<被害者中心アプローチ>という言葉が日本で、いつ、どのように用いられるようになったか調べていないが、2015年の「日韓合意」に対する批判の中で、国連でも用いられていたし、挺対協(現・正義連)も、私たちも、同じ趣旨で用いていたと記憶する。
2015年「日韓合意」の後、2016年3月7日、国連女性差別撤廃委員会が日本政府に「慰安婦」問題の解決を求める勧告を出したが、そこで<被害者中心アプローチ>に言及した。
同年3月10日にはザイド・フサイン国連人権高等弁務官が、「日韓合意は国連メカニズムから、そして被害者から疑問視されている」と述べた。私のブログに書いておいた。
https://maeda-akira.blogspot.com/2016/03/blog-post_11.html
同じことを当時、9条連のニュース(2016年4月号だったと思う)に書かせてもらった。以下、全文を貼り付ける。
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9条連ニュース04「平和と人権を考える」
国際社会から批判された日韓合意
――「慰安婦」問題解決を遠ざけた愚策
前田 朗
NGO発言
本連載第1回に指摘したように、一二月二八日の日韓合意は、被害女性に相談もなく政府間の勝手な合意を一方的に公表したものであり、国際人権水準に照らして到底評価に値しない。ところが、日本政府とマスコミは日韓合意が国際社会に受け入れられたという根拠なき主張を垂れ流してきた。
三月一一日、NGOの国際人権活動日本委員会(JWCHR、前田朗)は、ジュネーヴで開催された国連人権理事会において次のように発言した。
<一二月二八日に2国間合意が発表され、慰安婦問題は最終かつ不可逆的に解決したとされた。しかし、韓国の多くの性奴隷制被害者がこの合意を拒否している。2国間合意は被害者との協議を経ていない。合意内容を示す文書が存在せず、被害者が読むこともできない。三月七日、女性差別撤廃委員会は「2国間合意は、慰安婦問題を最終的かつ不可逆的に解決したと言うが、被害者中心のアプローチを採用していない」と述べた。三月一〇日、ザイド・フサイン国連人権高等弁務官は「2国間合意は国連人権メカニズムから、そして最も重要なことに被害者自身から、疑問視されている。重要なことは、関連当局が、勇気と尊厳のある女性たちと協議することである。彼女たちが本当の救済を受けたか否かを判断できるのは被害女性である」と述べた。日本軍性奴隷制は2国間問題ではない。アジア太平洋地域で行われたので、被害者は、朝鮮民主主義人民共和国、中国、台湾、フィリピン、マレーシア、ミャンマー、インドネシア、東ティモール、パプアニューギニア、オーストラリア、オランダにもいる。>
国際人権機関の評価
1 三月七日、右で言及した女性差別撤廃委員会は、日韓合意に注目しつつ、①責任逃れをする政治家発言を指摘し、被害者中心アプローチをとるよう求め、②亡くなった「慰安婦」がいることに留意し、③韓国以外の被害者に対する国際人権法上の責務を日本が果たしていないこと、④日本が「慰安婦」問題に関する教科書の記述を削除したことにも言及した。
2 三月一〇日、ザイド・フサイン人権高等弁務官は、右に引用した通り、日韓合意が国際人権メカニズムから疑問視されていると明示した。
3 三月一一日、エレノーラ・チーリンスカ(法と慣行における女性に対する差別作業部会議長)、パブロ・デ・グリーフ(真実・正義・補償・再発防止特別報告者)、フアン・メンデス(拷問問題特別報告者)は連名で、日韓合意は国家責任に関する国際水準に合致していないと指摘した。
4 三月一一日、バン・ギムン国連事務総長は、日韓合意は国際人権原則に従って、履行されるよう望むと述べた。バン事務総長は「国際人権原則に従って」という留保をつけた。
5 三月二一日、国際自由権規約委員会は、日本政府に出した勧告のフォローアップ会議において、日韓合意の事実を確認しつつ、それが補償ではなく、教育その他では後退したとして、日本政府にさらなる情報を求めることにした。
以上のように、国際社会は日韓合意を厳しく見ている。日韓合意が国際社会に認められたというのは日本政府とマスコミ協力の誤報に過ぎない。