Friday, August 12, 2011

グランサコネ通信-110813

1)平和への権利決議





人権理事会諮問委員会は、9日に食糧の権利、10日に伝統的価値と人権、11日に新しい議題候補などの審議を続けました。いまの諮問委員会は、人権理事会から諮問された事項を審議します。以前の人権小委員会は自ら議題を設定できましたが、諮問委員会はそれができません。議題の数もかぎられています。年間に1月と8月にそれぞれ1週間(5日間)の審議です。人種差別に関連する議題はありません。以前だと、人権小委員会で「従軍慰安婦」問題や、在日朝鮮人に対する差別問題を取り上げて発言していたのですが、今はそれができません。11日に、新しい議題候補の提案がありましたが、候補を人権理事会に提案して、理事会の了解があればそれを審議していくことになります。ハインツ委員は大衆デモと人権、カルタシュキン委員は非市民の権利、ボワソン委員は腐敗との闘い、ワルザジ委員はインターネット、ソーシャルネットと人権、鄭委員は移行期の正義transitional justice、ズルフィカー委員は民主主義と青年を提案していました。





12日、諮問委員会は決議の採択をしました。



決議1 人類の伝統的価値



決議2 人権と国際連帯



決議3 人民の平和への権利の促進



決議4 人権領域における国際協力



決議5 食糧の権利





決議3(A/HRC/AC/7/L..3)は、ハインツ委員が提出し、趣旨説明をしました。一部の字句訂正のみで、コンセンサス(全員一致)で採択されました。下記に全文。





人民の平和への権利の促進に関する作業部会





人権理事会諮問委員会は、



2010年6月17日の人権理事会決議14/3において、人権理事会が諮問委員会に人民の平和への権利に関する宣言草案を起草するよう要請したことを想起し、



諮問委員会が第5会期において、鄭鎮星、ミゲル・デスコト・ブロクマン、ヴォルフガング・シュテファン・ハインツ及びモナ・ズルフィカーを起草部会メンバーとし、ズルフィカーを議長、ハインツを報告書に指名し、諮問委員会第6会期に坂元茂樹とラティフ・ヒュセイノフが起草部会に加わったことをも想起し、



2011年6月17日の人権理事会決議17/16が、諮問委員会に、国連加盟国、市民社会、学者及び全ての関係者と協議して、人権理事会第20会期に、人民の平和への権利に関する宣言草案を提出し、それに関する進展を報告するよう要請したことを想起し、



1.起草部会が諮問委員会第7会期に提出した第二進展報告書(A/HRC/AC/7/3)を考慮し、



2.2011年4月に提示された質問への回答を歓迎し、



3.諮問委員会第7会期における討論や発言を正当に考慮し、



4.市民社会が、国連加盟国や学者専門家とともに、諮問委員会の進展報告に関する議論を組織したイニシアティヴを歓迎し、



5.進行中の作業に様々な関係者が貢献するよう促し、



6.起草部会に、人民の平和への権利に関する宣言草案を、諮問委員会第7会期におけるコメントや討論に照らして訂正して提出するよう要請する。





以上が採択された決議ですが、若干の字句訂正があると思います。



なお、補注を付しておきます。



1)人権理事会第20会期とありますが、これは2012年6月の予定です。



2)2.に「2011年4月」とありますが、配布文書には「3月」となっていたのを、ハインツ委員が口頭で訂正しました。



3)4.に「市民社会」とありますが、これは私たちのことです。スペイン国際人権法協会のプヤナ氏と二人で握手。



4)6.に「宣言草案を・・・提出するよう要請する」とありますが、時限が明示されていません。当然、2012年2月に開催予定の諮問委員会第8会期に提出するという意味です。字句訂正の際に補われるかもしれません。





この決議はほぼ間違いなく全員一致で採択されると予測できたので緊張感はありませんでしたが、それでも採択の瞬間はなんともほっとしました。肩の荷が下りたというのか、本当によかった。



というわけで、お疲れ様の、Domaines des Virets, Pinot Noir de Saint-Leonard A.O.C. Valais,2009. パパイヤ・サラダ、青カビRoquefort、カシューナッツ。





今後の私たちのスケジュール



2011年12月上旬:スペイン国際人権法協会メンバーの日本ツアー



2012年2月下旬:人権理事会諮問委員会第8会期(ハインツ第3報告書)



2012年3月:人権理事会第19会期



2012年6月:人権理事会第20会期(人民の平和への権利国連宣言をめぐる本格討論)





2)「オーランド諸島展」





国連欧州本部図書館で「オーランド諸島の解決--国際紛争をうまく解決した先例」という展示が行われています。主催は、フィンランド外務省、フィンランド国立公文書館、オーランド政府です。6月21日から12月31日まで。ということは大晦日まで図書館があいている!



スウェーデンとフィンランドの間、バルト海にあるアーキペラーゴのオーランド諸島は、スウェーデン系住民が住んでいますが、フィンランド領です。両国間の争いに加えて、ボスニア湾の入口に当たり、バルト海・ボスニア湾の海上交通を巡る要衝の地であるため、ロシア、イギリス、フランス、バルト3国も含めて、国際的に問題の場所でした。



この紛争を解決したのは、1921年6月の国際連盟決定で、オーランドはフィンランド領とするが、非軍事化と中立化を課すことを条約として取り結ぶことになりました。オーランド島政府は独特の自治権を獲得しました。自治と非武装と中立は今でもオーランド・アイデンティティとされています。その紛争の写真や、国際連盟での協議文書などが展示されています。今年は90周年です。



ちなみに、国際連盟の協議の様子を描いた絵画が、オーランド政府の建物に飾ってありましたが、レプリカでした。本物は国連欧州本部にあり、昨年、ようやく見つけましたが、飾ってあるのは実はやはりレプリカでした。窓の向こうにレマン湖、サンピエール寺院、サレーブ山、モンブランが描かれていて、室内では机に地図を広げて検討中の絵です。立って趣旨説明をしているのが国際連盟事務次長の新渡戸稲造だろうと思います(似てないか)。



オーランド政府とオーランド平和研究所は、長年にわたって、紛争の平和的解決のためのオーランド・モデルと言って宣伝しています。ちなみに、私の母校の某教授がある本の中で、「オーランドはモデルではない。モデルという思考は陳腐である。オーランドの方式を手掛かりに発展的に解決策を探るのだ」という、それこそ「陳腐」なことを書いています。しかし、オーランド政府もフィンランド政府も「オーランド・モデル」を盛んにお勧めしています。





オーランドについて



























4)人種差別撤廃委員会





人種差別撤廃委員会第79会期は、8月8日にパレ・ウィルソン(人権高等弁務官事務所ビル)で始まりました。8~9日は非公開でしたが、10日午後から政府提出報告書の審査が始まり、公開されました。10日はパラグアイ報告書第1~3回の審査。冒頭の政府によるプレゼンテーションで、「委員の皆さんに感謝します。また、傍聴しているNGO、そして我が国からの先住民代表に感謝します」と述べました。傍聴席では、みんな振り向いて探しましたが、その時、傍聴席にいた10人は、私以外は全員明らかに西欧白人。みな、私の方を見て首をひねっていました(笑)。5分ほどして、一見してそれとおぼしき先住民女性が入ってきてNGO席についたので、みんな納得。ここで大事なことは、パラグアイ政府が、自国から来た特定のNGOに対して、国連条約会議の公式の場で謝辞を述べたことです。どこかの政府にも学んで欲しいものです。





パラグアイ政府報告書--第1回報告書なので、形式的に必要な情報を一応並べた印象で、立ち入った内容ではありません。



国内法は人種差別に言及していなくて、犯罪化もしていません。NGOが人種差別禁止法の制定を提唱していますが、この数年間、議会でペンディングになっているということです。この法案は、差別を犯罪とし、差別の煽動を不法行為としています。



憲法はパラグアイは多文化主義であると明示しています。先住民族の特別の権利を認めています。憲法自体が拷問とジェノサイドを禁止しています。広告自主規制法は、差別と嘲笑の予防のためのルールを定めています。



刑法233条は、「人民の調和的共存を妨げるような方法で、彼又は彼女の信念を根拠にして、公に、集会で、または第14条3項に定める出版において、他人を侮辱した者は、3年以下の刑事施設収容又は罰金に処する」としています。14条3項は、「出版」とは、文書出版、オーディオ・ビデオ、それらの再生、及びその他の記録メディアとしています。



1981年の法律で先住民国内機関が設立され、法人格を持った自治機関となっています。2006年8月の法律によってオンブズマン事務所が設立され、憲法及びダーバン宣言・行動計画などのモニターをしています。先住民族がオンブズマン事務所に報告した事件は、2007年26件、2008年2件、2009年8件、2010年6件です。



デグート委員(フランス)が担当で、さらにカリザイ委員(グアテマラ)、マルティネス委員(コロンビア)、リングレン委員(ブラジル)が暖かな口調で、かなり厳しく追及していました。



別の資料によると、人口は516万、うち先住民族は8万7千。グアラニ、マスコイ、マタコ-マタグアヨ、ザムコの4民族。なお、報告書に2行だけ「自発的に孤立して居住しているアヨレオ共同体Ayoreoは、人口調査が不可能なので、統計に含まれていない」とあるのが気になりますが、委員は誰も質問しませんでした。





モルディヴ政府報告書--驚いたことに第5~12回報告です。前回が1992年で、それ以後、報告書を提出していなかったのです。



報告書はなんと3頁です(パラグアイは不十分ながら21頁、次のケニアは51頁、その次のグルジアは27頁、2010年の日本政府報告書は約80頁)。



(長ければよいというわけではありません。80頁あっても実質は30頁にも満たない報告書を作る水増しテクニックだけは上手な官僚も世の中にはいますから。)



報告したのは検事総長でした。結構若い。モルディヴは最近、長期政権を終わらせ、はじめての民主的選挙で民主化したばかりであること、それゆえ長い間報告書を出していなかったが、今回提出したこと、十分な統計がないことを弁解していました。



担当のファン委員(中国)は、3ページの政府報告書では足りないため、その他の資料を渉猟しての質問でした。NGOからの情報提供もほとんどなかったようです。



ファン委員、アフトノモフ委員(ロシア)、サイード委員(ニジェール)、クイックリー委員(アイルランド)、トンベリ委員(イギリス)、ピーター委員(タンザニア)、どの委員も取り上げたのが「100%イスラム」です。モルディヴは国民100%がイスラム教という世界でもまれな国です。オマーンもそうだという説がありますが、違うという説も。それでも、世界有数のさんご礁リゾートで、観光業が盛んなため観光業界にはインド、バングラデシュその他から移住労働者が多数来ています。人口30万なのに、移住労働者は正規と不正規を合わせると数万を越えます。日本で言えば1000万以上の移住労働者!



検事総長の口頭説明では、前政権はモルディヴは同質の国民、同じ民族、宗教、言語の国で人種差別は存在しないとしていたが、現政権は移住労働者が増加しており、社会に亀裂が生まれてきていて、人種差別の防止が必要であることを認めることになったといいます。2008年の憲法17条(a)は、人種、国民的出身、皮膚の色、性別、年齢、精神又は身体障害、政治的その他の意見、財産、出生その他の地位、生まれた島(出生地)によって差別されないとしています。



人種差別禁止法はありませんが、法案が提出されていて2012年にはできる見込みです。2008年の雇用法は差別を禁じています。



ヘイト・クライム法はありません。



パリ原則に従った国内人権委員会を設立しています。拷問禁止条約選択議定書をアジアで初めて批准し、国内拷問予防機関をアジアで初めて設置しました。



観光業が中心のため人身売買も起きていて、対策を講じ始め、2011年2月に人身売買対策行動計画を策定しました。



委員から厳しく追及されたのは、もちろん「100%イスラム」です。憲法9条でイスラムでない者は市民権を得ることができません。憲法10条はイスラムのうちスンニ派と定めているようです。憲法によると、元首、大臣、議員、裁判官にはスンニ派しかなれないと明示されています。市民権を得られないのですから当然といえば当然です。



最後に、ダー委員(ブルキナファソ)が、ほんの30秒、一言だけ質問しました。イスラムでない外国人との結婚はどう扱われるのか。





4)写真展「尊厳--変容する民族」





国連欧州本部で開催されている写真展です。ダナ・グルックシュタインという女性写真家の展示です。知らない名前ですが、分厚い写真集も出版していますし、アメリカ政府後援で国連で写真展を開いているのですから有名写真家なのでしょう。ナミビア、ボツワナ、ケニア、ペルー、チアパス、ブータン、フィジーなどの先住民族などの写真です。子どもたち、女たち、ダンス、狩の正装などが、現代文明の影響を受けて変容している様を印象的に提示しています。写真はとてもよい出来だと思います。ただ、ちょっとありきたり、というのが正直なところです。ナミビア、ボツワナ・・・と訪問地の選択があまりにもという感じですし、子ども、女性、ダンスも「お約束」、ですね。今やそういう時代なのだ、ということかもしれません。





5)酒類総合研究所『うまい酒の科学』(サイエンス・アイ新書、2007年)





全国新酒鑑評会を主催してきた独立行政法人・酒類総合研究所によるお酒の科学の入門書です。10年以上前に随分この手の本を読み漁ったので、たいていは知っていることでしたが、新書1冊で読めると便利です。忘れかけていたことも多いし。お酒とは何か、お酒の基礎知識、お酒の情報箱、お酒の楽しみ方、の4部構成。お酒を、清酒、焼酎、ワイン、ビール、ウイスキーとブランデー、リキュール、スピリッツ、「その他の醸造酒、合成清酒、みりん、粉末酒、雑酒」の8つに分類しています。もちろん、これは科学による分類ではなく、日本独自の酒税法による分類がもとです。税金の取り方に科学を従属させています(笑)。それで構いませんが。製造過程や、こうじ菌などの写真もたくさんあって楽しめる本です。清酒、焼酎、ワインなどの箇所では、特定銘柄の名前は出てきませんし、写真にも特定の固有名詞が出てきません。ちゃんと配慮しています。ところが、どなん、Arak、出雲の地伝酒は特定商品の写真を使っています。まあ、これはライバルがほとんどなくて、特定商品を出しても構わないからでしょう。