前田朗「ヘイト・スピーチ処罰の憲法的根拠」『月刊社会民主』717号(2015年2月)
ヘイト・スピーチの刑事規制をめぐる議論では必ず「表現の自由が重要だから刑事規制はできない」という主張が登場し、憲法論としてはヘイト・スピーチ規制消極論が支配している。憲法学者の多くがこの見解である。しかし、この議論には疑問がある。これまで随所で指摘してきたが、本論文で私見の一応の整理をしてみた。
ヘイト・スピーチの憲法論を憲法21条に局限するのは不適切である。
第1に憲法の基本精神として憲法前文の平和的生存権と国際協調主義。
第2に憲法13条の個人の尊重、人格権。
第3に憲法14条の法の下の平等と非差別。
第4に憲法25条の生存権。
第5に憲法29条の経済的権利。
以上から、マイノリティにはヘイト・スピーチを受けない権利がある。これは憲法上の権利である。このことを踏まえて、
第6に憲法21条を議論するべきである。
そして、表現の自由については、2つのポイントがある。
第1に、マジョリティの表現の自由だけを論じるのは不適切であり、マイノリティの表現の自由が侵害されている現実を問うべきである。
第2に、表現の自由の歴史的教訓として、しばしば治安維持法と特高警察による抑圧が引き合いに出されえるが、それ以上に、表現の自由を濫用して侵略戦争と民族差別を煽った歴史を反省するべきである。
以上の結論として、表現の自由を守るためにヘイト・スピーチを処罰するべきである。