国際刑事裁判所の検事局が『ジェンダー迫害の罪に関する政策』文書を公表した。
The
Office of the Prosecutor, International Criminal Court, Policy on the Crime of
Gender Persecution, December 2022.
以下、簡潔に紹介する。
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Ⅲ 序文
迫害は長期にわたって国際関心事項であり、慣習国際法に基づいている。人道に対する罪としての迫害は、ロンドン憲章と東京憲章に規定され、ニュルンベルク裁判判決における国際犯罪であり、それらの文書記録にはジェンダーに基づく犯罪の記録が残されている。
国際刑事裁判所規程はジェンダー迫害を明示した初めての国際刑法文書である。ジェンダー迫害を盛り込んだことで、性的加害やジェンダーに基づく加害の様々な形態が認知されるようになった。
国際刑事裁判所規程7条2項(g)の下で、「迫害」は集団又は共同体の同一性を理由として、国際法に違反して基本的な権利を意図的にかつ著しくはく奪することをいう。ジェンダー迫害のゆえに標的にされる集団には、女性、少女、男性、少年、LGBTQI+の人々が含まれる。
国際刑法によれば、すべてのジェンダーと性的指向の人々が性暴力の被害を受ける。しかし、ジェンダー差別は、国際刑法では歴史的に、暴力の駆動因とみなされてこなかった。例えば、性暴力をジェンダー中立暴力とみる傾向があった。
国際刑事裁判所検事局は、ジェンダー迫害で訴追できる事件を評価する際に偏見を持たず、ジェンダーに基づいて標的とされうる人々を認定する。
子どもに悪影響を及ぼすジェンダー迫害について、検事局は、特に重大な犯罪であると考え、子どもが国際法の下で特別に保護を受けるよう考慮する。子どもを年齢や出生を理由に標的にする迫害行為は、ジェンダーのみならず、交差的な理由に基づいて訴追できる。
ジェンダー迫害は国際刑事裁判所の管轄内の犯罪と結びついてすべての人々に対して行われるが、歴史的構造的な差別と基本権剥奪を反映している。
実行犯の差別的意図は、既存の社会構成と基準と重なる。実行犯の差別的意図は、国際刑事裁判所規程で禁止された迫害のその他の理由と交差する。
ジェンダー迫害の最近の事例には、アフガニスタン、コロンビア、イラク、リビア、ミャンマー、ナイジェリア、シリア、イェメンがある。
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国際刑事裁判所規程第21条の次の規定が関連する。
21条1項(b) 第2に、適当な場合には、適用される条約並びに国際法の原則及び規則(確立された武力紛争に関する国際法の原則を含む。)
(c) (a)及び(b)に規定するもののほか、裁判所が世界の法体系の中の国内法から見いだした法の一般原則(適当な場合には、その犯罪について裁判権を通常行使し得る国の国内法を含む。)。ただし、これらの原則がこの規程、国際法並びに国際的に認められる規範及び基準に反しないことを条件とする。
21条3項 この条に規定する法の適用及び解釈は、国際的に認められる人権に適合したものでなければならず、また、第7条3に定義する性、年齢、人種、皮膚の色、言語、宗教又は信条、政治的意見その他の意見、国民的、民族的又は社会的出身、貧富、出生又は他の地位等を理由とする不利な差別をすることなく行われなければならない。
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ジェンダー迫害の重大性とその捜査と訴追の意義を認識して、検事局は、アル・ハッサン事件の訴追を行った。国際刑事裁判所の歴史上初めて、2019年9月30日、国際刑事裁判所予審部はジェンダーに基づく迫害を訴追した。
2022年、検事局は、ジェンダー・子ども部の任務と権限を強化し、優先的に扱うことにした。ジェンダー・子ども部は国際刑事裁判所のすべての部局を支援して、性的・ジェンダーに基づく犯罪に関する任務を遂行する。
本政策文書の目的は次の5つである。
・国際刑事裁判所規程の任務に従って、性的・ジェンダーに基づく犯罪に対処するために特別な注意を払うこと。
・国際刑事裁判所規程、「犯罪の成立要素」、手続き証拠規則の解釈と適用のために明確さと方向性を提供すること。
・ジェンダー迫害の捜査、分析、訴追に関連して最良の実務の文化を推進すること。
・本文書の履行を通じて、ジェンダー迫害に関する国際司法の発展に寄与すること。
・ジェンダー迫害に対処することの意義について注意を喚起すること。
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ジェンダー迫害の責任を問い、予防するには関係者の統一的な行動と関与が必要である。
検事局は申し立てられた犯罪にアプローチするのに、透明性、明確性、予測可能性を促進する文書を公表している。本文書の出版、配布、履行には各国、国連機関、専門家、移行期の司法機関、国際機関、市民社会団体、研究者、活動家、被害者の協力が重要である。