Sunday, July 17, 2016

ヘイト・スピーチ研究文献(60)被害者無視の言説への批判

瀧大知「ヘイト・スピーチをめぐる言説の落とし穴――被害者不在の言説の構造と背景」『和光大学現代人間学部紀要』第9号(2016年)

ヘイト・スピーチは単なる表現ではなく、現実には深刻な暴力として存在している。ところが、一部の言説は、暴力性を無視して、表現の自由にとらわれた議論を展開している。そのため、(1)加害者も非正規労働のため不安を抱えているといった「加害者の被害者化」がなされ、本当の被害者を無視する。(2)ヘイト・スピーチは大きな問題ではないとして、過小評価する。(3)人種差別という「非対照的」暴力であることを理解せず、差別構造を無視した議論が行われる。これらはいずれも被害実態の隠ぺいにつながる。被害者不在の言説は、ヘイト・スピーチを見て見ぬふりをする圧倒的多数の無関心層による事実上の「暴力の黙認」を生んでいる。被害者を念頭に、加害/被害関係の分析こそが求められている。おおよそこのような趣旨の論文であり、基本的に頷ける。