Sunday, January 24, 2021

刑罰権イデオロギー批判のために(1)

宮本弘典『刑罰権イデオロギーの位相と古層』(社会評論社)

https://www.shahyo.com/?p=8374

前著『国家刑罰権正統化戦略の歴史と地平』(編集工房朔)から10年、あらゆる民主的統制を弾き飛ばし、知性と人間性を侮蔑するかの如く暴走するニホン刑事司法を理論的に解体するための続編が出た。

第1章 国営刑罰の論理と心理 -国家テロルの偽装戦略-

第2章 プレ・モダンの刑法 -暴力行為等処罰法第一条「数人共同シテ」の意義-

第3章 暴力行為等処罰法の来歴 -「血なまぐさい歴史を持った法律」-

第4章 ニホン刑事司法への歴史の警告

第5章 ニホン型自白裁判の桎梏 -裁判員裁判と戦時体制下の刑事司法-

第6章 戦後刑事司法改革の蹉跌 -ニホン刑事司法の古層1-

7章 思想司法の系譜 -ニホン刑事司法の古層2-

治安維持法と闘った風早八十二、「昭和」の悪法反対闘争をリードした吉川経夫、中田直人、小田中聰樹、「平成」治安法と闘い続ける足立昌勝と内田博文に学び、自由主義と人権保障の近代民主主義理念としての刑事法原則を断固として擁護し、その回復をめざす理論を希求しつつ、歴史を遡行し現在を撃ち抜く。

「歴史の省察の欠如は『凡庸な悪』の培養器ともなる。それに併走・伴奏するのは常に政治権力の腐敗と劣化である。こうした権力の劣化と腐敗の浸潤・進行とともに統治の正統化は危うさを増し、暴力的な裏打ちによる現存価値秩序の維持に対する渇望や欲求が高まる。対内的セキュリティ強化に向けた刑事法制と刑事司法による重武装化である。高度国防国家における国内重武装化の論理は『聖戦完遂』のための『思想国防』であった。現下の危機管理国家においては、市民的安全を政治的イシューとし、市民的外装による治安強化のための対内的重武装化を権力統治の正統化根拠とする。市民的自由の圧殺・縮減の拡大を権力統治の正統化の源泉に転化するという奇妙な倒錯・転倒であり、恐ろしい逆説というべきであろう。」

共謀罪、特定秘密保護法、刑訴法改悪に始まり、死刑制度と死刑冤罪、暴力行為等処罰法を配備し、法科大学院設置、裁判員制度を点景とするニホン刑事司法の絢爛豪華な舞台装置は、良き市民による良き制度の合理的システムを聳立させる。悪意も悪人もないが、弾圧の法体系が確立している。その批判的分析が課題である。