Thursday, March 21, 2019

赤十字の刑務所展


国際赤十字(ICRC)の博物館は、常設展と企画展だった。

常設展「人道主義の冒険」は、赤十字の由来、活動の主な内容に関する資料、証言などの構成。何度か組み替えたり、新たに加わっているが、基本的には赤十字の歴史なので基本はずっと変わらない。

ソルフェリーノの戦いにおけるアンリ・デュナンの活動、その後の赤十字結成、赤十字旗の由来、第一次大戦における名簿カードとメッセージカード、第二次大戦を経て、ルワンダ・ジェノサイドにおける写真カード、そしてコンピュータによる情報管理に至る救援活動の基本。世界的組織とは言え、やはり元は欧州中心なので、朝鮮戦争やヴェトナム戦争はほとんどでてこない。

証言は、戦争や地震や飢餓の中で、難民となった人物、救援活動に加わった人物、国際刑事裁判所に訴追する役割を果たした人物などの証言。3.11以後、東北地方で遺体の歯を調査し、身元情報を確認し、遺体を家族の元に送る作業をすすめた歯科医の証言もある。9カ国語の解説があり、日本語もあるので便利。

企画展「刑務所」は、文字通り「刑務所とは何か」の展示だ。
真っ先に、ベンサムのパノプティコンの図版と解説があり、イギリスやフランスの古い刑務所の写真や図面が展示されている。一望監視装置による被収容者管理の思想が分かりやすく示されている。日本の刑務所も、府中、横浜、千葉など、以前はみな同じスタイルだった。

次に刑務所における処遇と生活の様子だ。

とても興味深かったのは、「刑務所の音」だ。舎房のモデル室に入ると、無機質な壁と床のみで何もない空間だが、音響が流れる。物がぶつかる音、金属音、誰かの呟き、意味不明の叫びが入り交じった雑多な音だ。うるさい。これが、はじめて収容された受刑者が耳にする音。一般生活の中での生活音との違いがわかる。

もっとも、日本の刑務所は違うかもしれない。ここ30年ほど、国際人権法の世界に報告されてきたように、日本の刑務所のキーワードは静寂と沈黙だ。音を立てない静かさ、会話を禁じられた世界。懲役囚の工場での作業は別として、舎房では静寂が求められる。

展示は、刑務所暴動のコーナーもあった。他方、刑務所内暴力も、まずは拷問被害者の写真と拷問用具。政治犯に対する厳しい処遇。また、女性収容者に対するレイプ。

他方、被収容者の工作やアート作品も展示されていた。最後に修復的司法の解説があった。刑務所展は英語とフランス語のみ。

入り口に戻って売店を見ると、デュナンや赤十字の本と並んで、ミシェル・フーコーも売っていた。