Monday, April 01, 2019

時代を映すミステリー


古橋信孝『ミステリーで読む戦後史』(平凡社新書、2019年)


著者は古典文学研究者だが、本書は戦後日本のミステリーを通じて戦後史を追いかける趣向である。小学校時代に江戸川乱歩、シャーロック・ホームズ、中学時代にエラリー・クイーンを読み、それ以来、松本清張、横溝正史、鮎川哲也、土屋隆夫などを読んだという。ごく普通のミステリー・ファンと言ってよいだろう。

ただ、文学研究者だけあって、ミステリーをミステリーとして読むだけではなく、ミステリーとその時代、社会状況を関連づけて読む作業はお得意である。

本書では日本推理作家協会賞受賞作を中心に、乱歩賞党も含めて、戦後の代表作を取り上げている。時代区分は1950年代まで、1960年代、1970年代と、10年ごとになっている。1950年代まででは「戦後の社会を書く」として、横溝、多岐川恭、香山滋、大藪春彦、坂口安吾、高木彬光、鮎川、仁木悦子、島田一男をとりあげている。

1960年代では「戦後社会が個人に強いたもの」として、松本清張、水上勉、笹沢佐保、藤村正太、西東登、河野典生、結城昌治。


このように代表的なミステリー作家が順に出てくる。1990年代までの作品は私もほとんど読んだ。ところが2000年代以後の作品はほとんど読んでいない。薬丸岳、笹本凌平、横山秀夫、山田宗樹、宇佐美まこと、佐々木謙、米沢穂信などの18冊が紹介されているのに、高野和明『ジェノサイド』以外は読んでいない(高野は死刑を扱った『13階段』の著者だ)。2000年以後、多忙のあまりミステリー作品をあまり読まなくなったことがわかる。今後はもう少し読むようにしよう。


有名作家で取り上げられていない例も目立つ。和久俊三、都筑道夫、島田荘司、笠井潔などだ。綾辻行人もほんの僅か触れられるだけ、歌野晶午の<葉桜>にも言及がない(年表には出てくる)。紙幅に限界があり、日本推理作家協会賞受賞作を中心にしているのだからやむを得ないが。