Saturday, December 15, 2012

取調拒否権の思想(2)


黙秘権

 

 前回は、黙秘権を行使して取調を拒否し、そのために出房拒否を実践した例を紹介した。この実践は黙秘権行使に新しい局面を拓くものであり、しかも取調をめぐる法理論にも重要な問題提起となっている。取調拒否権が浮上するからである。取調に際して黙秘することから一歩踏み込んで、黙秘権行使のために取調そのものを拒否する思考である。そこで黙秘権とは何かの基本に立ち返って、より詳しく検討することにしよう。

 黙秘権(自己負罪拒否特権)は、例えば、次のように定義される。

 「自己帰罪拒否特権ともいう。何人も、自己に不利益な供述を強要されないこと(憲三八Ⅰ)、即ち、自分自身に罪(=刑事責任)を負わせる(ないし加重する)結果となる供述を拒否できる権利である。自己に不利益な供述には名誉や財産上の不利益は含まない。アメリカ合衆国憲法の自己負罪(セルフ・インクリミネーション)に由来する。被疑者・被告人については、利益・不利益を問わずいっさいの供述を包括的に拒否できる(刑訴二九一Ⅱ・三一一)ので、黙秘権とも呼ばれる(そもそも供述義務がない)。証人は、一般に出頭・宣誓・供述の義務があるが、『自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言』は拒否できる(刑訴一四六)。議院の審査・国政調査における証人が、当該内容の証言を拒否することも保障する。」(『コンサイス法律学用語辞典』三省堂)。

 さらに、黙秘権の告知について、次のように整理される。

 「刑事訴訟法一九八条二項は、捜査機関が被疑者の取調に際して、予め自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならないと規定する。また、同二九一条二項は、裁判長に対し、起訴状の朗読が終わった後、被告人に対し、終始沈黙し、または個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨を告げることを要求する。これらを黙秘権の告知という。」(同右)

以上のことを整理すると、いくつかの論点が交錯することになる。

第一に、憲法上の権利であるのか、それとも刑事訴訟法上の権利であるのか。ここで注意するべきことは、右のように憲法三八条一項「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」を引証するだけで十分なのかどうかである。憲法三六条は「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」としているので、重要条文であることは言うまでもない。だが、それだけではない。三六条、三八条の前提に、憲法一三条が「すべて国民は、個人として尊重される」とし、自由権と幸福追求権を定めていることを忘れてはならない。

第二に、誰の権利であるのか。被疑者、被告人、証人その他が列挙されている。ここでも、憲法一三条などを前提として、原則論としては、すべての者の黙秘権が想定されなければならない。そのうえで、法律上のそれぞれの扱いが定められている。取調拒否権を論じる本稿では、以下、被疑者の黙秘権を中心に検討する。

第三に、権利告知の要請と、その効果が問題となる。権利告知は、憲法の明文の要請ではないが、それに準ずるものと理解するべきである。

さらに、第四に、黙秘権行使の帰結も重要である。権利である以上、黙秘権を行使したことを理由に不利益推定をしてはならないというのが通常の理解である。

 

取調受忍義務論

 

実務では、被疑者について取調受忍義務論が採用されている。とりわけ身柄拘束された被疑者には取調受忍義務があるのが当然であるかのごとき実務が支配している。身柄拘束されていない被疑者についても、しばしば事実上の取調受忍義務が課されていると言って過言ではない。

実務における被疑者の取調受忍義務論は、一方で捜査機関の被疑者取調権を前提とし、同時に、被疑者の出頭・滞留義務を根拠としている。

刑事訴訟法一九八条一項は「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。」と定めているので、被疑者に対する取調の強制権限と、身柄拘束されていない被疑者には出頭拒否を認めている体裁なので、身柄拘束されている被疑者には出頭義務だけでなく滞留義務もあると解釈されている。

取調受忍義務論には疑問が少なくない。ここでは福井厚(京都女子大学教授、元法政大学教授)の教科書『刑事訴訟法講義[第五版]』法律文化社、二〇一二年)から引用しよう。福井には他にも『刑事訴訟法[第七版]』(有斐閣)、『刑事訴訟法学入門[第三版]』(成文堂)、『刑事法学入門[第二版]』(法律文化社)がある。

「実務は、一九八条一項但書の『逮捕又は勾留されている場合を除いては』という文言を根拠に、逮捕・勾留中の被疑者取調を強制処分と考えている。学説の中にも、逮捕・勾留中の被疑者には、捜査官の取調を受忍する義務があり、捜査官の出頭要請に対して被疑者は出頭を拒み、又は出頭後退去することはできないとするものがある。出頭義務・滞留義務を肯定しても、供述自体を強制することにはならないというのであろう。しかし、被疑者には、憲法上、黙秘権が認められている。この黙秘権は包括的なものであり、黙秘権を保障する見地に立てば、取調受忍義務を肯定することはできないであろう。また、逮捕・勾留は積極的な取調のために設けられている制度ではなく、逃亡及び罪証隠滅を防止すると言う消極的な機能を果たすための制度であり、従って逮捕・勾留が取調受忍義務を生ぜしめるという見解には、理論上、重大な疑問がある。取調目的の身柄拘束を認めることは、被疑者・被告人に訴追側と対等の地位を認める当事者主義に悖る思想であると言うべきであろう。そもそも、強制処分法定主義からすれば、逮捕・勾留中の被疑者に逮捕・勾留とは別個独立の処分である取調受忍義務を負わすのであれば、そのための(一九八条一項但書とは別の)明文の根拠規定が必要だと言うべきである。」

ちなみに、取調受忍義務肯定論者としては、検察関係者のほか、団藤重光(東京大学名誉教授、元最高裁判事)があげられている。他方、否定論者としては、平野龍一(元東京大学総長)、石川才顕(日本大学名誉教授)、光藤景皎(大阪市立大学名誉教授)、松尾浩也(東京大学名誉教授)、田宮裕(立教大学名誉教授)、小田中聡樹(東北大学名誉教授)などがあげられている。

取調受忍義務をめぐる議論は、黙秘権論だけではなく、未決拘禁(逮捕・勾留)論、訴訟構造論にも及ぶ理論問題として展開されてきた。そうした射程も考慮に入れつつ、取調拒否権の立場から光を再照射する必要がある。

 

救援連絡センター『救援』520号(2012年8月)

Thursday, December 13, 2012

「日本におけるヘイトスピーチ 私たちはどう立ち向かうか」集会アピール

「日本におけるヘイトスピーチ 私たちはどう立ち向かうか」集会アピール

世界各地においてヘイトスピーチ(憎悪発言)の問題はより顕著になり、重大な人権侵害をもたらし
ています。日本ではこの問題についての理解はまだ不充分ですが、マイノリティを対象にした暴力的なヘイトスピーチや差別発言の事件は頻繁に起きており、適切な対応や行動が求められています。

そのため、私たちは、2012 年11 月20 日東京において、そして11 月24 日大阪において、「日本に
おけるヘイトスピーチ 私たちはどう立ち向かうか」と題する集会をもち、マイノリティに対するヘイ
トスピーチによる差別事件について報告を受けました。

在日コリアンに対するヘイトスピーチでは、たとえば、2009 年12 月4 日に「在特会」による京都朝
鮮第一初級学校襲撃事件が起きました。この事件は刑事裁判により有罪が確定しましたが、判決理由には人種主義的動機は反映されませんでした。犯行者たちが事件現場を撮影してインターネットの動画サイトに流したことで、差別による被害は何重にも広がりました。被害者に与えた被害と影響は甚大であり、学校側は民事裁判に訴えました。裁判は現在係争中です。心理的ケアなどを含む包括的救済が必要であるにもかかわらず、被害者は放置された状態です。

被差別部落民に対しては、たとえば、2011 年1 月22 日、奈良県の水平社博物館前において差別的な街頭宣伝事件が起きました。水平社博物館は犯行者である「在特会」の関係者に対して民事訴訟を起こし、2012 年6 月25 日、被告に賠償金支払いを命じる判決が言い渡されました。犯行者たちはこの事件も録画撮影をし、動画サイトに流しました。部落に関連する差別的発言とアジテーションの一部始終がインターネット上で公開されたことで、原告はもとより周辺住民や教育関係者をはじめ多くの人びとにさらなる精神的動揺と不安を与えました。この事件においても、差別発言や差別行為を直接裁く法律がないために、実質的には差別が野放しにされた状態です。

公人の発言について、たとえば、2010 年12 月に前東京都知事は同性愛者に対して深刻な差別発言を公的な場で行いました。発言に対して、性的マイノリティに属する人びとを含む多くの人びとが傷つき憤りを感じ、さまざまな抗議行動に出ました。しかし、発言者からは「謝罪」も「撤回」の言葉もなく、社会的にも深刻な問題であるとの認識は広がっていません。前東京都知事はこれまでにも「三国人」発言や「ババァ」発言など差別的で扇動的な発言を繰り返してきました。こうした公人による差別発言は前東京都知事に限らずこれまでも数多く起きていますが、それに対して国が何らかの措置をとったことはなく、さらにはそうしたことを許さない社会的認識も欠如しています。

これら報告を受けて私たちはヘイトスピーチの問題を以下のように確認します。

1.ヘイトスピーチの本質はマイノリティ集団を傷つけ、おとしめ、排除しようとする言動による暴力
であり、人種、民族的出身、国籍、世系、ジェンダー、性的指向、性的アイデンティティ、障がいなど
の理由に基づく差別行為であって、社会に構造的に存在する他の差別行為と一体となり、日常的にマイノリティに属する人びとを苦しめている。

2.ヘイトスピーチは被害者の存在そのもの、とりわけアイデンティティを否定するものであるがゆえ
に、その尊厳、人格権を傷つけ、心身の状態や日常的な行動、ひいては人生全体に悪影響を与え、自死にまで至らせることもある。

3.ヘイトスピーチ、なかでも人種主義的ヘイトスピーチは、一般社会に人種的、民族的マイノリティ
に対する憎悪、悪意、蔑視を充満させ、平等に基づく平和的、友好的な諸人種・民族間の関係を破壊し、マイノリティに対する物理的暴力、ひいてはジェノサイドをもたらす。4.ヘイトスピーチについて、特定人に向けられたものについては侮辱罪など現行法においても使えるものはあるが、充分に機能していない。また、不特定人に向けられたものについては、人種差別撤廃条約第4 条(c) の「公の当局・機関による人種差別の助長・扇動を認めないこと」以外には規定がなく、また同条項は日本においてまったく機能していない。

現状報告および確認事項を踏まえ、私たちは国(立法、司法、行政)および地方自治体、および国連に対して次のように要請します。

国(立法、司法、行政)および地方自治体に対して:

1.被害者原告が民事訴訟で勝訴したケースも含む「ヘイトスピーチ」に関係する事件について直ちに調査を行い、2013 年1 月14 日提出期限の人種差別撤廃委員会への条約実施にかかる政府報告書に含めること。

2.条約第4 条(c)項を踏まえ、公人による重大な差別発言による事件の現状報告と政府の見解を、次回の人種差別撤廃委員会への日本政府報告書に含めること。

3.政府および国会は、2010 年の人種差別撤廃委員会の勧告パラグラフ11 にしたがい、日本における人種的、民族的マイノリティの構成および差別の状況について、直ちに全国的な調査を行うこと。調査の項目を含む調査方法については、事前に当事者団体および差別の問題に取り組むNGO と協議し、関係する個人のプライバシーと匿名性を充分尊重しながら、任意の自己認定に基づき行うこと。

4.すべての国家公務員および地方公務員、とりわけ法執行職員に対する人種差別撤廃を含む国際基準に沿った人権教育を実施すること。

5.ヘイトスピーチを含む人種差別行為を禁止する法律および条例を制定すること。

6. ヘイトスピーチに対し、人種差別撤廃条約第4条をはじめとする国際人権法、憲法、民法、刑法などの現行法を効果的に機能させること。

国連に対して:

1. 人種差別撤廃委員会(CERD)に対して、2012 年8 月28 日の人種主義的ヘイトスピーチについてのテーマ別討論のフォローアップとして一般的勧告を作成すること、特に;

 さまざまな形態の人種主義的ヘイトスピーチについての情報収集と、表現の自由を確保しながらも、人種差別撤廃条約第4条により禁止されるべきヘイトスピーチの形態、要素、規制方法を具
体化し、

 人種差別撤廃条約のもと、特に差別にさらされやすいとされるグループのヘイトスピーチからの
保護について政府がとるべき具体的行為を明確にすること。

2.国連人権理事会に対して、各加盟国における人種差別の規制や防止に関する法的・行政的措置、およびヘイトスピーチ(あるいは扇動)に関する実態とその対抗措置について状況を把握すること。CERDの人種主義的テーマ別討論や国連人権高等弁務官事務所による扇動についての専門家ワークショップを踏まえ、ヘイトスピーチ全般についてのパネル討論を開催すること。このテーマについての独立専門家もしくは特別報告者の設置の可能性も含め、効果的にこの問題に取り組んでいくための行動をとること。

最後に、私たちは次のように決意します。

1.この問題について今後も継続して監視し、国および地方自治体に対する要請を行い、実施させる。

2.この問題については「法律」「社会科学」「個別事件」「市民社会運動」などの異なるレベルで議論あるいは取り組みが行われている。そうした議論や取り組みに参加協力していく。

3.本集会の内容を含めた報告を国連人権機関、とりわけ人種差別撤廃委員会に提供する。さらに、本集会で共有された事件を含み、事実の記録を蓄積していき、人種差別撤廃委員会の日本報告書審査および自由権規約委員会の日本報告書審査(2014 年3 月予定)に向けたNGO レポートに反映させる。

4.上記要請を各関係団体のウェブサイトなどで公表することを含め、この問題について継続して社会に広く訴えていく。

2012 年11 月24 日
「日本におけるヘイトスピーチ 私たちはどう立ち向かうか」東京集会・大阪集会
人種差別撤廃NGO ネットワーク(ERD ネット)

*2012年12月17日、誤字訂正。

取調拒否権の思想(1)


取調拒否の実践

 

 本年三月三一日に開催された救援連絡センター総会において、代用監獄(留置場)に逮捕・勾留された被疑者による取調拒否の実践が報告された。逮捕されたAは、警視庁三田署において、

取調拒否、点呼拒否、ハンストを宣言した(ハンストは体力等を勘案して勾留決定まで)。Aの取調拒否(出房拒否)の実践は非常に示唆的であり、理論的にも検討を深める必要があるので、以下、やや詳しく紹介したい。

  二〇一一年二月二〇日、沖縄高江での米軍ヘリパッド建設に反対する反戦デモで、アメリカ大使館前を通るコースを申請したが、都公安委員会にコース変更処分されたので、当日、デモをボイコットして歩いて大使館まで行く戦術に切り替えた。集合場所・新橋駅前では、警察が情宣に対して、公安条例違反の無届集会だと恫喝を加えていた。大使館前までの移動中も、警察は「公安条例違反の無届デモだ」と、参加者を萎縮させようとしていた。

Aは、麻生邸リアリティーツアー不当逮捕事件国賠訴訟の事務局をしているので、このような公安条例弾圧に非常に腹が立ち、悪宣伝を繰り返す警察車両の梯子に登って口頭で抗議をした。拘束されないようにすぐに降りた。警察は、大使館に抗議をさせないために手前でピケを張っていた。不当不法なピケを久しぶりに見ると腹が立ち、再度警察車両の梯子にのぼり指揮官に抗議をした。すぐに降りたが、群がった警察官はAを拘束し、突然の「検挙」の掛け声で逮捕された。

Aは、梯子に登ること自体は何の違法行為にもならないと考えていたし、抗議自体も口頭によるもので、物理的な実力行使とは程遠いものであった。赤坂署に連行されるまでの間、私服刑事に「被疑事実は何か」と聞いても、具体的な被疑事実、罪名は答えなかった。後に被疑事実とされたのは警察官の胸を殴打したとのデッチ上げの公務執行妨害であった。

赤坂署での弁解録取では、逮捕自体が被疑事実すら告げられない違憲な逮捕だとして即時の釈放を要求した。「手続に異議があるので、六法全書を持ってくるよう」要求したが、「便宜供与になる」と言うので、「ならば便宜供与になるといった発言のみを録取書に記載せよ」と言ったが、取調刑事は拒否した。

署の前で仲間が抗議行動をしていたので、「接見させろ」のコールに呼応して、取調室でシュプレヒコールをあげたところ、数人がかりで体を押さえつけられ、ある刑事がひじでAの喉を圧迫した。数時間たって、弁護士接見が入ったので、押収品目録を宅下げするよう要求したが、「赤坂署は改装中の仮施設で留置設備がない、だから書式もないから無理だ」などと無責任なことを言うので、弁護士とともに抗議した。Aは喘息もちなので病院診察を要求し、慶応大学病院の診察を経て、三田署に移送された。

 

出房拒否戦術

 

イラク反戦以降付き合いのある仲間は、市民運動家、いわゆるノンセクト、あるいはアナキストだったりするが、街頭闘争で多く逮捕されてきた。仲間が逮捕されれば救援するし、救援された仲間は次の弾圧の救援をするといった相互救援のなかで経験を共有してきた。「黙秘」の話が出た時に「そもそも取調自体を拒否すれば、あの長時間の苦痛はないのではないか」、「取調したって何も話さないんだから、黙秘権っていうならそもそも出ていかなくてもいいんじゃないか」という雑談をしたことがある。興味を持って調べた仲間から、包括的黙秘権と取調受忍義務という概念を教えてもらい、さらに調べてみたらどうもその点を争った判例もないようなので、「次に入ったらやってみるか」と笑いあっていた。そこで、Aは三田署に留置されるや、取調拒否を宣言したのである。

Aは「供述は任意であり、そもそも黙秘を公言しているのだから、取調室に行く必要がない。強制的に引きずってでも連れて行くつもりなのか。もしそうするなら徹底的に争うぞ」と言った。すると、留置担当官は「強制的には連れて行けないけど、取調べの刑事さんに直接言ってもらえる?」と言うので、 「言うために出て行ったら、なし崩しに取調べになる。行かない」と返すと、それで終わった。他の日も呼びには来るが、「出ない」と言えばそれまでであった。

警察側は何を聞きたがっているのか探りを入れようと思って一度出房したが、人定程度のことしか聞かれなかったので、早々に切り上げさせて房に戻った。救対に警察の動向を知らせるために出たわけだが、無意味だと思い直して、以降はやめて、出房拒否を貫いた。

取調室に入れば、長時間にわたって身体的精神的苦痛を受けるから、そもそも出ないというのは非常に健康にいいという。

検察庁での検事調べに対しては「黙して語らずとだけ書くように」と言い、すぐに終わった。その後、三田署に検事が調べに来たが、出房しないでいたら、留置担当官は警察の調べとは違う困った様子で、「頼むから直接検事に言ってくれ」と言われ、取調室ではなく弁護士接見に使う面会室でやるというので面白がって出てみた。もちろん被疑事実については何も述べず、逆に「写真や映像を見ても被疑事実が確認できない」という言質をとった。

Aは、仲間に出房拒否を勧めている。実際に 九・一一弾圧と竪川弾圧では何人か出房拒否を実践した。警察の対応はまちまちで、「引きずり出すよ」と留置係に言われた者もいれば、捜査担当刑事が留置場に入ってきて「引きずりだしてやる」と言われた者もいる。前者は無理せず、結局は出房したようだが、後者は拒否を貫徹した。

Aは「当然権力の反撃もあるので楽観できませんが、転向強要・自白強要の温床である密室から自由であることの意義は大きく、自白中心主義を解体するための強力な武器になると思います。新たな捜査手法として黙秘の不利益推定も目論まれていますから、これまで以上に黙秘の意義を強調すべきです」と語る。

以上がAの取調べ拒否の実践である。これまで黙秘権行使の重要性が唱えられてきたが、黙秘権行使にはそれなりの覚悟が必要でもある。取調室で刑事に囲まれて、延々と嫌がらせ攻撃にさらされ、黙秘を貫くのは容易ではない。黙秘権を行使するということは、取調べの質問には答えないことである。答える必要がないのだから、そもそも取調室に行く必要もない。それならば、出房拒否をするのが穏当かつ効果的な黙秘権行使である。そこで、次回は取調拒否権の確立のために検討を加えたい。

 

救援連絡センター『救援』519号(2012年7月)

無法不当逮捕とたたかう黙秘権と取調拒否権のために


先日は同僚の田村史郎彫刻展を楽しみ、


今日の午後は松尾多英個展『砂』に出かける。


 

しかし、世間はひどいことになっている。福島の被災者はそっちのけの権力争い選挙で、支持率の上がっていない自民党が大量議席をさらう見込みだ。敦賀原発廃炉の兆しだが、脱原発も危うくなるし、各地では弾圧の不当逮捕が続いている。大阪瓦礫問題でも不当逮捕だ。

 

脱原発デモや集会での無法逮捕、不当捜索についてはこれまでもいろいろと書いてきたが、でっち上げ、不当逮捕、不当取調べ、自白強要、思想弾圧との闘いのために、救援の理論と実践がますます重要になっている。黙秘権の思想を広めることが第一だが、黙秘権行使の実践も含めると、なかなか困難もある。黙秘権行使のためには取調拒否、出房拒否が一番である。

 

そこで「取調拒否権の思想」を救援連絡センターの機関紙『救援』に連載してきた。いつかブログに公開しようとは思っていたが、早い方がいいと思い直して、これから順次公開することにした。連載は5回まで済んでいる。6回目も書いてある。8回目でいったん中断して、各方面からの意見を聞いたうえで後日再開するつもりだ。

 

本日のBGMはASIAN KUNG-FU GENERATIONの「未だ見ぬ明日に」。

Sunday, December 09, 2012

暴風雪の札幌での集会 日本軍「慰安婦」問題&原発民衆法廷


7日は日本軍「慰安婦」問題集会、8日は原発民衆法廷でした。先ほど、東京に戻ったところです。

 

「原発は人道への罪」 札幌で民衆法廷 5時間議論の末(朝日新聞・北海道版)


 

シンポジウム イアンフ(慰安婦―日本軍性奴隷) 問題から現代日本をよむ


 

原発民衆法廷第6回公判・札幌


 

山内亮史(旭川大学学長・幌延問題を考える旭川市民の会)

久世薫嗣(幌別深地層処分場)

佐藤英行(泊原発)

竹田とし子(大間原発)

宍戸隆子(福島からの避難者)

鵜飼 哲(一橋大学教授)

岡野八代(同志社大学教授)

田中利幸(広島市立大学広島平和研究所教授)

前田 朗(東京造形大学教授)

田部知江子(弁護士)

中川重徳(弁護士)

井堀 哲(弁護士)

張 界満(弁護士)

高橋哲哉(東京大学教授)

伊藤成彦(中央大学名誉教授)

 

これだけのメンバーが札幌のかでる2.7に集合した原発民衆法廷でした。

 

北海道は暴風雪のため、千歳空港の飛行機が飛ばず、帰りたくても帰れない状態に(苦笑)。

Wednesday, December 05, 2012

平和の魂、平和の塊――9条裁判闘争史に学ぼう


内藤功『憲法九条裁判闘争史』(かもがわ出版)


 

目次

序章 原点

第1章 砂川刑事特別事件

第2章 恵庭訴訟

第3章 長沼訴訟

第4章 イラク訴訟

終章 現在

 

凄い本が出たものだ。

 

憲法9条、平和的生存権、自衛隊裁判、基地闘争、平和運動に関心のある人必読。

 

著者は、米軍駐留を憲法違反とした砂川訴訟の伊達判決、自衛隊を憲法違反とした長沼訴訟の福島判決などを勝ち取った弁護士だ。基地裁判闘争の第一人者だ。本書のいたるところに、著者ならではの平和観、裁判観、9条理解、平和的生存権把握が詰め込まれている。平和を求める闘いの指南書である。一気に読めてしまう。ためになるし、平和主義の確信が強化され、元気が出る。

 

対談の聞き手は川口創と中谷雄二。ともに、2008年の名古屋高裁自衛隊イラク派遣違憲判決を引き出したイラク訴訟の弁護士だ。砂川、恵庭、長沼からイラクへ。平和を求める運動と弁護士の闘いが継承されていく。本書の企画を思いつき、実現した2人に、読者として敬意を表し、感謝したい。

 

川口創には、笹本潤・前田朗編『平和への権利を世界に』(かもがわ出版)にも一文を書いてもらった。


 

川口創のブログ



福岡県弁護士会


市民の司法


 

残念ながらミスプリが少々目立つ。憲法が拳法になっていたり(253頁)、私の恩師である風早八十二先生の名前が風早八二になっていたり(299頁)。

Tuesday, December 04, 2012

領土ナショナリズムを徹底分析


岡田充『尖閣諸島問題――領土ナショナリズムの魔力』(蒼蒼社)


 

待望の書である。

 

尖閣諸島をめぐる領土紛争を、歴史的にていねいに論じている。現状を詳細に把握し、歴史的文脈に位置付けるとともに、将来展望も含めていかに論じるべきかの指針を示している。

 

尖閣諸島にしても、竹島にしても、今年は領土問題に関する著作が多数出版されているが、過半数はやっつけ仕事本である。歴史的経過をきちんと踏まえていないものも目立つ。一方の立場だけ、つまり日本政府見解を横流ししているものが多い。対立をあおり、戦争気分に浮かれているだけの本もある。

 

それらとは違い、本書は、領土問題をいかに論じるべきかの模範と言ってもよい。領土紛争がなぜ起きるのか。領土紛争が両当事者にとっていかなる意味を持つのか。また、周辺諸国との関係や、国際政治における意味も踏まえて書かれている。

 

必読の書である。

 

目次を掲げるだけでも、本書が秀逸な著作であることが読みとれるだろう。

 

第一章
最悪の日中関係
1
尖閣諸島国有化への抗議行動勃発
2
国有化という作為
3
暴動化したデモの経済への影響
第二章
過去をふりかえる
1
固有領土論のいかがわしさ
2
米国の曖昧戦略――戦後秩序の論点
3
棚上げ」の歴史と記憶
第三章
国際関係のなかの尖閣問題
1
中国に内在する論理を解明する
2
日中相互不信を助長するメディア
3
対中ポジション探る米国
第四章
米中関係と両岸関係
1
台湾と両岸関係
2
日米でずれる対中国観
3
境界を超える意識と文化

 

 

<著者略歴:

1948年北海道生まれ。1972年慶応大学法学部卒業後、共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て2008年から共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。著書に『中国と台湾――対立と共存の両岸関係』 (講談社現代新書)がある。>

 

「領土ナショナリズムの魔力は、われわれの思考を国家主権という『絶対的価値』に囲い込む。『われわれ』と『かれら』の利益は常に相反し、われわれの利益こそが『国益』であり、かれらの利益に与すれば『利敵行為』や『国賊』と非難される。単純化された『二択論』に第三の答えはない。/しかし、地球が小さくなり隣国との相互依存関係が深まれば、国家主権だけが百数十年前と同じ絶対性を維持することはできない。境界を超えて文化と人がつながり、共有された意識が広がると、偏狭な国家主権は溶かされていく。あの知事をはじめ、各国のリーダーが国家主義の旗を振る姿にドンキホーテを見る滑稽さを感じるのはそのためであろう。多くの人はその滑稽さに気づいてはいるが、『魔力』からは自由ではない。」(はしがきより)