Thursday, April 11, 2019

天皇制の表層を掠める文学


赤坂真理『箱の中の天皇』(河出書房新社)



文学による天皇論として話題なった小説なので、読んでみた。

2016年の天皇の退位メッセージを素材に、天皇制をつくり出したマッカーサー、戦争責任を問われることなく神から人間に横滑りした父親、最初から人間として即位し象徴天皇の任務をひたすらこなした息子の歴史と現在を独特の手法で描いている。

石牟礼道子やベアテ・シロタ・ゴードンも登場するが、おまけの味付け。

横浜のグランドホテル、ニューイングランドの解説が続くが、その舞台装置に必然性はないし、後半では忘れ去られている。舞台はどこでも良いのだろう。


天皇論の趣向は、本物の箱と偽物の箱。箱は、象徴の任務、役割、機能だ。寓意ではなく、直接的に比喩表現されている。日本国憲法の制定過程におけるマッカーサー、GHQG2などの立場や、これを受け入れた日本国民にも射程が及ぶ。それゆえ、箱の中にいるのは、天皇と言うよりも、国民だろう。天皇と国民が野合した象徴天皇制なのだから。


表題から、『匣の中の失楽』を思い出し、そこから『虚無への供物』や『ドグラ・マグラ』を連想したが、そうしたメタ・ミステリとは無縁のそっけない文体、時空を超えたシチュエーションにもかかわらず幻想性も合理性もない赤坂節。

結局、震災の地に赴いて民のために祈り、共に在ること、その象徴的行為の積み重ねによって天皇制を正当化する理屈が並べられてオシマイ。

天皇制の表層を掠める文学――しかし、今や、天皇制の表層を掠める文学すら稀有のこの国だ。赤坂真理はむしろチャレンジングな作家と言うべきなのだろう。