藤田祐幸『もう原発にはだまされない――放射能汚染国家・日本』(青志社、2011年)
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著者にはイラク国際戦犯民衆法廷で証言していただきました。慶応義塾大学を退職して、いまは長崎にお住まいです。スリーマイル事故当時から30年間、原発の危険性を訴えてきた市民科学者です。1983年、エントロピー学会設立に参加、1987年、放射能汚染食品測定室設立、1990年から1993年、チェルノブイリ地域の汚染調査。1999年以後、ユーゴスラビア・コソボで調査。2003年、イラクでウラン弾の調査をしてきました。目次に明らかなように原発問題のおおよそをだいたいカバーしていますが、特に原発労働者に対する差別、使い捨てを厳しく批判しています。
代替エネルギーについては、風力や地熱ではなく、当面は、コンバインドサイクル発電、コージェネレーションシステムをすすめていますが、何よりも、熱を電力に転換しない生活をすることが大事としています。
著者の主著:『エントロピー』(現代書館)『ポストチェルノブイリを生きるために』(御茶ノ水書房)『知られざる原発被曝労働』(岩波ブックレット)『脱原発のエネルギー計画』(高文研)
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脱原発を訴え続けた市民哲学者が伝える「原発の実態」「被曝限度のウソ」「実現可能なエネルギー」
藤田氏らはこの30年間、政府に、電力会社に、そして東大や京大の御用学者たちに向かってさまざまな問題を指摘し、絶えず問い詰めるという闘いの歴史をしてきました。しかし、「何が起こっても安全だ」と、彼らはずっと言い続けてきました。今回の事故の対応を見て、藤田氏は言います。
「もしかしたらあの人たちは人に向かって「安全だ」と言い続けているうちに、自分でも安全だと錯覚してしまったのではないか。自らの発した言葉に呪縛されてしまったのではないかと思えてくるのです」。
しかし、「原発の安全」が間違いだったことは、今回の事故で誰の目にも明らかになりました。
震災から、約半年が経ちました。連日被災地の様子が報道され、テレビや雑誌で多くの特番や特集が組まれ、関連書籍も多数出版されています。たくさんの情報が氾濫するなかで、今、私たちがしなければならないことは、認識を誤らず未来へとつなぐこと、そして、この異常な状態に決して自分を慣れさせないことであるはずです。
放射能汚染の実態から目をそむけずに行動するために、「原発の実態」「被曝限度のウソ」「実現可能なエネルギー」の本当のことを、知っていただきたいと思います。
<目次>
第1章 今、福島第一原発で何が起きているのか
「食い止められなかった」という無力感/臨界事故と炉心融解事故の違い/崩壊した「五重の壁」/国家をとるか、人命をとるかが問われている/広島、長崎の尊い犠牲が生かされず/放射能で大地が穢された現実/史上初、大規模海洋汚染の懸念
第2章 なぜ、福島の悲劇を食い止められなかったのか
原子力問題との出会い/スリーマイル島事故の「幸運」/過酷を極めたチェルノブイリの現場/チェルノブイリの汚染地図/チェルノブイリで目にした無人の荒野/原子力を推進した政治家とマスコミ/明らかになった「原子力のコスト」と「莫大な保証額」/大地動乱の時代/地震学を無視した原発建設/計画の白紙、そして順次停止を/まだ終わらない警告/「安全」という言葉の呪縛
第3章 放射能は子どもの未来を奪うのか
放射能雲は福島中通りを流れた/広大な地域が「放射線管理区域」に入ってしまった/国際放射線防護委員会勧告/放射線と闘いの歴史/被曝限度の考え方/生命の危機に晒される原発労働者たち/5年後、がんに苦しむ子どもが増える/不確定な被曝影響/福島原発事故の公衆への影響/被曝影響を軽視してはならない/食品の暫定基準値は適正なのか/内部被曝最大の問題は「免疫力低下」
第4章 原子力に代わるエネルギーは何か
明確な「脱原発」の政策決定を/原発を止めても電力不足にはならない/深夜電力割引のからくり/脱原発のための3ステップ/コンバインドサイクル発電の可能性/エネルギー効率の高いコージェネレーションシステム/熱を電力に転換しない生活/まずは原子力と自然エネルギーの中間技術を/発送電分離の可能性/風力や地熱を積極的に推さない理由/「里山の再生」がエネルギー問題解決の糸口/エネルギーよりも「食糧」が問題だ