週刊金曜日編『検証産経新聞報道』(金曜日)
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読売新聞と並ぶ安倍政権応援メディアの正体は何か。ジャーナリズムや報道という言葉と産経新聞との間にはどのような溝があるのか。
「歴史戦」と称して、「慰安婦」も南京大虐殺も沖縄の集団自決も、みんな事実ではないと歴史修正主義の牙城となってきた産経新聞だが、その報道内容は歪曲と誤報の山というしかない。
多くのジャーナリストや知識人は「どうせ産経だから」と無視してきたが、インターネット上の歴史認識や政治意識の変容に産経が多大の影響を与えてきた。産経の誤報がそのまままかり通る喜劇的な状況が続いている。
本書では、同紙をウォッチしてきた学者やジャーナリストが事実をもって反論する。
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能川元一「『産経新聞』の"戦歴"、「歴史戦」の過去・現在・未来」は「歴史戦」の実態を徹底解明し、間違いだらけの真相を浮き彫りにする。100頁に達する力作だ。
「誤報の産経」による重大人権侵害被害者の植村隆「「慰安婦」報道で完膚なきまでに打ちのめされた阿比留瑠比編集委員」は、自紙の報道内容すら確認せずに、他紙の記事にかみつくお粗末な産経編集委員の信じがたい幼稚ぶりを報告する。ジャーナリズムなどと言う前に、そもそもまともな知性を持っているのかどうか疑われる人物が編集委員をやっているのだから、悲惨な末路も当然のことだ。
成澤宗男「日本会議との「浅からぬ関係」」は、標題通り、日本の異様な右傾化の拠点とされる日本会議と産経新聞の親密な関係を追いかけ、報道がゆがむ原因を提示する。
斉藤正美「フェミニズム・男女共同参画へのバッククラッシュ」は、歴史認識だけでなく、フェミニズむやジェンダーに関連する産経の攻撃の無軌道ぶりをただす。
高嶋伸欣「安部政権の沖縄政策を混乱させている『産経』」も歴史認識、教科書問題を手始めに、「産経新聞愛読者」らしく、産経の迷走ぶりを徹底解剖する。
成澤宗男「どうなってんの? 続出する産経流「捏造記事」一覧」は、産経の捏造と誤報の具体例を21例掲げている。産経によると、2011年7月に中国の江沢民・前国家主席は死亡した。外国の要人を勝手に殺してしまう産経新聞。産経新聞によると、2013年10月、村上春樹がノーベル賞を受賞した。こんなデマ記事ばかり書いてきたのが産経新聞で、大いに笑える。
最後に、「『産経新聞』OB座談会」である。松沢弘以外は匿名だが、内容を見ると、実話が次々と紹介されている。ここでも笑いが止まらない。
ジャーナリズム精神なき「お笑い産経新聞」だが、それが安倍政権や日本社会に大きな影響を与えているのだから、笑ってはいられない。本書は産経新聞の闇を見事に提示してくれた。まともなジャーナリズムを再建するための第一歩である。