Thursday, November 20, 2014

大江健三郎を読み直す(33)歴史歪曲主義者との闘い

岩波書店編『記録・沖縄「集団自決」裁判』(岩波書店、2012年)
1970年の大江健三郎『沖縄ノート』(岩波新書)に対して2005年に歴史歪曲主義者が仕掛けた擬似歴史論争のための嫌がらせ裁判に、大江と岩波書店、そして沖縄の人々、歴史学者、沖縄戦経験者らが結集して6年間の裁判を闘い、2008年3月28日、大阪地裁で勝訴、同年10月31日、大阪高裁で控訴棄却、2011年4月21日、最高裁が上告不受理決定して決着となった。
歴史歪曲主義者との闘いのために裁判を支援する会ができ、私も会員となったが、大阪地裁での裁判のため傍聴に行くこともなく、実質的な支援に関わることが出来なかった。裁判に関わって活躍された高橋哲哉、目取真俊、奥平康弘、松井茂記、外間守善、大田昌秀、石原昌家、村上有慶、謝花直美、小牧薫、坂本昇、そして弁護団の秋山幹男、近藤卓史、秋山淳の文章が収録されている。沖縄戦における日本軍の横暴と無責任、沖縄民衆に対する差別の下で何が起きたのか。「集団自決(集団死)」とは何であったのか。経験者が長期にわたって沈黙してきたのはなぜか。歴史の扉を徐々にあけてきた調査・研究の集大成が本書である。そして、1970年に出版された有名著作に対して、2008年に名誉棄損で提訴すると言う、それだけでも異様な裁判が、実際、歴史歪曲主義者によって仕掛けられた政治裁判であったことは、提訴の時点で原告が大江の本を読んでいなかったことで、くっきり鮮明になった。背後で歴史歪曲と大江叩きのために嫌がらせ裁判を推進した勢力がいたのである。彼らの目的は歴史修正だが、それ以上に大江叩きが主眼だったのではないかと思われるのは、裁判を「支援」するかのような記事を書いていたメディアは大江を「非国民」「国賊」とまで罵倒していたからだ。
本書に大江は3つの文章を収めている。「『人間をおとしめる』とはどういうことか」「誤読・

防諜・『美しい殉国死』」「近い将来への『証言』を求める」。いずれも以前、他の形で読んだと記憶しているが、まとめて読んでみて、誤読に基づくデマ宣伝で無理やり裁判を起こしてきた破廉恥な弁護士たちへの空しい思いにとらわれながら、大いに時間の無駄を経験しつつも、裁判に向き合い、歴史の事実を明確に記録しておこうとする大江の姿勢がよくわかる。