1)平和への権利専門家協議会
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8月7日、センター・ジョン・ノックスの会議室で「人民の平和に関する専門家協議会」(主催:スペイン国際人権法協会など)を開催しました。主催はスペイン国際人権法協会、世界キリスト教協議会、平和への人権国際監視団。
参加は、下記の発言者以外に、人権理事会諮問委員会のメンバーからベンゴア委員、ユセイノフ委員、スペイン国際人権法協会のダヴィド・フェルナンデス・プヤナ、世界キリスト教協議会のクリスティナ・パパゾグロ、笹本潤、塩川頼男、私(日本の3人は事務局担当)。
冒頭に、国連人権理事会諮問委員会の平和への権利作業部会長のモナ・ズルフィカー(エジプト)、スペイン国際人権法協会会長のカルロス・ビヤン・デュランがあいさつ。
第1報告は、ウオルフガング・ハインツ(ドイツ)「平和への人権宣言草案における権利の担い手と義務の担い手」。ハインツは平和への権利作業部会の報告書担当責任者で、4月の「進展報告書」を執筆、今回その訂正版「進展報告書」に、「人民の平和への権利国連宣言・草案」を提案しています。NGOレベルでルアルカ宣言、ビルバオ宣言、バルセロナ、宣言、サンティアゴ宣言などが続いていましたが、国連公式機関では初めての宣言案をまとめたのがハインツ委員です。
第2報告は、アルフレド・デ・ザヤス(アメリカ)「人民の平和への権利宣言草案への修正意見」。ザヤスは元国連人権機関の専門家で、現在はジュネーヴ外交大学教授。人権高等弁務官事務所が2009年に開催した平和への権利ワークショップのパネラーであり、ビルバオ宣言の起草にもかかわったそうです。私たちが本年4月に出版した『平和への権利を世界に』に昨年8月に諮問委員会で発言している時の写真を掲載しています。今回、その本を献呈しました。
第3報告は、カルロス・ビヤン・デュラン「義務と履行」。資料として、デュラン教授の最新論文「平和への人権--スペイン市民社会による立法イニシアティヴ」(スペイン国際法年報に掲載予定)が配布されました。ほとんど知っている内容ですが、やはり運動の仕掛け人本人が書いた現段階でのまとめの論文ですから、私がちょこちょこと日本に紹介してきたものとは、少し違います。今後はデュラン論文を使うことにします。デュラン教授とプヤナ氏を、ゴールデンウィークに日本にお招きする予定で準備していたのですが、福島原発事故のためキャンセルになりました。改めて12月訪日の相談を始めたところです。
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2)国連欧州本部正門前のイラン人行動
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正門前の平和広場脇でイラン人が連日座り込みをしています。本年4月にイラクにあるアシュラフ難民キャンプでイラク軍がイラン人を虐殺した事件の調査を求めています。国連人権高等弁務官による監視体制を要求しています。座り込みは8月5日にみたときに105日目と書いてありました。事件の内容がよくわかりませんでしたが、イランの反体制派がイラクに逃げて難民となっているのを、イラク軍が追い出そうとしているようです。国連レベルでは、イランもイラクも口をつぐんでいるので、要請行動を続けているとのこと。平和広場の噴水のところにはイラン国旗がずらりと並んでいます。
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3)内橋克人編『大震災のなかで--私たちは何をすべきか』(岩波新書、2011年)
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内橋克人、大江健三郎、テッサ・モーリス=スズキ、柄谷行人、中井久夫、竹内啓、池内了をはじめとする33人(1本だけはセカンドハーベスト・ジャパンという団体名)の寄稿。6月21日付で出ているので、収録情報は4~5月段階のもの。内橋さんの「序のことば」から始まって、いずれも優れた文章が続きます。執筆者には、長崎大学熱帯医学研究所教授、NPO法人ピースウィンズ・ジャパン代表理事、生活とリハビリ研究所代表、日本赤十字看護大学客員教授、ジュピターテレコム放送・制作部長、神宮寺住職、自殺対策支援センターライフリンク代表、福島大学行政政策学類准教授、桜の聖母短期大学准教授など多方面の人物が選ばれて、地震、津波、原発の三重苦に立ち向かってきた実践と論理と思いがさまざまに語られています。次の一文には驚きました。
「国策でも、いや国策だからこそ信じたりしてはいけないのだ。ほんとうに必要なものなら国家がやらなくても民間がやる。反対する者を国家権力を使って”非国民”に仕立ててまでやるのが国策である。だから侵略も原発もちゃんと疑い反対し、うまくいかなかったときの対策を考えておかねばならない。」(三好春樹)
実に至言です。
読み応えのある本書ですが、一つだけ疑問を示しておくと、執筆者の中には、現政権の何とか委員会の委員やら顧問やらになっている人たちが含まれています。多額の税金を受け取って活動している人たちがいます。が、その立場での発言にはなっていません。野党時代の立場での発言に見えます。「おいおい、お前はいま権力側だろ、なんとかしろよ」と言いたくなります(個人ですぐになんとかできるような規模の災害ではありませんが)。
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4)中野京子『印象派で「近代」を読む--光のモネから、ゴッホの闇へ』(NHK出版新書、2011年)
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『怖い絵』シリーズの著者による印象派入門です。書店で手に取ったときに、サブタイトルに、おやっ、と思いました。「光のモネから、ゴッホの闇へ」って、なんか違うという印象でした。それ以前の歴史画に比べると、印象派全体が「光」です。マネも、ルノワールモ、シスレーも、スーラも。ゴッホの「星月夜」なんて、夜なのに光一杯。それで気になって買ってしまいました。
本書は、19世紀後半のパリを舞台に登場した印象派が、単に絵画運動であっただけではなく、都市化、近代化していくパリの光と影を描いた絵画として理解しています。決して社会派ではなかったが、むしろそれがゆえに、当時の下層階層の人々の暮らし、新しい工場や鉄道という現象、舞踏会や休日のお出かけなども含めて、人々の暮らしと意識が反映されているということです。なるほど、印象派で「近代」を読む、という問題意識が実に鮮明にあらわれた著作です。新書にもかかわらず、印象派の代表作を、それぞれの画家ごとに1~2枚選んで、カラー図版で見せてくれます。掲載作品の選択だけでも大変な苦労があるでしょう。
出立当時、パリの画壇に評価されなかった印象派ですが(というか評価されなかったが故に印象派ができた)、アメリカと日本では大変な人気です。その理由も示されていて、なるほど。歴史のない新しい国アメリカが印象派を持ち上げたのはよくわかります。他方、西欧文化の教養のない日本が印象派に飛びついたのもよくわかります。著者によると、それ以前の歴史画、神話画、宗教画を理解するためにはそれなりの教養、基礎知識が必要です。子ども時代にそういう強要を与えられない日本人には、難しすぎます。他方、現代絵画の抽象性と個別性はゆきつくところまでゆきついてしまいました。その点、描かれた内容に歴史も思想もない印象派は、何も考えずに見て楽しむことができる。だから日本で超人気、というわけです。実もふたもない話ですが。でも、その印象派を通じてこそ「近代」を見ることができるというのが主題。
印象派に最初に注目したのは作家のエミール・ゾラでした。ゾラが、冤罪ドレフュス事件で社会的不正義と命懸けで闘っていたとき、印象派の画家たちはというと、ユダヤ人だったピサロはゾラに肩入れ、そして政治には関心のなかったモネも感動の手紙をゾラに送ったそうです。他方、愛国心に燃えるルノワール、カトリックのセザンヌ、そしてドガは、いずれも「反ユダヤ主義」だったそうです。これは知りませんでした
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5)鈴木邦男『新・言論の覚悟』(創出版、2011年)
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雑誌『マスコミ市民』の連載で取り上げるために本書を持ってきました。近年、著者は矢継ぎ早に本を出しています。大半を読んでいますが、中でも『愛国の昭和』(講談社)は名著です。この本をピョンヤンの大同江河岸で読んだので、懐かしい(笑)。本書は雑誌『創』の連載「言論の覚悟」をまとめた2冊目です。『マスコミ市民』の原稿の最後に次のように書きました。
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鈴木には、一度、講師依頼を引き受けてもらったことがある。二〇〇八年夏、八王子で「左右激突対談」と称して内田雅敏(弁護士)との対談をお願いした。左右両翼で有名な二人だが、この時が初めてだったという。ちょうど映画『靖国』上映問題が騒然としていた時期だ。鈴木は本書と同様に、上映妨害に反対し、右翼もこの映画を見るべきだ、その上で中味を徹底批判すればいい、と述べていた。そして、言論の自由がきちんと守られていない、議論の場がしっかり開かれていないから、上映妨害といった活動になる。右翼であろうと左翼であろうと、もっとしっかりした言論の場を提供・確保するべきだし、言論で闘うべきだと主張する。
責任感抜きに言論の自由ばかりが語られる時代に、言論の責任を問い、言論の覚悟を語る鈴木のまっとうな意見が重みを増す。右翼でも左翼でもなく、個人として屹立した言論人の凄みを本書は見せてくれる。単なる正義や愛国ではない。むしろ、逡巡し、問題から逃れようとする自分に向き合うことが肝心だ。最後に鈴木はこう書いている。
「『言論の覚悟』とは、疚しさを背負って生きる覚悟でもある。」
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6)平和への権利専門家協議会プログラム
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SPANISH SOCIETY FOR INTERNATIONAL HUMAN RIGHTS LAW (SSIHRL),
WORLD COUNCIL OF CHURCHES (WCC)
AND
INTERNATIONAL OBSERVATORY ON THE HUMAN RIGHT TO PEACE (IOHRP)
Expert Consultation of members of the Advisory Committee with civil
society experts on the human right to peace
Room 6
15:30 - 18:30 h.
Program of the Consultation
Introduction
The SSIHRL, WCC and the IOHRP are inviting all members of HR Council Advisory Committee -in particular its six members belonging to the drafting group on the right of peoples to peace-, and CSO experts to the Expert Consultation to be held on 7
August 2011 at the
Selected members of the OHCHR are invited to attend the Consultation as observers.
The organizers of the Expert Consultation will ensure the Secretariat of themeeting and will take care of all related logistics, such as preparing the program, sending out the invitations, keeping records of the discussions, distribution of background documentation to the participants, ensuring the registration of participants, keeping the list of speakers, drafting the meeting report and generally performing any other duty entrusted to the Secretariat.
The Expert Consultation's working language will be English.The Expert Consultation will last three hours, from 15:30 to 18:30. The program will also include an opening and a closing session.
The Expert Consultation will be chaired by the chairperson of the drafting group on the Declaration on the right of peoples to peace. She will be assisted by the Secretariat.
Three additional speakers will be selected to present their working papers to facilitate the discussion among participants.
The draft report of the Expert Consultation shall be prepared and distributed by the Secretariat to the participants. The final report will be made public.
Program of work
15:30 - 15:50: Opening session.
•Opening statement by the Chairperson-Rapporteur Dr. Mona Zulficar (
Chairperson of the AC drafting group on the Declaration on the right of peoples to peace.
•Opening statement on behalf of the organizers: Mr. Carlos Villán Durán (
President of the Spanish Society for International Human Rights Law.
15:50 - 16:05: First session: The right-holders and duty-holders of the draftDeclaration on the human right to peace.
•Speaker: Dr. Wolfgang S. Heinz (Germany), Rapporteur of the AC drafting group on the Declaration on the right of peoples to peace.
16:05 - 16:35: Debate.
16:35 - 16:50: Second session: Amendments to the draft Declaration on the right of peoples to peace.
Speaker: Prof. Dr. Alfred de Zayas (United States of America), Professor of Public International Law at the Geneva School of Diplomacy, expert invited at the OHCHR workshop on the right of peoples to peace (15-16 December 2009) and member of the
Technical Drafting Committee of experts of the Bilbao Declaration on the Human Right to Peace (24 February 2010).
16:50- 17:20: Debate.
17:20 - 17:35: Third session: Obligations and implementation.
•Speaker: Mr. Carlos Villán Durán (Spain), President of the Spanish Society for International Human Rights Law.
17:35 - 18:05: Debate.
18:05 - 18:30 Closing session.
•Concluding remarks on behalf of the organizers: Mr. Carlos Villán Durán (Spain),
President of the Spanish Society for International Human Rights Law.
•Final remarks by the Chairperson-Rapporteur: Dr. Mona Zulficar (Egypt),
Chairperson of the AC drafting group on the Declaration on the right of peoples to peace.
Experts biographies
Chairperson- Rapporteur
Dr. Mona Zulficar is President of the Advisory Committee’s drafting group on the promotion of the right of peoples to peace. She has been an active advocate for human rights and women’s rights in Egypt and internationally. Furthermore, she has played an instrumental role in advocating the issue of a new liberal NGO law since the early 1990’s and spearheaded the NGO campaign and initiated negotiations with the Government, which physically started in her office in 1998 and which culminated in the issue of the new NGO Law passed in 1999. Since the late 1990’s, Mona Zulficar is advocating the establishment of a national council
for human rights based on the Paris Principles. In 2002, she convened meetings with a large group of human rights NGOs and built consensus over demands by the NGO community to establish the council.
Speakers
Dr. Wolfgang S. Heinz is senior researcher and policy adviser at the German Institute for Human Rights responsible for international fight against terrorism, human rights and the United Nations. He is a senior lecturer in political science at the Free
University of Berlin. since 2005 he is member of the European Committee on the Prevention of Torture. He also serves as rapporteur of the Advisory Committee’s drafting group on the declaration on the right of peoples to peace.
Prof. Carlos Villán Durán is a free-lance professor of international human rights law; co-Director of the Master on International Human Rights Protection at the University of Alcala (Madrid). Invited professor (2011) at the Human Rights Academy of
the American University (Washington) and the International Institute of Human Rights (Strasbourg). Former staff member of the Office of the UN High Commissioner for Human Rights (1982-2005). He is founder and President of the Spanish Society for
International Human Rights Law and author of some 136 publications on IHRL, among them three books and 12 articles on the human right to peace.
Prof. Dr. Alfred de Zayas is an American lawyer, writer, historian, and expert on international human rights law. He was a senior staff member of the Office of the UN High Commissioner for Human Rights, where he served as Secretary of the Human Rights
Committee and Chief of the Petitions Team. He is currently professor of international law at the Geneva School of Diplomacy and International Relations. He practised law in New York as an associate in the law firm Simpson Thacher & Bartlett from
1970 to 1974 specializing on corporate law, and is the author of numerous books and pieces on international human rights law.
Secretariat
Mr. David Fernández Puyana is bachelor in Philosophy and Education Science by the University of Barcelona (Spain) and Graduated in Law by School of Law University of Pompeu Fabra (Barcelona); Master in International Studies by the
University of Pompeu Fabra (Barcelona); Master in International Human Rights Protection by the University of
Alcala (Madrid) and holder of the LLM in International Human Rights Law by theUniversity of Essex (Colchester, UK). He was Director of the SSIHRL World Campaign on the Human Right to Peace (2007-2010). He is the representative of
SSIHRL and the International Observatory on the Human Right to Peace in Geneva.
Mr. Jun Sasamoto, Attorney at law in Japan, Secretary general of the Japan Lawyers International Solidarity Association and member of the Steering Committee of the World Conference on Article 9 held in Tokyo in 2008. He published "Peace
Constitutional Law in the world" and is co-editor of the book "Human Right to Peace: Making the UN Declaration", Kamogawa Publisher, Tokyo 2011 (in Japanese)
Mr. Yorio Shiokawa, Director of the Japan Lawyers International Solidarity Association, member of International Association of Democratic Lawyers. He was a plaintiff of the case on discrimination based on the right of freedom of opinion by the
Chubu Electric Company. Since 1992 he is attending sessions of the UN human rights bodies, mainly the
former Commission on Human Rights and its Sub-Commission, as well as the Human Rights Council to denounce the case.
Prof. Akira Maeda, Professor of International Criminal Law at the Tokyo Zokei University, Director of JDLA. He has published "27 Countries without Armies in the world", "Crimes against Humanity" and "Peoples Power for Peace"; he is co-editor of the
book "Human Right to Peace: Making the UN Declaration", Kamogawa Publisher, Tokyo 2011 (in Japanese)