Thursday, April 29, 2021

ヘイト・スピーチ研究文献(174)ドイツのSNS法

實原隆志「ドイツのSNS法――オーバーブロッキングの危険性について」『情報法制研究』第4号(2018年)

はじめに

 法律の主な内容

 ドイツ国内の反応

 過料基準

 検討

おわりに

ドイツは2017年にSNS事業者に行政責任を課すSNS法を制定した。實原はSNS法を紹介した上で、特に表現の自由に対する萎縮効果に関連してオーバーブロッキングの問題を検討する。

インターネット上で営利目的で運営されているプラットフォームの一部について規制が及ぶ。ただ専門ポータル、オンライン・ゲーム、売買マーケットサイトが除外され、ジャーナリスト的なものも適用除外とされる。個人的なものも除外である。国内において200万人未満の利用登録しかない事業者は法2条による公表義務などを免除される。

事業者の義務としては、違法な内容についての苦情を処理する手続きを設けなければならない。「違法な内容」とは「国民の煽動や宗教団体等の侮辱など」であり、ヘイト・スピーチ規制と関連する。明らかに違法な場合は24時間以内に、違法な内容については原則として7日以内に隔離・遮断しなければならない。つまり削除義務である。

また「規制付き自主規制」の機関に判断を委託することができる。事業者は自主規制機関に依頼して判断してもらい、自主規制機関が違法と判断した場合に隔離・遮断すればよい。自主規制機関が違法と判断しなければ隔離・遮断してはならない、という。

事業者が義務に違反すると、故意又は過失があれば過料の対象となる。最大で500万ユーロだが、法人の場合には最大5000万ユーロとなる。

「以上のように、SNS法は一定規模以上の事業者に対して、利用者からの苦情を受け付けたうえでその妥当性を審査し、法律で列挙されている刑法の規定に反する内容を含む投稿を削除するよう求める。そしてそれらの状況を定期的に公表しなければならない。苦情申立制度を設けていない場合や、削除を検討するための仕組みを設けていない場合、また苦情の処理状況の公表を怠っている場合には罰則が科せられ、法人には最大で5000万ユーロの過料が課される可能性がある。」

實原はドイツ国内での法に対する批判を紹介し、次いで反論を紹介することで、法律の特徴を浮き彫りにする。さらに、20183月に連邦消費者保護省が過料を確定させるための基準(過料基準)を公表したので、その内容を紹介して、過料基準に対する批判も紹介する。

それらを踏まえて、實原はSNS法について検討する。實原は「SNS法の規定では不明確だった部分が過料基準という行政規制を通じて明確化されたとしても、議会が定めた法律の不明確性という問題がなくなるわけではない」という。

 實原は「20183月に過料基準が示され、それには様々な意義があるといえる一方で、SNS法に対する批判の中で示されていた懸念、特にオーバーブロッキングの危険性は依然として残されていると言わざるを得ない」と結論付ける。

 以上が實原論文のごく簡潔な紹介である。インターネット上のヘイト・スピーチの法規制の一つのモデルを提供するドイツSNS法の内容がよくわかり、それに対する批判と反論も書かれているのでためになる論文である。

 ただ實原は「日本において得られる示唆については検討できなかった」という。日本のプロバイダ責任制限法といきなり対比することができないからだ。というのもドイツではヘイト・スピーチは刑法違反の犯罪とされている。それが前提となっている。議論の前提が異なるため、いきなり比較しても結論が得られるわけではない。とはいえ實原は「今後の課題としたい」と述べている。

ここが一番知りたい部分であるので、続稿を期待したい。