Tuesday, May 07, 2019

桐山襲を読む(7)世界の始まりから終わりまで


桐山襲『亜熱帯の涙』(河出書房新社、1988年)

初めて読む作品だ。

7ヶ月続いた日照りから逃れるためにサバニをこぎ出した比嘉ガジラーチンと恋人のウパーヤは伝説の青い泉のある島に辿り着く。白い砂浜はすべて人間の骨でできていた。黒い仮面をつけて上陸した2人は島に広場を作り、大通りを作り、島の各地を探検し、日時計を作り、暮らしの基礎を固めていく。やがて島に辿り着いた人々とともに、畑を作り、町を作る。

島では人々の暮らしが穏やかに続くが、比嘉ガジラーチンが巨人化したり、ウパーヤを先頭に女達が狂乱に陥り火災で死んでいく。島は祝祭空間だからである。やがて村長と警察署長が訪れ、権力がそびえ立つ。権力は島の外からやってきた。

比嘉ガジラーチンが年老い、ウパーヤが他界した後、2人の子どもである比嘉ガジュラール・ガジュラールと恋人のユーナがもう一つの精神世界を築きはじめるが、島には外部から分身が流れ込み、支配が強化され、租税が始まり、肥大化した権力は女達を軍隊の慰安婦に送り出す。軍隊が島に秩序をもたらす。腐敗した狂乱の島のジャングルにこもった比嘉ガジュラール・ガジュラールとユーナたちは革命軍<希望への道>を組織し、蜂起するが、軍隊によって逮捕、処刑されてしまう。革命は失敗に終わるが、2人は<希望への道>が継承されていくことを信じる。

ついには島は外国軍に攻撃され、すべての住民が死に絶える。後には人間の骨で出来た白い砂浜が残される。人間の造形による町や広場は消滅していくジャングルの奥の洞窟に比嘉ガジュラール・ガジュラールとユーナの記憶と願いと希望への道が残される。

「時の流れの止まった場所、世界から見放された暗い場所で、尾てい骨をつなぎあわせた二人の子供が、微かに動き始めた。」

物語はこうして終わる。遙か彼方のいつの日か、海の向こうから次のサバニが比嘉ガジラーチンとウパーヤを運んでくるだろう。

桐山はここで創世記作家となり、伝奇小説作家となり、終末譚を提示する。

パルチザン伝説をはじめとする作品では、1960~70年代の日本の現実を素材に、100年の歴史を遡行して、物語を組み立ててきた桐山だが、本書では一転して、モデルなき神話的世界を自らの想像力で綴った。夢と祝祭と狂気と暴力のあふれる世界を描き出した。

サバニ、マブイ、アダン、ギンネム、パパイヤ・・・と、沖縄をモチーフにした神話的世界だが、沖縄の歴史やおもろそうしとは切り離されている。登場人物はいかなる民族であるかは明示されないが、マイノリティとして抑圧される朝鮮人が登場する。つまり日本でありながら、日本でない、どこでもない、そうした島の歴史である。