グランサコネ通信2010-29
2010年8月17日
*
1)8月16日
*
肌寒い一日でした。風は秋の気配。町にはコート姿の人も。CERDはモロッコ政府報告書審査でした。
*
モロッコ報告書(CERD/C/MAR/17-18. 9 November 2009)
2003年11月11日に改正された刑法431-1bis条は、差別犯罪を次のように定義している。「国民的出身、社会的出身、皮膚の色、人種、家族状況、健康状態、障害、政治的意見または労働組合委員であることを理由として自然人の間で区別すること、または人が特定の人種、国民、民族集団または宗教の構成員であることや、そう考えられたことのために自然人の間で区別すること」。差別犯罪は、一月以上二年以下の刑事施設収容および一二〇〇ディラム以上五万ディラム以下の罰金を課される。差別犯罪は自然人に対してだけではなく、法人に対しても成立する。刑法431-1bis条第2項は、その構成員の出身、人種、家族状況、健康状態、障害、政治的意見または労働組合活動のために、または特定の人種、国民、民族集団または宗教の構成員であることや、そう考えられたことのために、法人に対してなされた区別を規定している。差別犯罪にかされる刑罰は、便益やサービスを与えないこと、雇用の否定、人に対する制裁、解雇にいたる差別行為に適用される。犯罪の定義には経済活動も含まれる。
2002年10月3日に改正されたプレス法39bis条は、マスメディア、公開の議論、公開集会、公開の場所における人種差別を禁止している。一月以上一年以下の刑事施設収容および三〇〇〇ディラム以上三万ディラム以下の罰金を課される。この禁止は、ICERD第4条が規定するように、人種差別の教唆にも適用される。差別行為の実行者だけでなく、資金提供も含む人種差別の援助などの共犯にも適用される。共犯にも同じ刑罰が適用される。適用事例としては、2007年1月12日のウルザザテ裁判所による一審判決がある(具体的内容は不明)。また、検察官は、新聞「アル・シャマル」2005年283号がアフリカ人に対して攻撃的な記事を掲載したので、経営者と編集者を召喚した。編集者は、タイトル選択に際して誤りがあったと述べ、新聞は3ページの謝罪を表明した。検察官は裁判長にその記事を提出して、当該記事の削除命令を求めた。結局、新聞スタンドや書店から回収された。
2002年7月23日の結社法は、差別を推進する結社の設立を禁止している。動揺の規定は最近制定された政党法にも含まれている。結社法3条は、人種主義的基盤に基づいた結社、または差別の教唆を目的とする結社は違法であるとする。結社法に違反すれば、民事制裁として当該結社は無効と宣言され、当該犯罪を犯した個人は、1万ディラム以下の罰金を課される。
差別の違法化は、人種差別だけではなく、すべての現象の差別にあてはまり、差別、差別の教唆、または人種的優越性の考えに基づく政治組織の設立にもあてはまる。差別に基づく政党は禁止される。2007年の政党法第4条によると、特定の宗教、言語、人種または地域に基づく政党は、違法とされる。
*
イラン報告書(CERD/C/IRN/20. 7 November 2008)
先週審査のあったイラン報告書を見ると、CERD第4条関連の部分には、前回報告書参照、としか書いてありません。前回のCERD/C/431/Add.6を見ないとわかりません。
*
エルサルバドル報告書(CERD/C/SLV/14-15. 2 November 2009)
刑法292条は次のように規定する。「公務員、公的従業員、公共機関従業員または公の当局は、国籍、人種、ジェンダー、宗教またはその他の人の属性に基づいて、人に、憲法に掲げられた個人の権利を否定した場合、1年以上3年以下の刑事施設収容、および同じ期間、その地位または職務の剥奪・停止の責任を問われる」。
刑法246条は次のように規定する。「職場における、ジェンダー、妊娠、出身、市民的身分、人種、社会的地位、身体条件、宗教または政治的信条、労働組合の構成員であること、または構成員でないこと、労働協定を支持していること、または支持していないこと、または企業におけるその他の労働者の関係に基づいて、重大な差別が生じたことに責任のある者、および差止め命令又は行政制裁措置に従って法の下の平等を回復させなかった者、生じた財政的損害を補償しなかった者は、6月以上2年以下の刑事施設収容を課される」。
エルサルバドルは、優越性の主張や人種憎悪の行為や考えを処罰し、人種、または異なる皮膚の色や民族的出身の人の集団に対する暴力行為または暴力の教唆を処罰している。
エルサルバドルでは、人種差別のための組織や活動、人種差別を煽動する組織や活動は存在し得ない(団体規制について、具体的情報はない)。
*
L'ESPRIT DE GENEVE, Philippe Villard, Domaine Villard & Fils, 2008. そしてRoquefort1863. ジュネーヴのワイン業者15社が集まり、競って、それぞれの自慢の品を同じ「ジュネーヴの精神」というラベルのワインとして送り出しています。日本酒には高知の「宇宙酒」がありますが、企画趣旨がちがいます。「東京の精神」とは、とか考えると、頭を抱えてしまいます。とんでもない人種差別主義者が知事ですから。かといって、「大阪の精神」「千葉の精神」も情けないし。となると、農林水産大臣にけんかを売った「宮崎の精神」か(笑)。パフォーマンスはなくても真面目にしっかりやってる知事もいるとは思うけど。
*
2)湖畔の読書
*
田中伸尚『大逆事件--死と生の群像』(岩波書店、2010年)
名著です。大逆事件を問い、大逆事件100年の<現在>を問う、ベテラン・ノンフィクションライターの長年の取材に基づく、読み応え十分の快作です。さすが田中さん。大逆事件そのものについてはほとんど知っていることですが、「大逆事件その後」(ただし単なる「その後」ではなく、今に続く事件という意味)の追跡調査は見事です。東京、岡山、熊野・新宮、熊本、中村・四万十・・・・過去への旅が<現在>を射抜きます。「過去の思想弾圧事件」ととらえるだけでは不十分とする著者は、それとは明言していませんが、大逆事件とその後を書くことによって、近現代日本史を鮮やかに描いているのです。一般的な言い方をすれば、「近代の裏面史」となりますが、単なる裏面ではなく、表面と密接不可分の日本民衆史です。関係者の残した記録、弁護士の残した記録、歴史家の先行研究、各地のそれぞれの研究者の研究、遺族たちのその後、遺族たちが保管してきた資料(写真、手紙、遺稿など)、関係者の地元の当時の反応と現在、葬儀も許されず墓の建立も制約された関係者の墓や追悼碑。実にていねいに調べ、確かな手触りを得て、読者にその手触りを伝えようとする熱意と文章と。それゆえ、新資料の発見も。100年という時の経過の長さと短さ、明治の大逆事件の遠さと近さ、100年を生きた人々の重さとよどみと悲しみ。どのページも疎かには読めません。
「明治『大逆事件』は、世紀の舞台は回っても幕は下りず、未決のまま生きてあり続ける。」
本文末尾の、僅か1行に集約され、こめられた著者の思いの、深さと、遥かな広がり。暗澹たる過去を見据えながら「次」へと向けられた眼差し。ここに<希望>の手がかりが、あります。読むべし。
*
誤植。「日本社会党大会大会」(30頁7~8行)、「~に謀議」(58頁4行)、「言わないが言葉が挿入される」(66頁3行)、「が残されてある」(活字のポイントが違う、180頁4行)、「訪ねたの六月六日」(212頁12行)、「歴史をの」(337頁5行)、「遺族の一人そだった」(345頁7行)。以上は本文だけで気がついたものです。本書は引用が非常に多く、引用文については判断できません。たぶんまだまだある。日本を代表する出版社ですが、近年、誤植奮発大安売り。2刷の時にはちゃんと校正してほしいものです。誤植は本当にやっかいで、著者自身がいくらていねいにやっても、根絶は難しいものです。複数の視線が必要です。
*
*
18日のフライトで帰国します。
*
機中の読書は、パウル・クレー・センター『クレー/ピカソ展カタログ』、上野俊哉『思想家の自伝を読む』(平凡社新書、2010年)、谷川雁・吉本隆明・埴谷雄高・森本和夫・梅本克己・黒田寛一『民主主義の神話--安保闘争の思想的総括』(現代思潮社、2010年)の予定。後者は、50年前の1960年、安保闘争に関して出された有名な本ですが、今年6月30日付で再出版されています。新宿紀伊国屋に積んでありました。30年位前に、つまり安保闘争20年目の頃に図書館でざっと走り読みしただけなので、50年目にはきちんと読んでおこうと思います。ついでに、目次を見ると、上野著『思想家の自伝を読む』の最後は、エドワード・サイードと並んで谷川雁の自伝を取り上げているようです。
*
すでにMLに情報が流れていますが、22日は韓国併合条約100周年当日(押付け条約の「締結日」)であり、豊島公会堂で集会が予定されています。また、29日(押付け条約の「発効日」)にはソウル・成均館大学で同様の集会が予定されています。どちらも参加予定です。