国際刑事裁判所の検事局が『ジェンダー迫害の罪に関する政策』文書を公表した。
The
Office of the Prosecutor, International Criminal Court, Policy on the Crime of
Gender Persecution, December 2022.
以下、簡潔に紹介する。
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<目次>
Ⅰ 鍵となる用語の使用
Ⅲ 序文
Ⅳ 一般政策
Ⅴ 規制枠組み
Ⅵ 予審
Ⅶ 捜査
Ⅷ 訴追
Ⅸ 補償
Ⅹ 協力と外部関係
Ⅺ 制度の発展
Ⅻ 本政策の履行
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Ⅰ 鍵となる用語の使用
5つの用語について解説がなされている。
「社会の文脈」――「社会の文脈」は、国際刑事裁判所規程7条3項で用いられている言葉で、ジェンダーを定義するために用いられた社会構成と基準を指す。これには例えば、「女性」「男性」「少女」「少年」のような、性的指向、ジェンダーアイデンティティ、ジェンダー表象が含まれる。人種、民族、文化の理解を定義するために用いられる限り、これらもジェンダー理解を定義するために用いられる社会構成と基準となる。
「ジェンダー」――国際刑事裁判所規程7条3項では、「ジェンダー」は、社会の文脈で、2つの性――男性と女性として理解される。ジェンダーは性的特徴に関連し、男性性と女性性を定義する社会構成と基準であり、役割、行動、活動、態度に関連する。社会構成として、ジェンダーは社会の中で変容し、社会ごとに異なり、時の経過で変化する。このジェンダー理解は国際刑事裁判所規程21条に合致する。
「ジェンダー迫害」――「ジェンダー迫害」とは、国際刑事裁判所規程7条1項(h)のジェンダーに基づく迫害による人道に対する罪である。ジェンダー迫害は、性的特徴ゆえに、及び/又はジェンダーを定義する社会構成及び基準のゆえに、人に対して行われる。
「インターセックス」――「インターセックス」は、性的特徴において四z年身体のヴァリエーションの範囲を記述するために用いられる傘の用語である。
「LGBTQI+」――「LGBTQI+」は人々を同定する。より広いLGBTQIコミュニティに合致するが、その他の自己確認の用語が使われることもある。
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Ⅱ 要約
迫害は長期にわたって国際関心事項であり、慣習国際法に基づいている。人道に対する罪としての迫害は、ロンドン憲章と東京憲章に規定され、ニュルンベルク裁判判決における国際犯罪であり、それらの文書記録にはジェンダーに基づく犯罪の記録が残されている。
長期にわたって記録が残されているが、ジェンダーに基づく人道に対する罪――ジェンダー迫害は国際刑事裁判所規程以前の条約法には明示されていなかった。ジェンダー迫害を明示したのは国際刑事裁判所規程が初めてである。ジェンダー迫害を盛り込んだことで、性的加害やジェンダーに基づく加害の様々な形態が認知されるようになった。
とはいえ今なお多くの被害者が司法(正義)を手にしていない。世界中の紛争において、武装当事者が人道に対する罪としての迫害にあたるジェンダーに基づく犯罪を行っている。この20年間、国際刑事裁判所検事局はジェンダー迫害を訴追するようになってきたが。国際刑事司法にはまだギャップが存在する。
国際系所法廷においても国内法廷においても、同様であり、結果として、ジェンダー迫害は適切に捜査されず、告発されていない。
定義上、ジェンダーに基づく犯罪は、女性、男性、子ども、LGBTQI+の人々を標的とする。その中核では、実行犯は、ジェンダー表象に合致するジェンダー基準に反するとみなされた人々を規制し、処罰するために実行する。これらの基準は人生喉の局面も規制し、個人の移動の自由、リプロダクティブな選択、誰と結婚できるか、どこで働けるか、いかなる服装を着用するかなどの決定に影響する。
迫害のすべての形態と同様に、ジェンダー迫害の責任を問うためには、この犯罪の根底にある差別を認定し、理解することを要する。虐殺において行われた犯罪について実行犯の責任を問うだけでは不十分である。正義のためには、なぜ実行犯がその行為に出たのか、差別を撤廃し、暴力の連鎖を断ち切るにはどうすればよいかなど包括的な理解が求められる。
被害者やコミュニティには重大な帰結が生じるので、ジェンダー迫害が生じる状況、伝統的に訴追が十分なされないのはなぜかという問いが国際刑事裁判所検事局にとって優先事項となる。そこで本政策文書を作成した。
国際刑事法によれば、すべてのジェンダー及び性的指向の人々が性暴力及びジェンダーに基づく暴力の標的になりうる。しかし、ジェンダー差別は、国際刑法では伝統的に暴力の駆動因とみなされていなかった。性暴力がジェンダー中立犯罪とみなされがちだった。
ジェンダー迫害を認知したことで、この犯罪を行う差別的意図を認知することが出来るようになった。差別の複合性や交差性ゆえに被害に晒される被害者に光があたった。例えばLGBTQI+の人々は女性、男性、少女少年に属するが、同時にLGBTQI+集団に属するために攻撃されることも見えてきた。
このように認知することは、歴史的に形成された構造的差別と基本権の剥奪を反映している。これにより女性嫌悪主義、同性愛、トランスへの差別を認知できるようにした。ジェンダー迫害の罪の責任を問うことは、持続的な平和に寄与し、国際的に制度化されたジェンダー差別と暴力を掘り崩すことが出来るようになってきた。
ジェンダー迫害の訴追は、他の犯罪で訴追するよりも十分に犯罪の性格を把握できるようにし、不処罰のギャップを修復できるようになった。ジェンダー迫害の訴追は、無数のジェンダーに基づく行為が見えやすくした。
国際刑事裁判所は「不処罰を終わらせる」任務を有するので、検事局は迫害のすべての行為を考慮する。特に、これらの行為の累積的効果を認知し、事件の重大性を評価しなければならない。差別的理由による基本権侵害を命名することにより、虐待の正確な記録、総合的な記録を積み上げることができるようになる。
検事局の要請に基づいて、特別顧問が本政策文書を起草した。検事局にイニシアティブに加えて、長期にわたって特別顧問、国際刑事裁判所職員、外部の行為者――各国、国連の専門家、国連女性機関、国際機関、市民社会団体の協力を得た。
ジェンダー迫害の責任を問い、予防するには関係者の統一的な行動と関与が必要である。