Monday, April 29, 2019

桐山襲を読む(6)平成最後の涙雨の日に


桐山襲『「パルチザン伝説」事件』(作品社、1987年)

平成最後の一日、首都圏は雨だ。政府関係者やマスコミは天皇代替わりに興奮状態だ。志も知性も喪失した愚鈍な感性のお祭りを、少しは平静にさせる庶民の涙雨だろう。

と思えば、何者かが悠仁の学校に侵入して、机に凶器を置いたというニュースが昨夜流れた。事件は26日だったと言うがまともに報道されず、29日夕刻になって発表され、ただちに被疑者が逮捕された。監視カメラ総動員の捜査だったという。事件の真相もよくわからないし、捜査の経過もよくわからないが、情報統制と世論操作が行われたことは隠されていない。思想・イデオロギーによるのか、悪ふざけなのか。凶器は虹のように輝いただろうか。桐山襲が存命ならどのようにコメントしただろうか。


桐山の小説「パルチザン伝説」が右翼の圧力により出版中止となったのは1983年。翌年に作品社から出版されたが、さまざまな憶測が流れた。

本書は、刊行委員会が桐山にインタヴューをして、事件の全貌を明らかにする試みだ。巻末には日誌、資料(新聞記事、批評、コラム)が収録されている。パルチザン伝説事件の基本資料である。

天皇制にかかわる文学作品が右翼に弾圧された事件では、当事者が沈黙に追い込まれ、真相が不明のままに終わることが珍しくない。深沢七郎や大江健三郎も沈黙を余儀なくされた。だが、桐山は本書で大いに語る。作品執筆の過程、文芸賞受賞、出版に向けての準備、週刊新潮記事とこれに誘発された右翼の圧力、これに対応しきれなかった出版社、第三書館のゲリラ出版、作品社からの文学書としての出版。これらの過程を詳細に明らかにしつつ、文芸批評家や各種の評論家による誤解を匡す。


先に次のように書いた。

<『パルチザン伝説』を初めて読んだのはいつのことだったか覚えていない。『文藝』1983年10月号を手にしていないし、本書・作品社版も見た記憶がない。私が手にしたのは、著者・桐山の意志に反して海賊出版された第三書館版だった。

深沢七郎の『風流夢譚』や大江健三郎の『政治少年死す』は学生時代に、学生の時の英文学ゼミの教授からコピーをもらって読んでいたから、本書がそれらに次ぐ問題の書ということはよく理解していた。第三書館版が当時どのくらい世に出たのかは知らないが、大学生協の書店で普通に購入したように思う。院生時代、たぶん1980年代後半だったのだろう。>

本書を再読して思い出した。最初に読んだのが本書だった。そこで生協で探したところ、第三書館版を見つけたのだった。本書が1987年の出版だから、その後のことだ。

当時の新聞記事などをおぼろげに覚えていたつもりだったが、生の記事を見たのではなく、本書に収録された資料を読んだに過ぎなかったのだろう。