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遅くなりましたが、人種差別撤廃委員会の日本政府審査結果としての最終所見(勧告)が公表されました。
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http://www2.ohchr.org/english/bodies/cerd/cerds76.htm
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すでに要旨が公表されていたので、勧告の内容はほぼ予想されたとおりです。詳細はていねいに検討してみる必要がありますが、大雑把に一言で言えば、人種差別撤廃NGOネットワークに結集したNGOの共同作業の成果といってよいでしょう。もちろん、NGOの主張が全て通ったわけではなく、個別に見れば、取り上げられなかった点も多いですし、もっと踏み込んで欲しい点とか、さまざまな評価が可能になると思いますが、全体としては、大きな成果を得られたといってよいでしょう。
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CERDロビーに参加されたNGOのみなさん、ご苦労様でした。CERDに向けてNGO報告書の作成やさまざまな準備に関わったみなさん、代表をジュネーヴに送り出したNGO、そして今回は送り出せなかったNGOのみなさん、日本でCERD勧告を心待ちにしていたみなさん、ご苦労様でした。
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今回気になっていたのは、前回2001年勧告と比較して、あまり新味がないのではないかということでした。2001年から、状況には様々な変化がありましたが、大枠で言えば「日本政府は変わっていない」ということで、その意味では、大きくは変わっていないから基本は前回と同じようなものという印象になりかねませんでした。他方で、アイヌを先住民族と認めて新たな対策を打ち出しているという日本政府の説明があって、CERDにとってもその点は当然、評価すべき点です(先住民族と認めたといいながら、先住民族の権利を認めていないのですから、「ウソ」なのですが)。NGOとしても、言いたいことはたくさんあるが、どこに焦点を絞っていいのか悩むところでもありました。最近の状況変化としては、在特会のようなヘイト・クライムの激化があるので、NGOブリーフィングでは、これを一つの柱にしたわけです。
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ところが、CERD直前に中井発言が飛び出して、状況が変化しました。日本の新聞もみなCERDにおける中井発言批判を報道したように、ほらみろ、日本政府はこんなに差別的だ、という証拠が飛び込んできたわけです。ある記者は「出会い頭だった」と言っています。というのも、在ジュネーヴの記者たちは、みな去年交代していて、条約委員会の取材経験がなく、CERDについても、どう報道したものか悩んでいたようです。NGOがいろいろレクチャーしても、いまいちピンと来ない状態で取材していたのが、中井発言にぶつかったわけです。
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CERD勧告は、人種差別撤廃NGOネットワークが手分けして翻訳中です。以下、ごく大雑把に主な内容を少しだけご紹介。
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・日本政府は人種差別禁止法は必要ないと主張しているが、それでは差別された個人や集団が補償を受けることができない。
・国内人権委員会を設置する人権擁護法が廃案になったのは残念。
・日本には包括的で効果のある救済機関がない。
・朝鮮学校に通う生徒らに対する有害な、人種主義的表現などに関心を有する。
・インターネットにおける部落民攻撃に関心を有する。
・日本政府は人種差別撤廃条約4条abの留保を再検討するよう、留保の範囲を限定するか、留保を撤回するよう促す。
・人種主義思想の流布に対して敏感になり、意識を高めるキャンペーンをするべきである。
・インターネット上のヘイトスピーチや人種主義宣伝などの犯罪を予防するべきである。
・公務員による差別発言がなされているのに、これに対する措置が何ら取られていない。
・公務員、法執行官、一般公衆に、人種差別に関する人権教育をするよう勧告する。
・部落差別を取り扱う担当官庁がないので、部落問題を扱う機関を設置するべきである。
・アイヌ対策についてアイヌの代表が十分選出されていない。
・アイヌ民族の権利についての国家調査がなされていない。
・前進があるといっても国連先住民族権利宣言には遠く及ばない。
・沖縄の人々が被っている差別にも関心を有する。
・公的援助や免税措置について朝鮮学校などへの差異的処遇など教育に差別的影響がある。
・公衆浴場その他、人種や国籍を理由としたアクセスの権利の拒否が見られる。