国際刑事裁判所の検事局『ジェンダー迫害の罪に関する政策』を簡潔に紹介する。
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Ⅴ 規制枠組み
検事局は、国際刑事裁判所規程や犯罪の成立要素に従って職務を遂行する。
・職務のすべての段階でジェンダー迫害に効果的に対処するため、規制枠組みの規定を完全に行使する。
・規程を国際人権法及び適用可能な法源に従って解釈・適用する。
・ジェンダー迫害を予審や捜査の目的で事案の分析に取り入れ、迫害のすべての行為の累積的影響を考慮する。
・ジェンダー迫害の交差性アプローチを採用し、訴追戦略にあたって、政治、人種、目民、民族、文化、宗教その他の理由による迫害を考慮する。
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国際刑事裁判所規程7条1項(h)の『犯罪の成立要素』は人道に対する罪としての迫害について6つの要素を掲げる。
要素1:実行犯が、国際法に反して、一人又はそれ以上の人から基本権を著しく剥奪した。
要素2:実行犯が、ある集団又は共同体のアイデンティティを理由として、その一人又はそれ以上の人を標的にし、若しくはその集団又は共同体それ自体を標的にした。
要素3:その標的(の選択)は、政治、人種、国民、民族、文化、宗教、国際刑事裁判所規程7条3項に定義されたジェンダー、又は国際法の下で許容されないことが普遍的に認められているその他の理由に基づいていた。
要素4:実行行為が、国際刑事裁判所規程7条1項で言及された行為、又は国際刑事裁判所の管轄権の範囲内にあるいずれかの行為と結びついて、行われた。
要素5:実行行為が、文民たる住民に対する広範又は組織的な攻撃の一部として行われた。
要素6:実行犯が、実行行為が文民たる住民に対する広範又は組織的な攻撃の一部であったことを知っていた。
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要素1:実行犯が、国際法に反して、一人又はそれ以上の人から基本権を著しく剥奪した。
国際刑事裁判所規程7条2項(g)は、迫害を「集団又は共同体のアイデンティティを理由として、国際法に反して、一人又はそれ以上の人から基本権を意図的かつ著しく剥奪したこと」と定義する。
国際刑事裁判所規程21条1項(b)の「適当な場合には、適用される条約並びに国際法の原則及び規則」に従って、世界人権宣言、市民的政治的権利に関する子草規約、経済的社会的文化的権利に関する国際規約、拷問等禁止条約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、人種差別撤廃条約、障害者権利条約、アフリカ人権憲章、米州人権条約、欧州人権条約、並びに慣習国際法の下でのその他の権利が参照される。
国際刑事裁判所及びその他の国際法廷は、関連する判例法を豊かに形成してきた。アル・ハッサン事件予審部は、広範な基本権侵害を認定した。クルノジェラッチ事件判決、クヴォッチカ事件判決、ブラシュキッチ事件判決、タディッチ事件判決参照。ニュルンベルク裁判は教育の権利や雇用機会の権利の剥奪のような行為が宗教迫害にあたると認定した。
要素1は、犯罪の実行に差別意図があったことを示す。国際刑事裁判所規程のすべての迫害行為が差別から自由である権利の侵害である。国際刑事裁判所規程で禁止された犯罪と差別から自由である権利の侵害が結びつくので、基本権の著しい剥奪となる。
「不処罰を終わらせる」国際刑事裁判所の任務により、検事局は、迫害のすべての行為の累積的結果を考慮する必要がある。国際刑事裁判所規程17条1項(d)の目的にとって、事案の重大性を評価する。
17条1項(d)は、「当該事件が裁判所による新たな措置を正当化する十分な重大性を有しない場合」には裁判所が事件を受理しないと定める。
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要素2:実行犯が、ある集団又は共同体のアイデンティティを理由として、その一人又はそれ以上の人を標的にし、若しくはその集団又は共同体それ自体を標的にした。
国際刑事裁判所規程7条1項(h)は、禁止された理由でいずれかの特定される集団又は共同体に対する迫害を犯罪とする。7条2項(g)は、迫害を「その集団又は共同体のアイデンティティを理由として」国際法に違反して基本権の著しい剥奪と定義する。実行犯は、(1)ある集団又は共同体のアイデンティティを理由として一人の人またはそれ以上の人を標的にするか、(2)その集団又は共同体を標的にしたのでなければならない。
ジェンダー迫害は、人が性的登頂ゆえに標的とされる、及び/又はジェンダー役割、行動、活動及び態度を定義するために用いられた社会構成と基準ゆえに、標的とされなければならない。実行犯によって禁止されたジェンダー基準を有すると考えられた場合や、実行犯によって要求されたジェンダー基準を満たしていないと考えられた場合である。
「犯罪の成立要素」は、標的とされた集団が幅広い概念であると明らかにしている。直接に標的とされた集団の一部である必要はない。標的とされた集団のシンパサイザーでも十分である。この点はンタガンダ事件予審部決定では、「ヘマの住民でない」ことで標的とされたことを民族的理由に基づいたと認定した。シュタキッチ事件判決は「セルビア人でない者」に対する迫害を認定した。もし実行犯が、少女を学校から排除しようとしてある学校を標的としたなら、その学校の教師や職員が標的とされた集団の一部を形成する。
実行犯が、その人を標的とされた集団の関係者であると考えれば十分である。実行犯がある人をゲイやレズビアンであると考えて標的としたならば、その人が実際にはゲイやレズビアンでなくても、犯罪が成立する。実行犯がその人の所属を間違えたことは、その行為の差別的性格を失わせるものではない。
すべての人が何らかのジェンダーアイデンティティを有するので、ジェンダー迫害はすべての人について成立しうる。標的とされた集団には女性、少女、男性、少年、LGBTQI+の人が含まれる。女性も男性もドレスコードのゆえに標的とされる。同性愛者であるとみなされて標的とされうる。