Friday, January 30, 2015

ヘイト・スピーチ研究文献(7)

ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会編『NOヘイト! 出版の製造者責任を考える』(ころから、2014年)

書店に並べられたヘイト本、週刊誌の見出しに溢れるヘイト、そしてヘイトデモ。日本文化の破壊状況に危機感を抱いた出版関係者が、出版人としての「製造物責任」を考えるため立ち上がった。『九月、東京の路上で』の著者・加藤直樹の講演。書店員アンケート結果。そして、弁護士の神原元「表現の自由と出版関係者の責任」、明戸隆浩「人種差別禁止法とヘイトスピーチ規制の関係を考える」が掲載されている。
神原は、ヴォルテール、ジョン・スチュワート・ミル、ホームズの思考を古典的な「表現の自由」論とし、20世紀のメディアの急速な発展により段階が変わったと見る。「巨大マス・メディアに握られた現在の言論状況では、『表現の自由』は情報の受け手の側から『知る権利』と再構成することが必要になる」として、メディアの責任を唱える。明快かつ巧みな論述であり説得的である。もっとも、古典的表現の自由の時代に本当に「思想の自由市場」論が適合的だったのかどうかはなお検証されていない仮説であろう。この点を意識させてくれた点で、神原論文は勉強になった。
140頁の新書だが内容はとても充実している。第2弾を期待したい。