こまつ座の「イヌの仇討」(井上ひさし作、東憲司演出)を観た。もとの忠臣蔵と逆に吉良上野介の側から描き出す「逆・忠臣蔵」で、29年ぶりの公演だと言う。
犬公方・綱吉の時代、人よりも犬を大事にするさかさまの政道を背景に、赤穂浪士の討ち入りを受けるや、味噌蔵に隠れた吉良と臣下たちの恐怖と涙と笑いと闘いの物語。浅野vs吉良、大石vs吉良の対立構図で始まるが、やがて公方・綱吉vs 浅野・大石 vs吉良の3者対立の構図が浮かび上がる。しかし、単なる「逆・忠臣蔵」に終わらないのが井上ひさしらしさ。権力vs庶民の構図が背景にあり、権力批判の影も。しかも、最後に感動のもうひとひねり。
吉良役の大谷亮介、はじめは今一つ冴えないと感じながら見たが、それが見事な演技だった。冴えない吉良が、大石を念頭にした自問自答の格闘を経て変貌を遂げる。三田和代と彩吹真央のぶつかりあいも楽しい。
途中休憩の2幕だが味噌蔵1場のみで、場面転換がなく、10人の役者が出ずっぱりの芝居を、客を飽きさせることなく演じ続ける役者に脱帽。