角南圭祐『ヘイトスピーチと対抗報道』(集英社新書、2021年)
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共同通信ヘイト問題取材班で「反ヘイト報道」を続けてきた著者による新書本である。
<「私は差別をしない」では差別はなくならない。「私は差別に反対する。闘う」でなければならない。そのために、差別に反対する政策と法制度をつくり出し、差別に反対する仲間を増やしていきた。>
私が書いた文章かと思うほど、最初から最後まで共感を抱くことの多い本だ。
著者は日本軍慰安婦や徴用工などの戦後補償問題の取材をしてきた経験に続いて、ヘイト・スピーチの取材に入っている。それだけに歴史認識と反差別の軸がしっかりしている。安直などっちもどっち論に流されることなく、差別は許されないという視点が本物であり、いかにして差別をなくすかに一歩踏み出している。
<「公正・中立」に慣れている記者は、社会を破壊し、マイノリティの魂を殺すヘイトスピーチ吹き荒れるデモを取材しても、両論併記的な“お利口さん”記事を書く傾向が強い。ヘイトスピーチを批判しながらも、「ヘイトスピーチ規制は、憲法が保障する表現の自由の侵害になる」というものだ。しかし、ヘイトスピーチは表現の範疇に入るものではなく、暴力そのものだ。暴力に対して、中立はあり得ない。>
的確な認識である。
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第1章 ヘイトスピーチと報道
第2章 ヘイトの現場から
第3章 ネット上のヘイト
第4章 官製ヘイト
第5章 歴史改竄によるヘイト
第6章 ヘイト包囲網
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路上におけるヘイト、オンラインのヘイト、そして官製ヘイト、歴史改竄ヘイトに目を配り、反ヘイトのための立法論にも及ぶ。
ヘイト被害を受けて闘ってきた人々も様々な形で紹介されている。また、ヘイトと闘ってきた先輩の石橋学記者、師岡康子弁護士、上瀧浩子弁護士、神原元弁護士、金竜介弁護士、ジャーナリスト安田浩一、中村一成、しばき隊・CRACの野間易通、国際人権法学の阿部浩己・明治学院大学教授、刑法学の金尚均・龍谷大学教授、日本軍慰安婦問題では強制動員真相究明ネットワークの小林久公、永井和・京都大学教授、吉見義明・中央大学名誉教授をはじめ、理論と運動を支えてきた人々が多数登場する。
運動の成果としてヘイトスピーチ解消法や川崎市条例ができたが、内容は十分とは言い難いし、運用を見ても限界がある。著者はこう述べる。
<さまざまな形が考えられるだろうが、私が考える望ましい形は、「人種差別撤廃基本法」で差別言動を違法とした理念を示した上で、「人種差別禁止法」で禁止条項と罰則条項を設け、刑法にも差別罪を設けることだと考える。>