Thursday, April 02, 2015

ヘイト・スピーチ研究文献(12)本邦初の法律専門書

前田朗「ヘイト・スピーチ規制の可能性を論じる――7人の執筆者による本邦初の法律専門研究書。金尚均編『ヘイト・スピーチの法的研究』法律文化社、2014年」『図書新聞』3200号(2015年)

<一部抜粋>
本書を出発点とする研究課題をいくつか確認しておこう。

第1に、被害から議論を始めることの重要性である。被害論抜きの議論がいまなお横行しているのに対して、遠藤も中村も被害から出発し、金と櫻庭は被害論を法的に再構成しようとする。今後は被害の実態調査や意識調査を積み重ねる必要がある。

第2に、憲法論である。遠藤はヘイト・スピーチと憲法9条の関係を問う。評者は、憲法論として次の5点を掲げてきた。①解釈の基本原理として、憲法前文の平和主義と国際協調主義、②憲法13条の人格権、③憲法14条の法の下の平等、④憲法21条の表現の自由と憲法12条の「権利に伴う責任」、⑤マイノリティの表現の自由――評者は以上の帰結として「表現の自由を守るためにヘイト・スピーチを処罰する」と主張してきた。遠藤の「憲法9条とヘイト・スピーチ」という視角は評者の問題意識とかなりの程度重なっている。

第3に、憲法学の内在的検討である。小谷はアメリカやカナダの比較法研究を手掛かりに、憲法解釈における分岐の位相と論理を解明する作業に着手している。まだ憲法学の内在的検討に立ち入っていない評者には、スリリングな思いで楽しく読むことができた。さらなる展開を期待したい。


第4に、刑法論の構築である。ヘイト・スピーチの刑事規制を論じるためには、法的定義、保護法益、犯罪成立要件、刑罰を明確に提示し、手続的観点での検討も加えておかなければならない。これからの課題であるが、金と櫻庭が開拓者として理論的営為を積み重ねている。