Tuesday, December 04, 2012

領土ナショナリズムを徹底分析


岡田充『尖閣諸島問題――領土ナショナリズムの魔力』(蒼蒼社)


 

待望の書である。

 

尖閣諸島をめぐる領土紛争を、歴史的にていねいに論じている。現状を詳細に把握し、歴史的文脈に位置付けるとともに、将来展望も含めていかに論じるべきかの指針を示している。

 

尖閣諸島にしても、竹島にしても、今年は領土問題に関する著作が多数出版されているが、過半数はやっつけ仕事本である。歴史的経過をきちんと踏まえていないものも目立つ。一方の立場だけ、つまり日本政府見解を横流ししているものが多い。対立をあおり、戦争気分に浮かれているだけの本もある。

 

それらとは違い、本書は、領土問題をいかに論じるべきかの模範と言ってもよい。領土紛争がなぜ起きるのか。領土紛争が両当事者にとっていかなる意味を持つのか。また、周辺諸国との関係や、国際政治における意味も踏まえて書かれている。

 

必読の書である。

 

目次を掲げるだけでも、本書が秀逸な著作であることが読みとれるだろう。

 

第一章
最悪の日中関係
1
尖閣諸島国有化への抗議行動勃発
2
国有化という作為
3
暴動化したデモの経済への影響
第二章
過去をふりかえる
1
固有領土論のいかがわしさ
2
米国の曖昧戦略――戦後秩序の論点
3
棚上げ」の歴史と記憶
第三章
国際関係のなかの尖閣問題
1
中国に内在する論理を解明する
2
日中相互不信を助長するメディア
3
対中ポジション探る米国
第四章
米中関係と両岸関係
1
台湾と両岸関係
2
日米でずれる対中国観
3
境界を超える意識と文化

 

 

<著者略歴:

1948年北海道生まれ。1972年慶応大学法学部卒業後、共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て2008年から共同通信客員論説委員、桜美林大非常勤講師。著書に『中国と台湾――対立と共存の両岸関係』 (講談社現代新書)がある。>

 

「領土ナショナリズムの魔力は、われわれの思考を国家主権という『絶対的価値』に囲い込む。『われわれ』と『かれら』の利益は常に相反し、われわれの利益こそが『国益』であり、かれらの利益に与すれば『利敵行為』や『国賊』と非難される。単純化された『二択論』に第三の答えはない。/しかし、地球が小さくなり隣国との相互依存関係が深まれば、国家主権だけが百数十年前と同じ絶対性を維持することはできない。境界を超えて文化と人がつながり、共有された意識が広がると、偏狭な国家主権は溶かされていく。あの知事をはじめ、各国のリーダーが国家主義の旗を振る姿にドンキホーテを見る滑稽さを感じるのはそのためであろう。多くの人はその滑稽さに気づいてはいるが、『魔力』からは自由ではない。」(はしがきより)