大江健三郎『ゆるやかな絆』(講談社、1996年)
『恢復する家族』に続くエッセイ集で、大江ゆかりの挿画が収められたスタイルも同じ。
「絆」は家族の絆を意味しているので、内容面でも前著を継承している。ノーベル賞受賞直後の時期に書かれたため、受賞講演等に忙しく、また「最後の小説」と称して小説を書かなかった時期でもあるが、落ち着いた雰囲気のエッセイだ。長年、家族のことを家族に向けて書いてきた大江の文章の到達点と言えるかもしれない。
「黄昏の読書」3編は、これまでも言及されてきたことを取り上げているが、同じことを繰り返し繰り返し書きながら、少しづつズラしていくのも大江らしい。エッセイにも小説にも共通で、自作の引用癖はいつもと同じ。大江のエッセイを読み続けると、大江が取り上げて紹介する著作の少なさに気が付く。大量の読書歴を誇る読書人と違って、大江は限られた作品を繰り返し紹介しながら、そのたびに微妙な違いを確認していく作業を常とする。本書もその典型と言える。re-readingの愉しみ。