Monday, July 11, 2016

ヘイト・スピーチ研究文献(58)「嫌韓問題」とヘイト・スピーチ

小倉紀蔵・大西裕・樋口直人『嫌韓問題の解き方――ステレオタイプを排して韓国を考える』朝日新聞出版
目次
I 韓国文化・思想、日韓問題――――小倉紀蔵
1章 韓国文化の特徴とその変容
2章 変化と不変化の韓国社会――エリート支配、市民の権力、道徳性
3章 日韓相互の眺め合いに対する解釈
II 韓国政治、イデオロギー、市民社会―――大西裕
4章 政党政治の変容――地域主義からイデオロギーへ
5章 大統領の強力なリーダーシップという幻想
6章 変貌を遂げる市民社会――エリート主義から多元主義へ
III ヘイトスピーチ、在日コリアン、参政権・国籍―――樋口直人
7章 排外主義とヘイトスピーチ
8章 在日コリアンの仕事の変遷
9章 在日コリアンの参政権と国籍
III ヘイトスピーチ、在日コリアン、参政権・国籍」は『日本型排外主義』の著者・樋口による論述である。第7章の「排外主義とヘイトスピーチ」は、ザイトクカイに代表される排外主義の社会学的分析である。第8章では、在日コリアンの世代交代により、職業選択が変化したことを取り上げ、その要因を分析している。パチンコ、焼肉、スクラップの在日三大産業から「アップグレード」して、ホワイトカラーへ、それゆえ「格差解消」が現出しているが、そこには「光と影」があるという。第9章では、参政権をめぐる議論の経過をたどりなおし、国際動向や日本社会の現実を踏まえて、参政権論議の活性化の必要を明らかにしている。
本書の表題と内容には大きなズレがある。「I 韓国文化・思想、日韓問題」では、韓国文化・思想の歴史的性格の記述が中心である。「II 韓国政治、イデオロギー、市民社会」は、政党政治、社会意識、市民社会の変容の分析が中心である。いずれも専門家によるすぐれた解説であり、勉強になる。

とはいえ、これでは本書の主たるメッセージが、「嫌韓問題」は韓国の文化、政治、社会を分析するべき問題である、ということになる。「嫌韓問題」は日本側の問題ではなく、韓国側の問題であるということになる。はたしてそうなのか。疑問である。最後に樋口の論述があるから救われているという印象だ。