。その直後に大蒜ニンニクを齧って見事に当たり、舌が痺れて味がまったくわからなくなりました(泣)。

2)機中の読書予定

予定を早めに切り上げて本日の便でまっすぐ帰国します。25日成田。当初予定ではフランクフルトで遊ぶはずでしたが。機中での読書予定は、次の2冊。

エファ・ゴイレン『アガンベン入門』(岩波書店、2010年)

ブライアン・レヴィン編『ヘイト・クライム第1巻 ヘイト・クライムを理解し定義する』(プレーガー出版、2009年)

アガンベンは『ホモ・サケル』『人権の彼方に』『アウシュヴィッツの残りもの』『例外状態』を読み、それらの訳者解説もすぐれていたので勉強になりましたが、必ずしもよく理解できていません。2月16日にスイスに持ってきて、まったく読まずに、この機会までとっておきました(嘘)。本当は、読みやすい本を優先していただけ。本書のオビに書かれた「強烈なアクチュアリティをもつ思想家の知的全貌」という宣伝文句が本当だといいのですが、「思想家の知的全貌」って、尋常ならざる奇怪奇妙奇天烈な言葉です(笑)。正しい日本語は「思想家の全貌」です。これしかないし、これで十分。「思想家の非-知的-所業」が多くて、まともな日本語が分からなくなっている出版社が、「知的」以外でどれだけ苦労してきたか、知られざる幾千のエピソードがあるのでしょう。あるいは「知的」に憧れる訳者の自己認識の発露か。本書「岩波=アガンベン」は、何を教えてくれるか、楽しみです。

後者ヘイト・クライムは、私の研究テーマそのもの。昨年出版された全5巻本で、ヘイト・クライム研究の決定版、の第1巻です。ヘイト・クライムについて、これまでもその都度、発言はしてきましたが、今後はいっそう本格的にやることにしています。などと言わなくても、この「グランサコネ通信」をお読みいただいただけでも、十分理解いただけることでしょう。もっとも、ちゃんとやるつもりでも、「やります」と公表しておかないと、忙しさにまぎれて自分をごまかしてしまうので--ヘイト・クライム、ヘイト・クライム法、人種差別禁止法が、これから数年の私の主要課題です。