池上英洋『官能美術史――ヌードが語る名画の謎』(ちくま学芸文庫、2014年11月)
池上英洋『残酷美術史――西洋世界の裏面をよみとく』(ちくま学芸文庫、2014年12月)
相次いで出版された、書きおろし姉妹兄弟篇の2冊。『官能美術史』の表紙はジュール・ジョゼフ・ルフェーブル<洞窟のマグダラのマリア>、『残酷美術史』の表紙はアルテミア・ジェンティレスキ<ホロフェルネスの首を斬るユディト>。
『官能』では、ヴィーナス、神話の世界、ピュグマリオン、ファム・ファタル、ポルノグラフィー、同性愛、近親相姦などさまざまなテーマに即して論じている。ボッティチェリ、ブグロー、カバネル、ヴェチェッリオ、アングル、ジェローム、サンツィオ、ブロンツィーノ、ガローファロ、ジョルジョーネ、プッサン、マネ、ルフェーブル、デュラン、スプランヘル、パルミジャニーノ、コレッジョ、クリムト、フュースリ、ベルニーニ・・・200点以上、西欧美術の世界を彩るヌードが満載されている。
『残酷』では、神話の世界、聖書の裏面、地獄とハルマゲドン、殉教者、キリストを売った男、拷問と処刑、サバトの狂宴、殺人と戦争、ペスト、梅毒などのテーマを取り上げている。ルーベンス、ルシエンテス、ヴァザーリ、イルマシェ、ロンバウツ、カラヴァッジョ、モロー、ジャンボローニャ、カザーリ、コクシー、プッサン、レーニ、マザッチョ、グリューネヴァルト、ホルバイン、ヴァンニーニ、ジェンティレスキ、ミケランジェロ、エルスハイマー、ボナ、ドラロシュ、ゴッホ・・・やはり200点以上、残酷美術の名画が勢ぞろい。
西洋美術史を「官能」や「残酷」という切り口で読み解く意欲的な2冊である。西洋文明の光と影を知ることができるし、人間の裏面も見えてくる。性表現と暴力表現を現在どのように考えるべきかの素材としても有益だ。
それにしても著者は猛スピードで著書をだし続けている。ごく最近でも『恋する西洋美術史』『イタリア 24の都市の物語』『ルネサンス 歴史と芸術の物語』『ルネサンス 三巨匠の物語』『神のごときミケランジェロ』『西洋美術史入門実践編』『死と復活』である。スピード違反じゃないか(苦笑)。